静岡県内でも有数のイセエビの水揚げ量を誇る南伊豆町。ただ、近年は水揚げ量が減少し続けている。2023年も9月に漁が解禁されたものの深刻な状況が続いていて、関係者は頭を悩ませている。

不漁…漁師は嘆き 水揚げ量は急減

「ひどい。全然ダメ」

この記事の画像(9枚)

県下有数のイセエビの水揚げ量を誇る南伊豆町。2023年も9月16日から漁が解禁されたが、漁師・熊澤智久さん「昔は20kg、30kgかかったんだけれど、今年はひどい。(取材した日は)5kgあればいいんじゃないかな。かつては“エビ団子”と言って本当にエビがたくさん網から出てきたのに」とため息をつく。

漁師・熊澤智久さん
漁師・熊澤智久さん

近年、南伊豆町におけるイセエビの水揚げ量は急激に落ち込んでいて、2015年からの6年だけで半減。2021年は20トンを割り込んだ。熊澤さんの妻・栄さんも「ここ4~5年は“エビ団子”が無いなぁ」と証言する。

とはいえ、その2015年が豊漁だったかと言えば最盛期と比べて半分ほどだ。漁師の数も減っていて、石廊崎地区でイセエビ漁をしているのはわずか2軒だという。

観測史上最長の”黒潮の大蛇行”

不漁の原因として考えられているのがイセエビのエサとなる海藻が育っていないこと。そして、それは“黒潮の大蛇行”による影響が大きい。

“黒潮の大蛇行”とは、本来は日本の南岸に沿って流れる黒潮が紀伊半島沖から大きく迂回して流れる現象のことを指し、県水産・海洋技術研究所 伊豆分場の長谷川雅俊 主任博士は「黒潮が大蛇行すると静岡県の沿岸に黒潮が近づくことになり、その影響で沿岸の水温が高水温になる。一般的に低水温の方が海藻は育ちが良くなるので、高水温になると海藻の生育が悪くなる」と指摘する。

気象庁によれば、黒潮の大蛇行は観測記録が残る1965年以降6回発生しているが、2017年8月から現在に至るまで続いている大蛇行は過去最長で、長谷川 主任博士は「『いつ戻るか』という予測については現在のところわからない。まだ大蛇行が解消する兆候が見えていない」と話す。

長谷川雅俊 主任博士(県水産・海洋技術研究所 伊豆分場)
長谷川雅俊 主任博士(県水産・海洋技術研究所 伊豆分場)

そして、もう1つ困った問題がある。元々“共食い”の習性があることで知られているイセエビ。エサが少ないことが影響してか、水揚げされたばかりのイセエビが生簀の中で他のイセエビを食べてしまうことが増えているといい、伊豆漁協南伊豆支所 販売課の山本浩平 課長は「海藻が少なくなって貝類が減るなど、食物連鎖が上手くいっていない印象を受ける」と嘆く。

山本浩平 課長(伊豆漁協南伊豆支所 販売課)
山本浩平 課長(伊豆漁協南伊豆支所 販売課)

当然のことながら攻撃を受け傷ついたイセエビは売り物にならない。ただでさえ水揚げが少ない上に“共食い”が頻発してしまえば提供できるイセエビの数にも影響が出てくる。

大盛況の伊勢えび祭り しかし…

こうした中、南伊豆町では恒例の「伊勢えび祭り」が始まった。イセエビを堪能できる1泊2食付きの宿泊プランが5000円引きとなる大盤振る舞いのキャンペーンで、用意された1000人分の予約枠は受付開始から5分経たずに売り切れとなる人気ぶりだ。

一方で、山本課長は「注文を受けたらすぐに用意出来てということは当たり前だったが、そういう状況にはなっていない、いま現在」と頭を抱える。

季一遊・高橋健次 支配人
季一遊・高橋健次 支配人

弓ヶ浜温泉にある旅館・季一遊も「伊勢えび祭り」に参加していて、期間中については何とかイセエビを確保するめどが立ったというが、高橋健次 支配人「『新鮮で美味しい』と『甘みが非常にある』とかお客様には非常に喜んでもらっているので、早く戻って来てくれることを切に願っている」と口にする。

先の見えないイセエビの不漁。不安の募る状況が続いている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
テレビ静岡

静岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。