11月3日~5日にフィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第3戦、フランス大会が行われ、日本男子では鍵山優真は3位、島田高史郎10位、片伊勢武アミン12位。女子では住吉りをん3位、樋口新葉が5位、千葉百音9位で終えた。

3位の鍵山優真は今回のフランス大会、2季ぶりのGPシリーズとなった。

SPではノーミス演技で97.91点を叩き出し、今季日本人トップの点数で3位スタート。FSでは冒頭の4回転サルコウを余裕を持って決めると、4回転トゥループからの連続ジャンプも決め、どちらも出来栄え点(GOE)3点台がついた。

しかし、トリプルアクセルが抜けて1回転に。3回転ルッツでも着氷でバランスを崩してしまった。

それでもスピン、ステップでは全てレベル4を獲得。久しぶりのGPは3位で終えたが、完全復活への兆しがみえた。

LAで磨きをかけた去年から引き続きのSP

そんな鍵山だが、昨シーズンはケガに苦しんだ。

北京五輪銀メダル、世界選手権2大会連続銀メダルと実績は申し分ないが、去年7月に左足を負傷し、9月下旬までジャンプの練習ができない状態が続いていた。

昨シーズンはGPシリーズ2戦を欠場することにし、前向きにトレーニングに励んできた。

8位で終えた2022年の全日本で悔しそうにする鍵山
8位で終えた2022年の全日本で悔しそうにする鍵山
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そんな万全ではない中でも、鍵山は全日本選手権の出場を決め、結果8位で昨シーズンを終えた。

全日本の試合後、鍵山はこう語っている。

「ケガは自分の責任だと感じているので、過去の自分を責めることはできないですけど、これからにつなげていくことはできる。もっと自分のコンディションを整えて、来シーズンに向けてケガを直していきたい」

そして今年5月、鍵山はアメリカ・ロサンゼルスを訪れた。

今シーズンも引き続きのSPは、去年ロサンゼルスで振り付けた。2年連続となったロサンゼルスの訪問は、去年仕上げたSPのブラッシュアップのためだ。

振付師のシェイ=リーン・ボーンと会話する鍵山
振付師のシェイ=リーン・ボーンと会話する鍵山

海外での振付を鍵山は「前回はプログラムをイチから作るという工程で、今年は作っているものをブラッシュアップするという形でした。

ショートの練習をしている中で、自分がやりにくい、ちょっとキツいと感じる部分があったのと、(振付師の)シェイ=リーン・ボーン先生から『変えた方がいい』と言われたところを良い形に作り直してもらっています」と、プログラムに磨きをかけていると語った。

今シーズンは「トップを獲る」

2022年の全日本を終えてから、鍵山は試合に出場していない。

その間はリハビリやトレーニングに励んでいたという。

「全日本が終わってから3カ月くらい滑れなくて…。その間はずっとケガを治すためにリハビリやそのほかのトレーニングをやっていました。

3月初めくらいから少しずつ滑ることができるようになってきて、そこから最初は軽めにスケーティングだったりをして、少しずつジャンプもできるようになってきて、今日は4回転を久しぶりに降りることができたので、順調に来ていると思います」

ロサンゼルスで今シーズンの意気込みを語ってくれた鍵山
ロサンゼルスで今シーズンの意気込みを語ってくれた鍵山

ケガのために思うようなシーズンを過ごせなかった鍵山は「去年1年間は何もできなかった悔しさがあるので、今シーズンは全試合に出て、全部の試合で“トップを獲る”という強い気持ちでしっかりと演技ができたら」と意気込んだ。

今シーズンの鍵山のプログラム、SPはロサンゼルスで振付した力強さとロックが特徴で去年から続く「ビリーヴァー〜Beliver〜」。フリーは「Rain,In Your Black Eyes」でSPとは真逆の曲調になっているという。

そして、新たな決意とともに鍵山の新シーズンが始まった。

スケーティング向上を狙い依頼

今シーズン、鍵山にとっての初戦は9月のロンバルディア杯。2022年の世界選手権以来の国際大会となった。

そのロンバルディア杯は、2026年のミラノ・コルティナ五輪が行われるイタリアで開催された。

この大会の数日前、鍵山は大きな決断をしていた。

鍵山はカロリーナ・コストナーをコーチに迎えた
鍵山はカロリーナ・コストナーをコーチに迎えた

これまで父・正和さんと二人三脚で歩んできたが、ソチ五輪銅メダリストのカロリーナ・コストナーさんを新たにコーチとして迎えた。

この決断は鍵山にとっての大きな転換点となり、五輪メダリストとのタッグで更にギアをあげていくことになりそうだ。

現役時代のカロリーナ・コストナーさん(2012年、世界選手権)
現役時代のカロリーナ・コストナーさん(2012年、世界選手権)

