イスラム原理主義組織・ハマスがイスラエルへの奇襲攻撃を実施して以降、イスラエル軍による過剰防衛とも言えるガザ地区への空爆が強化され、戦況は悪化の一途を辿っている。

緊張激化から1ヶ月が経過するが、イスラエルへの非難的な風当たりが諸外国から広がるものの、ネタニヤフ政権はハマス殲滅を目的とした攻撃を弱める姿勢を変えない。
イスラエルに出口戦略も見えない中、攻撃だけが長期化し、犠牲者の数だけが増えていくという負のスパイラルが続きそうな様相だ。
イスラエルに進出する日本企業への影響
一方、緊張激化から1ヶ月が経過し、日本企業にはどのような影響が出ているだろうか。
現在のところ、現在の緊張が局地的なものであることから、石油市場に大きな影響は出ておらず、影響を受けているのはテルアビブなどイスラエルに進出する日本企業くらいかも知れない。

筆者は、海外に進出する日本企業向けに地政学リスクの視点からアドバイス業務に携わっているが、いくつかの企業から駐在員の退避や社員のイスラエル出張などで相談を受けた。
当然ながら、現在の情勢は駐在員の安全に影響を及ぼす恐れがあるので、テルアビブに戦況が拡大していないにしても早期の退避を提言し、そういった企業は既に退避を完了している。また、出張についても、緊張が長期化する可能性もあるので、それは控えるべきことも呼び掛けた。
そして、中東の他の国々に進出し、駐在員を置く企業の懸念も少ないわけではないが、現在の戦況がサウジアラビアやUAE、カタールなど中東全体に影響が拡大する可能性は低いことから、過剰に反応する必要はなく、現時点で退避などを進める事態ではないと提言している。
無論、親イランの武装勢力がレバンやイエメン、イラクやシリアなどに存在する。そういった勢力が反イスラエル的な行動をエスカレートさせ、過去にはインドやタイ、ブルガリアやアルゼンチン、ジョージアなど各国でイスラエル権益を狙ったテロ事件(未遂含む)が発生しているので、中東各国にあるイスラエルや米国の権益には近づかない、長居しないよう呼び掛けている。
イスラエル企業との関係には要注意
しかし、現在の緊張が長期化することになれば、人権デューデリジェンスの観点から、日本企業には1つ注意すべきことがあろう。それはイスラエル企業との関係だ。
イスラエルは中東のシリコンバレーとも呼ばれ、先端技術で世界の先端を走り、イスラエルに進出する日本企業、イスラエル企業と関係を持つ日本企業の数は増加している。近年は、成田とテルアビブを結ぶ直行便も飛んでいる。
だが、今回の戦闘によって反イスラエル的な感情はイスラム諸国だけでなく、欧米諸国でも広がっている。イスラエル企業やイスラエルを支持する欧米諸国の製品を買うなとする不買運動も、一部ネット上で広がっている。

既に、エジプトやトルコなどのイスラム諸国では、欧米はイスラエルを支持しているとして、欧米企業が製造する飲食類、衣類などが店頭から撤去され、取引を中止する地元スーパーもみられる。トルコ議会は最近、イスラエルとイスラエルを支持する企業の製品を国内のレストランやカフェなどから排除すると発表した。

今回の件で、日本は欧米と足並みを揃えているわけではない。
しかし、一部ネット上では、イスラエルを直接支持していなくても、イスラエル軍や警察に製品を提供している、イスラエルと繋がっているなどとして、三菱自動車やソニー、トヨタなどが名指しされたことがある。
戦闘の長期化に伴って、イスラエル企業と関係を保つことによるレピュテーションリスクには注意を払うべきだろう。
無論、現時点でイスラエルに進出する、イスラエル企業と関係を持つ企業が脱イスラエルを進める段階ではない。
しかし、インドネシアやマレーシアなどイスラム教国に進出している日本企業も多いので、イスラエル企業と関係を保つことで、イスラム教国との関係に摩擦が生じてくる可能性もあろう。
日本企業としては、人権デューデリジェンスの視点から、今後のイスラエル情勢の行方を注視していく必要がある。
【執筆: 和田大樹】