静岡県沼津市は、山下富美子 市議が市の土地を許可なく有料駐車場として貸し出し不当な利益を得たとして、返還を求めて訴えを起こす方針を固めた。市議会の議決を得られ次第、正式に提訴へ踏み切る考えだ。

きっかけは匿名の通報

渦中にあるのは沼津市議会の山下富美子 議員(70)。2023年4月の統一地方選挙で5期目の当選を果たしたベテランだ。

渦中にある山下富美子 議員(2018年撮影)
渦中にある山下富美子 議員(2018年撮影)
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市が市議を訴える意向という異例の事態。一体なにがあったのか?

事の発端は2022年8月にさかのぼる。山下議員が自宅に隣接する市道(橋)の下に位置する市有地に「薪やボートなどの私物を無断で置いている」という内容の情報が寄せられ、市などが調査した結果、事実であることが判明した。

異例の提訴に踏み切る意向の沼津市
異例の提訴に踏み切る意向の沼津市

山下議員は、市議会の委員会において「当時の道路管理課とは当該地に薪を置くことを了解の上でやっていた」と主張したが、市の指導に従い私物の撤去に応じた。

調査で明らかになった通報以外の事実

ただ、調査の過程で情報提供とは“別の事実”が明らかとなる。山下議員は自宅に隣接する土地を有料駐車場として貸し出していたが、このうち2台分については市有地であることがわかった。

疑惑の舞台となった土地
疑惑の舞台となった土地

市によると、この土地は約30年前に橋の拡幅をする際に別の所有者から市に売却された土地で、関係者によると山下議員とその家族はこの間、市有地部分の賃料として計500万円の収入を得ていたと推定されている。

山下議員はブログで正当性を主張

山下議員はこちらも市の指導に従い有料貸し出しを止めた一方、自身のブログを通じて反論した。以下、その要旨を抜粋して記す。

山下富美子 議員のブログ
山下富美子 議員のブログ

▼父親の代に橋の拡張のため2回ほど用地買収に応じたが、2回目の用地買収では土地代金の一部を現金ではなく市有地をあてがわれたものであると認識していた

▼交通量の増大により家への出入りが困難となるため、父が沼津市と話し合って、官地を私有地として上記のことが行われたと聞いており、問題となった土地は私有地という認識で今に至っている

▼2019年に相続した後も何の問題もなく来たが、その土地が名義変更されず、市有地となっていたことは思いもよらないこと

▼父は2回も沼津市に誠意をもって協力してきたのに、このような展開を子の代で受けるとは思いもよらなく忸怩たる思い

▼用地買収に応じた時の契約がどうなっているのか明らかになったら、市には所有権移転登記をするよう申し入れる

話し合い求めるも応じず市は提訴意向

一方、沼津市は2022年秋頃から2023年夏頃に至るまで、弁護士を通じて山下議員との話し合いの機会を再三にわたり求めてきたものの応じてもらえず、9月7日に開かれた市議会 議会運営委員会で提訴に踏み切る意向を明らかにした。道路建設課は「解決の目途が立たないので提訴するしかない」と異例の決断に至った理由を述べる。

沼津市議会 議会運営委員会(9月7日)
沼津市議会 議会運営委員会(9月7日)

市によると上記の通り「市有地をあてがわれたと認識」「私有地という認識」などと主張している山下議員だが、登記簿を見れば「市の土地であることは明らか」だという。

このため9月14日に開会する市議会の定例会で議決が得られ次第、山下議員が不当な利益を得たとして、返還を求める訴えを起こす考えだ。

ただ、山下議員が調査に応じなかったことから、市は有料駐車場として貸し出していた期間や収入について詳細に把握できぬまま、訴状の準備を進めなければいけない。

山下議員は逆に市を訴える考え

テレビ静岡の取材に対し、山下議員は「請求額の根拠を精査しないままで杜撰」と市を非難した上で「当方の土地を通らなければ市の土地には入ることはできず、沼津市に損害が生じることはあり得ないので不当利得は成立しない」と主張した。

また「『収益を上げたから』というならば、同額を通行料として市に請求できる権利がある」と述べたほか、当該地について「市が2021年まで当方に借用の許可を取っている証拠がある。つまり管理を放棄していたということで、この点について裁判を行う予定」と反訴する考えを示した。

市が市議を訴える意向を明らかにし、その市議が逆に市を訴える見通しとなった泥沼の状況。先行きはまったく見通せない。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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