アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議に合わせて、まもなく現地時間の15日に首脳会談に臨む。対面での首脳会談は2022年11月にインドネシアのバリで行われたG20サミット以来、1年ぶりだ。

初めて対面で会談したバイデン大統領(右)と習近平国家主席(2022年・バリ島)
初めて対面で会談したバイデン大統領(右)と習近平国家主席(2022年・バリ島)
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今年2月にアメリカ本土上空に飛来した中国の偵察気球が米軍機に撃墜されて以降、両国の緊張は高まり続け、アメリカメディアは「1972年(ニクソン訪中)以来で最も緊張」とも報じている。両首脳の会談が関係改善につながるのかどうか、世界の注目が集まっている。

米上空現れた中国の“スパイ気球”
米上空現れた中国の“スパイ気球”

「マイナスからゼロに」1年前に両国関係は戻れるのか?

今回の米中首脳会談では、二国間関係のほか、半導体を始めとする経済・貿易での対立や、安全保障、台湾海峡を巡る問題、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘、北朝鮮をめぐる問題、ロシアによるウクライナ侵攻など、世界的な問題も議論する見通しだ。

注目されるのは米中両国が衝突に発展しないための競争管理の実現、そして意思疎通の強化につながるかどうかだ。

アメリカ政府高官は会談について「我々は中国と競争関係にあるが、対立や新たな冷戦を望んでいるわけではない。責任を持ってこの競争を管理することを望んでいる」と強調する。中国を競争相手としつつも、利害が一致する分野での協力や関係の安定化は、アメリカの国益となるとの考えだ。1年前のバリで行われた米中首脳会談後、バイデン大統領も同じ言葉を使っていた。前回の会談はおよそ3時間にわたって行われたが、今回も同様の会談時間が想定される。

前回の米中首脳会談(2022年)
前回の米中首脳会談(2022年)

両首脳は古くからの友人関係にあり、大きな関係改善を期待する声もある一方で、会談の成果は、何よりも両国の関係が平常に戻ることにあり、劇的な関係改善には繋がらないとの見方もある。あるアメリカ政府関係者は「去年のバリ島での会談で米中関係は、マイナスがゼロに戻った。そして、今年またマイナスになった関係をゼロに戻せるかだ」と語る。

米政府が強い意欲 軍同士の対話再開へ

米政府が会談を通じての合意に強い意欲を示しているのが、米中間で中断している軍同士の対話再開だ。米中間の軍同士での対話は去年8月、ペロシ下院議長の台湾訪問に中国が反発して中断している。中国軍は、南シナ海や東シナ海で威圧的な行為を繰り返していて、アメリカ国防総省は2021年の秋以降、中国軍機が南シナ海や東シナ海で、米軍機に異常接近などした件数が180件に以上になると警鐘も鳴らし、動画や画像も公開して中国を非難している。

台湾を訪問したペロシ米下院議長(当時・左)(2022年8月)
台湾を訪問したペロシ米下院議長(当時・左)(2022年8月)

両国の軍同士でのホットラインの欠如は、偶発的な衝突に発展しかねず、アメリカ側は早期再開を求めてきた。バイデン大統領の側近であるサリバン大統領補佐官は13日、「アメリカ国民のために重要な優先事項」と述べて、対話再開が合意に向けて最終調整に入っていることを強調した。また、首脳会談ではAIの軍事利用に関する制限でも合意に向けて調整が進んでいる。

米中の二国間関係以外の外交問題にも注目が集まる

イスラエルとハマスの戦闘が続く中で、ハマスを支援するイランについて両首脳がどのような言及をするのかに注目が集まる。

アメリカとしては、イスラエルとハマスの戦闘を、中東地域全体に波及させないことを繰り返し訴えている。しかしシリアやイラクでは、イランが支援する組織による米軍関連施設への攻撃が相次ぎ、アメリカも対抗でシリアのイラン革命防衛隊の施設に空爆を行っている。サリバン氏は「バイデン大統領は習主席に、イランが中東全域の安定を損なうような不安定化させるようなエスカレートした行動をとることは、中国にとって利益にならないという点を指摘するだろう」として圧力をかける方針も示している。

中国はイランとの関係が深いとされ、習主席の発言に注目が集まる可能性もあるが、一方でどこまで具体的な行動を取るのかは未知数だ。

イランの最高指導者・ハメネイ師は攻撃への関与を否定したが、ハマスを称賛(テヘラン・10月10日)
イランの最高指導者・ハメネイ師は攻撃への関与を否定したが、ハマスを称賛(テヘラン・10月10日)

また、台湾海峡をめぐる問題も焦点だ。2024年に台湾総統選挙を控えるなか、一部専門家からは、この会談でバイデン大統領が「台湾の選挙に中国が干渉しないよう警告する可能性」を主張する声も挙がっている。バイデン政権としては「1つの中国」の方針に変わりはないと、台湾の独立を支持しない考えを繰り返し訴えているが、激しい応酬が繰り広げられる可能性がある。

さらに、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮問題、経済・貿易を巡る問題にも多くの時間が費やされることも想定される。冷え込んだ両国の関係改善によるメッセージは、各国に与える影響は少なくない。

習近平主席の思い出の地?大豆も爆買い

米中首脳会談の15日開催という日程は発表されているものの、14日現在、開催場所はサンフランシスコ近郊とだけ伝えられ詳細は公表されていない。ただ、現地メディアはサンフランシスコ中心部から南に40キロほど離れた、豪華な邸宅や庭園もある博物館で行われると報じている。

詳細がまだ公表されない理由として関係者は、安全保障上の配慮とともに、会談の見せ方にも相当苦慮しているようだ。習氏をどのようにバイデン大統領が迎えるのか。そして首脳2人が会談する様子を、どのように演出するのかという点で、相当に細かい調整が行われていることも理由としている。

サンフランシスコとオークランドベイ・ブリッジ
サンフランシスコとオークランドベイ・ブリッジ

アメリカメディアによれば、サンフランシスコは習氏にとって中国以外の国を初めて訪問した“思い出の地”ともされている。

習氏がまだ無名だった1985年、アイオワ州に農業視察団として訪れた際、立ち寄った場所としても知られているからだ。習氏はこの視察で、農場見学や、ボートの乗船、アメリカ人家庭にホームステイしたとしている。

当時交流があった人達が、サンフランシスコで開かれる習氏主催の晩餐会にも招待されたといい、およそ40年前の習氏の訪米が今回の米中首脳会談での緊張緩和に花を添える可能性もささやかれている。

さらに、中国側がアメリカ産の大豆を300万トン以上“爆買い”したことで、中国側も、「中国はアメリカにとって良い貿易相手国」とのイメージを前面に出して、米中関係の改善のシグナルを出しているという専門家の声も挙がっている。

アメリカの大豆畑(カンザス州)
アメリカの大豆畑(カンザス州)

APECの会場となるサンフランシスコは、「It All Starts Here(すべてはここから始まる)」というスローガンを発表した。背景には麻薬の蔓延や、治安悪化による大手企業の徹底などで傷ついた街のイメージの復活があるが、今回の米中首脳会談にこの言葉を重ねてみる向きも強い。

両首脳は会談で何を語り合うのか。世界が注目する首脳会談がまもなく始まる。

(FNNワシントン支局 中西孝介)

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。