静岡県の沼津市議会で、議員が市の土地に生えたタケノコを無断で掘った上、販売して利益を得たと発言したことが波紋を広げ、懲罰動議が提出される事態となった。一方、当人は「言葉足らずだった」と釈明している。

駐車場問題からタケノコ問題に発展

「実は私の農地の中にも市の土地が存在しています。その土地は現在、竹林として私が管理をして、そこから毎年、タケノコを掘って利益を得ています。販売したりしています」

これは9月27日に行われた沼津市議会の本会議での出来事。当選5回のベテラン・江本浩二 議員による発言だ。

当選5回のベテラン・江本議員
当選5回のベテラン・江本議員
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何故このような発言に至ったのかは少し説明が必要だろう。

沼津市は9月14日に開会した令和5年第2回定例会を迎えるにあたって、山下富美子 議員が市有地を許可なく有料駐車場として貸し出し、不当に利益を得たとして返還を求める訴えを起こす方針を固め、関連する議案を提出している。

江本議員の発言は、この議案に対する市当局への質疑の中で飛び出した。

同僚をかばおうとうっかり発言?

実は江本議員は山下議員と2人で「未来の風」という会派を組んでいる。沼津市が山下議員に話し合いの機会を求めてきたものの応じてもらえず「解決の目途が立たないので提訴するしかない」と異例の決断に至った経緯を述べる一方、山下議員が当該地の払い下げを市が確約した書面が見つかったことなどを理由に「市有地ではない」と主張する中で、仲間を“かばう”狙いがあったのかもしれない。

2人で会派を組む江本議員(奥)と山下議員(手前)
2人で会派を組む江本議員(奥)と山下議員(手前)

だが、市民の代表たる議員が公然と自身の不適切な行為を明らかにするような発言をした代償は大きかった。

懲罰動議…江本議員の弁明とは?

10月10日。沼津市議会の議員28人中22人から江本議員に対する懲罰の動議が提出され、村木豊 議員は「当該発言の真偽や意図は定かではありませんが、そもそも地主の了承を得ず物を盗り、さらにこれを売り払うことは森林法、その他の法違反となる可能性もある極めて不適切な行為」と指摘し、「本会議において不適切な行為を容認するかのごとく発言し、ひいては市民の道徳心の崩壊を引き起こすことにもつながりかねません」と提案理由を述べた。

これに対し江本議員が発言の機会を求め、当該の市有地は自身が以前、市に売却した土地と説明した上で「正確に申し上げますと私の畑の隣に市有地があるということでございます」と弁明。さらに「タケノコの伸長は目覚ましく、毎年春には官民の境界など何ら気にすることなく、我が家のヒノキ林、さらには茶畑までにも侵出し、退治しない限り立派な竹に生長します」と訴えつつ、「実を申しますと、議員となって今まで16年以上、販売したことはありません」と、9月27日の本会議での発言とは真逆の主張を展開した。

加えて「私は市有地のタケノコを販売したとは発言しておりません」とも述べた江本議員。

特別委は“陳謝処分”を可決

こうした中、翌11日に懲罰特別委員会が開かれた。委員会は非公開で、江本議員はこの場でも「本会議での弁明をしっかり受け止めて審議をしていただきたい。ちゃんと認識していただければ懲罰には当たらないとご理解いただけると思います」と改めて訴えたと言うが、議場で謝罪の言葉を述べる陳謝処分とすることが可決された。

沼津市議会 懲罰特別委員会(10月11日)
沼津市議会 懲罰特別委員会(10月11日)

取材に応じた江本議員は、まず「委員会が非公開で行われたということに対しては大きな矛盾を感じています」と苦言を呈した。その上で「タケノコについては山野草の類だと思っております。山野草を採取することについて、それを罰する法律はないんです。だから森林窃盗罪ではない」と力説し、「言葉が足りずに誤解を与えてしまったことは申し訳なかったと謝罪の気持ちを持っています」と述べた。

一方で、発言を撤回するかどうかについては「考え中」とした。

6年前には不適切発言…議場で陳謝

江本議員をめぐっては懲罰動議が出されるのはこれが初めてではない。

遡ること6年半。当時の市長が定例会の直前まで「小脳出血」で入院していたことから、病気による政策判断への影響について質した江本議員だったが、病名を「脳卒中」と誤認したまま質問し、「脳卒中を起こした際には何らかの高次脳機能障害が必ず生じている」「正常な状態ではない」と断言。議長から再三にわたり指摘を受けたにも関わらず訂正もしなかった。

市長(当時)に対し不適切発言をした江本議員(2017年)
市長(当時)に対し不適切発言をした江本議員(2017年)

このため懲罰の動議が提出され、最終的には議場で陳謝文を読み上げ、一部の発言の取り消しを願い出た。

なお、江本議員にとってはこの時が3回目の懲罰。つまり今回の動議が可決されれば4回目となる。

懲罰動議は可決の公算大 その時…

懲罰動議に名を連ねた議員の一人によれば、“タケノコ発言”を受けて当初は高橋達也 議長が江本議員に発言の取り消しや議事録からの削除を提案。しかし江本議員が拒否したため、動議の提出に至ったという。

沼津市役所の議会棟
沼津市役所の議会棟

懲罰動議は議会の過半数を大きく超える22人の連名となっていることから、特別委員会の結論通り「陳謝」が可決される公算が大きい。その時、江本議員は議決に応じて陳謝するのか。それとも拒否をして、議会が空転に向かうのか。

注目の採決は10月16日に行われる。

(テレビ静岡)

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