ミドルエイジになると、多くの人は体力の衰えを感じたり、疲れやすさを感じたりするだろう。

フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんは、ランニングが「誰も気軽に始められるスポーツである」と考える一方で、「がんばりすぎないこと」が大事だという。

ダイエットや健康維持、趣味などでランニングを始める人もいるだろう。これからランニングを始める人たちに向けた著書『ミドルエイジからの“がんばりすぎない”ランニング』(扶桑社)から、「リカバリー力」について一部抜粋・再編集して紹介する。

若いころの回復力はもうありません

ミドルエイジになると、多くの人が「体力がおとろえてきた」「疲れやすくなった」と口をそろえます。

トレーナーの視点で見ると、ミドルエイジになって最もおとろえるのは疲労を回復する速度、いわゆるリカバリー力だといえます。

これは一般の人に限らず、トップアスリートにもいえることで、若いころと同じ内容の練習ができたとしても、負荷をかけ続けるとリカバリーが追いつかなくなってしまうので、一定の年齢になると練習内容を見直したり、量を減らしたりするようになります。

若い頃と同じような負荷はかけられない(画像:イメージ)
若い頃と同じような負荷はかけられない(画像:イメージ)
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部活動に取り組んでいた学生時代や20代のころは、リカバリーを考えずに運動をしていたという人でも、同じような負荷がかけられなくなります。

すると「体力がおとろえてきた」と感じるわけですが、それはリカバリー力のおとろえによって疲労がぬけにくくなったということなのです。

ですがフルマラソンでも高齢になって自己ベストを達成する人は多くいますし、ウルトラマラソンやトレイルランニングに挑戦して、若いころよりも長い距離を走っている人もたくさんいます。

リカバリーにさえ気をつけていれば、若いころと同じようにさまざまなスポーツを楽しめるのです。

では、おとろえていくリカバリー力を補うために、ミドルエイジランナーは何に取り組むべきなのでしょうか。

ストイックになりすぎず「休む」こと

まず大前提となるのは無理をしないことです。疲労を感じたり、筋肉や関節に違和感を感じ
たらしっかりと休むことが重要です。

トレーニングによって生じた生理的な疲労が、十分に回復しないまま蓄積されて引き起こされる慢性疲労の状態をオーバートレーニング症候群といいます。

ランニングを含め、スポーツに取り組むときは、日常と比べて負荷の大きな運動をします。

持久力や筋力を向上させるためには、日常生活よりも大きな負荷を継続的に与える必要があるの ですが、リカバリーが十分でないと徐々に疲労が溜まっていきます。

つまり、リカバリー力が低下しているミドルエイジランナーは、若いランナーと比べてオーバートレーニングに陥りやすいのです。

「どうも最近思うようなペースで走れない」といったことが続いたり、疲れやすい、全身に倦怠感がある、食欲がない、入眠しにくい、安静時の心拍数や血圧が上昇したといったことがあった場合や、オーバートレーニングの可能性があります。

オーバートレーニングになるのは、アスリートや、それに近い人だけだと思う人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。

今まで運動経験のなかった人が走り始めたら、身体への負担はかなり大きなものです。

ストイックになりすぎないこと、楽しむことを肝に銘じてランニングに取り組みましょう。

リカバリーに最も有効なのは睡眠

「疲労回復の裏技を教えてください」と聞かれることがよくあります。

ランニングによる肉体の疲労にせよ、仕事による脳の疲労にせよ、疲労を取り除いてリカバリーをするうえで、最も有効な手段は睡眠です。

そんなことかと思われるかもしれませんが、若いころ以上に十分な睡眠時間を確保して、その質を高めることは、ミドルエイジランナーにとっては必須といえます。

リカバリーするには「睡眠」が大切(画像:イメージ)
リカバリーするには「睡眠」が大切(画像:イメージ)

