パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに大規模な奇襲攻撃を仕掛けた。イスラエルはロケット弾で報復、さらにガザ地区への本格的な地上攻撃の準備を進める。衝突の背景に何があり、着地点はどこにあるのか。

BSフジLIVE「プライムニュース」では、双方の駐日大使を迎えて主張を聞いた。

駐日パレスチナ大使「ハマスについての質問はイスラエルに聞くべき」

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長野美郷キャスター:
今回の武力衝突による死者はパレスチナのガザ地区で1100人以上、イスラエルでは1200人以上、人質は外国人を含む100人以上と報じられる。ハマスは組織の目的を「イスラエル打倒とパレスチナにおけるイスラム国家の樹立」としているが、パレスチナ暫定自治政府との現在の関係は。

ワリード・シアム 駐日パレスチナ大使:
パレスチナ当局はハマスでなくパレスチナの人々を代表しており、ハマスの行動を全く支持していない。ハマスについての質問はパレスチナよりもイスラエルに聞くべき。私達はあらゆる暴力に反対する。我々パレスチナ人には倫理と原則がある。問題は、パレスチナ領土においてイスラエルが軍事占領を続けていること。これを終わらせることが解決法。

反町理キャスター:
今回のハマスの攻撃に関してパレスチナ自治政府は正式に批判する声明を出し、その立場を表明しているのか。自治政府としてハマスとイスラエルの双方に武力の使用はやめろと言うべきでは。

ワリード・シアム 駐日パレスチナ大使:
パレスチナ当局は何年間もイスラエル側のやり方に警告を出していた。だが、国際社会はパレスチナの人権問題に対するイスラエルの犯罪に責任を問わず、それがこの結果になった。誰がハマスを支援しているのか。毎月イスラエルの銀行を通じて3000〜4000万ドルの人道支援がハマスに渡されている。ハマスはどうやって武器を得ているのか。多くの支援を受けているが、それはパレスチナ自治政府からでもパレスチナ市民からでもない。ガザでは多くの人々が反ハマスだが、何もできない。イスラエルは対ハマスを口実に民間人に対し爆撃している。ガザ地区で今亡くなっているのは女性や子供たち。

長野美郷キャスター:
今回、ハマスは兵士のみならず外国人を含む民間人も拉致し、今後、イスラエルが地上侵攻を行った場合には人質の処刑も辞さないと声明を出しているが。

ワリード・シアム 駐日パレスチナ大使:
私の意見は申し上げられないが、イスラム教徒たち、パレスチナの人々、我々には倫理があり、誰かを殺すということはしない。

反町理キャスター:
ハマスに対し、その方針をとるべきではないと言うべきでは。

ワリード・シアム 駐日パレスチナ大使:
ハマスと繋がりがないので話しようがない。だが、もし私がガザに住んでいるパレスチナ人なら、ハマスが嫌いでもハマスに加わるだろう。そうしなければ殺されるから。ハマスの暴力もイスラエルの暴力も止めなければならない。双方が戦争犯罪を犯している。過去2〜3日はイスラエルが被害者だったかもしれないが、私達は1948年から被害者。メディアには偏見があり、常にイスラエルを被害者として描きパレスチナが悪いと言う。だが我々は、自由のために戦っている。我々は共存できる。両者の中の過激派を何とかしなければいけない。

長野美郷キャスター:
視聴者の方から「どの国に仲裁を求めますか」との質問。

ワリード・シアム 駐日パレスチナ大使:
アメリカを含む西側の国々にはあまりにも偏見があり、イスラエル側に寄り添っている。25年間言い続けてきたが、私は日本が非常に重要な役割を果たせると考えている。日本は中立で、学校や病院、インフラの建設などを支援してくれている。経済的に力があり、世界中で尊敬されるG7の議長国。信頼できる。

駐日イスラエル大使「武器を捨てればイスラエルは消滅してしまう」

長野美郷キャスター:
ここからのゲストはコーヘン駐日イスラエル大使。イスラエルのガラント国防相は、「ハマスを地球上から消し去る」と発信するなど地上攻撃を強く示唆したが、大規模な攻撃はいつ行うのか。何をすれば達成されたことになるか。

ギラッド・コーヘン 駐日イスラエル大使:
イスラエルにとって祝日だった土曜日に、我々はイスラムの武装勢力ハマスに攻撃された。前代未聞の大量殺人。誘拐もした。イスラエルは今回勝ち、このようなテロリズムを終わらせる。我々のためではなく自由な社会のため。アメリカなど西側諸国、日本もイスラエルの味方をしてくれている。我々は同じ価値のためにテロと戦っている。ハマスのイスラエルへの宣戦布告に応えたのであり、パレスチナと戦争しているわけではない。ハマスは民間人を人間の盾として使っている。