コストナーさんがコーチに就任した経緯について鍵山はこう語る。

「もともとローリー・ニコルさんとフリー振付のタッグを組んでいて、そこにコストナーさんもアシスタントのような感じで一緒にやる機会が増えて。

スケーティングやもっと細かいところを見てもらいたかったりしたので『お願いします』と言ったら受け入れてくれました」

鍵山自身もそして父・正和さんも、“イタリアの至宝”と呼ばれたコストナーさんの力が必要だと感じ、今回のタッグが実現したのだという。

イタリアでカロリーナ・コストナーをコーチに迎えた経緯を語る鍵山
イタリアでカロリーナ・コストナーをコーチに迎えた経緯を語る鍵山

今までは父親と2人でさまざまなことを乗り越えてきたが、そこに複数回の五輪出場経験を持つコストナーさんが加わることについて「本当に心強い」とうなずく。

「父もコストナー先生もどちらもスケート選手だったので、僕の気持ちもわかってくださるので本当に心強い」

ロンバルディア杯の前に実際にコストナーさんに教えてもらった感想を「小さな動作でもすごく美しく表現している。僕は小さな動きをやるとただ小さくなってしまう。

目線の動かし方もすごく美しくて、そういった表現も目指しているので、もっともっと美しさを手に入れられるように頑張りたい」ともっと吸収していきたいと語った。

コストナー「偉大なアーティストになれる」

コーチを引き受けたコストナーさんは鍵山の第一印象を「真っ先に目を奪われたのは氷上での流れるような動きでした。

滑らかにブレードを滑らせ、非常に効率的に身体を使えていました。そんなスケーターはめったにいないので彼は特別だと感じました」と語り、絶賛した。

鍵山の可能性を語るカロリーナ・コストナーさん
鍵山の可能性を語るカロリーナ・コストナーさん

「優真はまだ若いので、技術面はもちろん表現力やメンタル面でも伸びしろはあります。全方向で大いに伸びる可能を秘めています。私が担当するスケーティング技術、美的側面も、ここ最近みるみる上達しています。

彼はアーティストとしても独特の目を持っていますし、自分の動画を見ながら自己診断・分析をし、自ら『こうすればもっと良くなるのでは?』と提案します。もっと上手くなりたいと思う気持ちが何よりも(成長には)不可欠です。彼は真に偉大なアーティストになれると思います」

氷上でコストナーさんから指導を受けた鍵山
氷上でコストナーさんから指導を受けた鍵山

コストナーさんは「自分の経験を彼と共有できたらいいなと思います。私はスケーターとして15年もハイレベルな場所で競技をしてきました。

さまざまな国で世界有数のコーチに師事し、“こうすればうまくいく”ということも体得しました。私なりの経験を共有して考えを伝え、選手としても人としても彼の成長をサポートしていく」と語る。

氷上練習で楽しそうに笑う鍵山とコストナーさん
氷上練習で楽しそうに笑う鍵山とコストナーさん

「目の前のハードルをひとつずつクリアして行ってほしいです。人生は山あり谷ありですからね。苦しい時に遠くの大きな目標を見据えることは簡単ではありません。

去年の彼から本当にうまく再起しました。アスリートにとって彼のように大きな目標を持つことは不可欠です。彼が自身の最高バージョンに到達できることを切に願っています」

コストナーという心強いサポートを迎え、鍵山は1年半ぶりの復帰戦、国際大会に出場した。

新チームは「僕が成長するため」

鍵山はSPで91.47点を出して首位に立つと、FSでは冒頭の4回転サルコウで出来栄え点(GOE)3.67点を獲得。表現力にもさらに磨きがかかり、演技構成点も全項目で9点台を叩き出した。

合計265.59点の圧巻の優勝となった。

ロンバルディア杯に出場した鍵山
ロンバルディア杯に出場した鍵山

復帰戦で優勝を手にした鍵山だったが、納得のいく演技ができなかったと悔しそうに振り返る。

「正直言うとめちゃくちゃ悔しいです。久しぶりの国際試合でやっぱりみなさんに見せる姿は、“完全にノーミスのプログラム”とイメージしていたんですけど、ショート・フリーともにミスが出てしまったことがすごく悔しくて。同時にまた早く練習したいなっていう気持ちが今、いっぱいです」

ロンバルディア杯で優勝した鍵山
ロンバルディア杯で優勝した鍵山

「本当に僕が成長するためのこのチームだと思う。今シーズンは本当に世界選手権まで見据えているので、少しずつ小さな階段をのぼりながらになりますけど、目の前にある小さな目標をしっかりとクリアしていって全日本、世界選手権までには自信を持ってプログラムに臨めるようになりたいです」

鍵山が目指す、全日本選手権と世界選手権につながるのが、地方ブロック大会だ。

鍵山は9月に開催された東京選手権に出場し、合計284.75点を出す、会心の演技で優勝した。

この試合には、幼い頃からともに切磋琢磨してきた仲で「関東卍ボーイズ」と呼ばれた佐藤駿、三浦佳生も出場。その中でも安定感抜群の演技を披露し、氷上ではガッツポーズが飛び出した。

オリンピックメダリストの舞に、会場に詰めかけたファンも総立ちに。

西日本学生選手権大会で優勝した鍵山
西日本学生選手権大会で優勝した鍵山

さらに、10月22日に行われた西日本学生選手権大会にも出場。フリーのみで争われ、198.06点で優勝した。

立て続けの試合に「体力もしっかりついてきて良い演技ができた」と調子の良さと手応えを感じていた。

今年の5月に20歳になった鍵山。

ケガから復帰し、新たなコーチを迎えるなど自身を取り巻く環境も変化している。

「自分の行動に責任感を持って一日一日を過ごしたいのと、スケートではいろんな表現ができるように。ジャンルにとらわれず、いろいろな選択肢がふえるように、もっと勉強して新しい自分を見せたい」

コストナーの芸術的な表現が伝授される、鍵山優真の復帰シーズン。

「みなさんが安心してみていられるようなスケーターになることが一つの目標ですし、GPシリーズや世界選手権にしっかり出場してトップを目指したい」と意気込んだ。

全日本までの道の詳しい概要はフジスケでhttps://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/index.html
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フィギュアスケート取材班
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