ランニングを継続して体力を高めたとしても、疲労がぬけていなかったら、パフォーマンスは確実に低下します。

ランニングの継続で体力が「10」になったとしても、睡眠が足りないために疲労が「3」溜まっていたとしたら、パフォーマンスは10-3=7となります。

仮に体力が「8」だったとしても睡眠が十分で疲労がぬけきっていれば、パフォーマンスは8-0=8。

「体力がおとろえてきた」と感じているベテランランナーも、疲労をとることに注力すると、あっという間にパフォーマンスがアップすることがあります。

仕事や家事・育児などで多忙な日々を送っていると、ついつい睡眠時間を削ってしまいがちですが、責任あるポストについたりと働き盛りで健康維持のために運動が必要なミドルエイジだからこそ、積極的に睡眠をとらなければならないのです。

やってほしいランニング後のストレッチ

ランニング後のストレッチは、ミドルエイジランナーの人たちに必ずやってほしいことの一つです。

ストレッチには大きく分けて動的(ダイナミック)ストレッチと、静的(スタティック)ストレッチの2種類があるのを知っていますか。

動的ストレッチとは、同じ動きを一定回数繰り返して、筋肉や関節に適度な刺激を与える動きのこと。肩甲骨や股関節を回す動作などが動的ストレッチになります。

静的ストレッチは筋肉のケアをする上で必要(画像:イメージ)
静的ストレッチは筋肉のケアをする上で必要(画像:イメージ)

静的ストレッチとは、一定時間同じ姿勢を保って、静止した状態で筋肉を伸ばす運動のこと。

前屈や開脚といった動作は静的ストレッチになります。静的ストレッチは、体の柔軟性の維持・向上に効果があるのはもちろん、運動後に硬く縮こまった筋肉を緩ませることができます。

筋肉は縮むことで力を発揮します。激しい運動や筋力トレーニング、長距離のランニングなどをした後は、しばらく筋肉は縮んだ状態にあります。

その状態の筋肉をケアせずに放置しておくと、筋肉が緊張したまま、疲労回復の遅れ、筋肉のコリやハリ、柔軟性の低下などにつながります。

ランニング後の静的ストレッチは、それらを防ぐ手段なのです。

ただ漠然とポーズをとっていても、効果は期待できません。

せっかく時間をさいて取り組むのですから、ポイントを押さえて効果を高めましょう。

静的ストレッチは、いわゆる「イタ気持ちいい」と感じるところまで伸ばします。単に気持ちいいと感じる程度だと伸ばし方が少し足りません。

また、反動をつけてグイグイ伸ばすのも効果的ではありません。筋肉は瞬間的に伸ばされると反射的に縮もうとするので、緊張して硬くなる性質があるからです。

「イタ気持ちいい」と感じるポイントまで伸ばしたら、その姿勢を30秒程度キープしましょう。

一つの部位に対して5〜10秒ほど伸ばしただけでは、あまり効果が期待できません。

呼吸を忘れないことも大切です。静的ストレッチを行うときは、ゆっくりと息を吐きながら伸ばしていき、姿勢をキープしている間は自然な呼吸を心がけましょう。

『ミドルエイジからの“がんばりすぎない”ランニング』(扶桑社)

中野ジェームズ修一
米国スポーツ医学会認定運動生理学士、スポーツモチベーション最高指導責任者、フィジカルトレーナー協会(PTI)代表理事

中野ジェームズ修一
中野ジェームズ修一

米国スポーツ医学会認定運動生理学士、スポーツモチベーション最高技術責任者、フィジカルトレーナー協会(PTI)代表理事。心理学や精神分析学を基にした理論で、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとして活躍している。マラソンの神野大地選手の個人トレーナーをはじめ、数多くのオリンピック出場者を指導する。
そして2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化も担当。自身が技術責任者を務める東京・神楽坂にある会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB100」は、無理なく楽しく運動を続けられる施設として、幅広い層から支持されている。ベストセラー書および講演多数。