反町理キャスター:
ガザに武力侵攻して220万人の中から数万人のハマスを探し出し、壊滅させるまでやるのか。そのためにはパレスチナ人の犠牲、そして人質の犠牲はやむを得ないと考えるか。

ギラッド・コーヘン 駐日イスラエル大使:
イスラエル人も他の国の民間人の方々も、人質はもちろん即時に解放されてほしい。だが、もしよりよい解決法、自衛の方法があれば教えてほしい。1200人の無実のイスラエル人が亡くなり、3000人が負傷している。数百人が行方不明または人質となっている。武器を捨てればイスラエルは消滅してしまう。

反町理キャスター:
軍事力でガザ地区を制圧した後のビジョンをどう描くか。これまで同様、さらに報復が生まれ同じことが繰り返される危険性は感じないか。

ギラッド・コーヘン 駐日イスラエル大使:
長年パレスチナとの和平を望んできたが、パレスチナは繰り返し提案を拒否してきた。報復というハマスのような考え方ではなく、リベラルな民主主義の国家である我々は、とにかくテロリズムをやめさせるということ。そのために必要なら軍事的な行動も行う。これは残念なことで犠牲者も出るだろうが、ハマスはとにかく解体しなければならない。イスラエルが求めるのはパレスチナと平和に暮らすこと。ハマスやイスラム系のジハードとではない。

長野美郷キャスター:
視聴者の方から。「米ブリンケン国務長官はガザの人道回廊の提案をしているが、イスラエルはどうするか」。

ギラッド・コーヘン 駐日イスラエル大使:
私達はブリンケン国務長官やバイデン大統領の考え方を尊重する。だが、どのような回答をするかはわからない。イスラエルの若い少女がレイプされて殺害され、おばあさんも殺害されている。人権があるのはパレスチナ人だけではない。ガザ地区ではなくハマスが我々の敵。ハマスはユダヤ人を殺害するのが目的。

首相のSNSに見る日本の決意 独自路線で人道支援に注力を

長野美郷キャスター:
両大使の出演が終わったところで、双方の主張についての感想を。

佐藤正久 元外務副大臣:
パレスチナ大使がパレスチナとハマスは違うと言うのは当然だが、イスラエルを批判してもハマスのテロ行為を強く非難しなかった点は非常に疑問。イスラエル大使は、少々の犠牲があっても国を守るためには戦う強い意志を感じた。

高橋和夫 放送大学名誉教授:
抑圧されるパレスチナ人からすれば、どこかに「よくやったハマス」という気持ちもある。テロはよくないが、イスラエルに一泡吹かせたことをダメだとは言えない。反町さんが聞いても喋りはするがちゃんとは答えない点、やはり2人とも外交官。

反町理キャスター:
パレスチナ自治政府がハマスを徹底的に批判しない姿勢が、結局パレスチナ人の自治政府に対する不満となり、暴力的にでも力でイスラエルに対抗しようとするハマスに人気が集まるのでは。

高橋和夫 放送大学名誉教授:
パレスチナ自治政府が、国家を作るために着々と交渉の成果をあげていればハマスは消えたと思うが、成果が出ていない。ハマスはパレスチナ人の不満のバロメーターだが、バロメーターを壊しても不満は消えない。

佐藤正久 元外務副大臣:
急ぐべきは、ガザ地区とエジプトを結ぶ国境の人道回廊を早く開くこと。イスラエルが地上作戦を行うなら避難民を逃がさなければいけない。だが今、エジプトがパレスチナ人の通行を止めている。岸田総理がG7議長国としてエジプトの大統領らに話すべき。G7の電話首脳会談を開いてもいい。日本はUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)と組んで人道支援に汗をかくべき。

高橋和夫 放送大学名誉教授:
エジプトに言わせれば「なぜ引き受けなければいけないんだ」。パレスチナ人としても、1948年にイスラエルが成立したときのように、エジプトに逃げれば帰れなくなる恐れがある。アメリカが守ってくれるとも思わない。

反町理キャスター:
岸田総理がハマスとイスラエルの武力衝突についてSNSに投稿。最後の部分「全ての当事者に最大限の自制を求めます」について。

高橋和夫 放送大学名誉教授:
10月7日以前の1年間にヨルダン川西岸地区で起こったパレスチナ人への人権蹂躙などを考えれば、ハマスがいいとは言わないが、パレスチナ側にも寄り添う必要がある。「全ての当事者」と言い、テロという言葉も使っていない。自制しつつ、風当たりを覚悟し、欧米と違う立場を取る決意のある文章。僕は感激している。

佐藤正久 元外務副大臣:
前段でハマスを武装勢力と名指しし強く非難している。その上で、ガザ地区で多数の死傷者が出ることを深刻に憂慮すると使い分け、双方の自制を求めている。またイスラエルのガザ地区への包囲網には国際人道法違反の部分がある。両方を考えたバランスのとれた文章と思う。

(BSフジLIVE「プライムニュース」10月12日放送)