2019年の東日本台風で被災しながらも、復旧を果たした宮城県南と福島県をつなぐ「阿武隈急行」。その後も災害や新型コロナの影響でここ数年、経営が悪化している。宮城県などは検討会を立ち上げ経営改善策を議論しているが、まだ結論に至っていない。
被災から4年。住民たちの生活に欠かせないローカル線は、新たな岐路に立たされている。
被災した第三セクター
宮城県の槻木駅と福島県の福島駅を結ぶ阿武隈急行。宮城県と福島県、沿線自治体が出資した第三セクターとして経営されている。
宮城県最南端の町・丸森町。町を走る列車は阿武隈急行だけだ。利用者からは「無くなると大変」「災害で使えなくなったときは、JRの駅まで車で行って、そこから列車で移動した」などといった声が多く聞かれた。地域の住民にとって阿武隈急行が貴重な交通手段の一つであることは間違いない。
阿武隈急行は2019年の東日本台風で、一部の駅に土砂が流入するなど甚大な被害を受けた。被害額は約11億円にのぼり、全線再開には1年あまりの時間を要した。
阿武隈急行の新関勝造専務は、「復旧できるのかと思うぐらいひどい状況だった」と当時を振り返る。そんな中でも、多くの地域住民や利用者からかけてもらった励ましの言葉を胸に、社員一丸で一日も早い復旧を目指し、取り組んできたと話す。
しかし、その後も災害は続いた。2021年2月には、福島県沖地震で約9000万円の被害。2022年3月にも、同じ福島県沖の地震で約8億8500万円の被害が出た。そのたびに運行はストップせざるを得なかった。
新型コロナで膨らんだ赤字
阿武隈急行を襲ったのは災害だけではなかった。全世界で猛威を振るった新型コロナウイルスの流行で、経営状況は一気に悪化した。
2022年度の運輸実績利用者は、コロナ前と比べ半減。年間で2億円にも達していなかった営業損失は、一気に5億円から6億円にまで膨らみ、沿線自治体の負担も大きくなっている。
「利用者の多くが通勤・通学目的の定期利用者」という現状の阿武隈急行。観光客などの定期利用者でない客をどう増やすかが喫緊の課題と言える。
こうした状況が続く中、2023年3月に立ち上がったのが「阿武隈急行線在り方検討会」。宮城県と福島県、沿線自治体や有識者などで構成され、列車の運行と施設の維持管理を鉄道会社と自治体で分ける「上下分離方式」や、輸送手段をバスへ転換すること。つまり「路線廃止」も含めた議論が始まった。
「街づくり」が問題解決の一手に?
宮城県の村井知事は、定例会見の中で阿武隈急行の今後について「地域交通は住民の皆さんの足なので無くすことはできない」などとしながらも、「経営という側面も切り離すことはできない」と指摘している。阿武隈急行は宮城と福島をまたぐ形で運行しているが、福島県側の経営状況は宮城県と比べ、悪いものではないのだという。
じつは、阿武隈急行線は新型コロナの感染拡大期間を除いて、福島県側は黒字、宮城県側はその黒字分をすべて充てても足りないほど損失が出ている現状がある。
その理由の1つと考えられるのが、宮城県側の沿線の環境だ。福島県側には沿3線に大学や高校、団地などがある一方、宮城県側では学校の統廃合などもあり、通勤・通学路線としての利用者が減っている現状があるのだ。
在り方検討会では有識者から、「街づくりと一体で考えるべき」という意見も出ていて、村井知事は今後1年をめどに県の考えをまとめたいとしている。
「非常に経営が厳しいだけではなく、今後も人口が減りながらインフラがだんだん老朽化してきています。税金だけではとても賄えませんので、利用者にも負担をしていただくことになってくる。そういった事情も説明しながら、それでもいいのかお聞きしながら考えていきたい」
(宮城県・村井嘉浩知事)
検討会で議論されている「上下分離方式」導入は、利用者が増えるわけではない。人流が増えなければ、根本的な問題解決にはつながらないだろう。迫りくる人口減少社会において、地域に欠かせない交通インフラを長期的にどう維持していくのか。宮城県は8月末に開かれた沿線自治体との議論も受け、10月中にも地域住民の意見を聞く場を設ける予定だ。
(仙台放送)