ふるさと納税のルール変更を巡り、国と再びバトルになっている泉佐野市の千代松大耕市長に聞いた。

「悔しい思いでいっぱい」と泉佐野・千代松市長

関西テレビの取材に泉佐野市民から、「千代松市長が泣いてるのでは」という声もあったが、今回のルール変更を、どう受け止めているか?

泉佐野市 千代松大耕市長:
今回、熟成肉が活用できないことになりました。泉佐野市がふるさと納税制度から除外されていた時期もありましたが、復帰後に努力して熟成肉の事業者さんを誘致して、それが非常に調子が良かったものですから、そういうことが全てダメになるのは、とても事業者の方に心苦しいと思っていますし、悔しい思いでいっぱいです

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「改悪だ!」と千代松市長は言っているが、10月からふるさと納税のルールが変更される。ふるさと納税というのは、そもそも地場産品を扱い地域活性化を目指すものだが、「熟成肉」「精米」については、原材料が自治体の属する都道府県で生産されたものに限られることになった。

熟成肉について総務省は、「熟成と冷凍保存の区別がつかず、十分な付加価値とは言えない」としている。精米については、「加工 レベルがあいまいで十分な付加価値とは言えない」としている。

一方、泉佐野市は熟成肉について、「氷温熟成肉牛プロジェクトというものがあり、肉の成分の変化などデータを持っていて、付加価値はある」と主張している。

泉佐野市 千代松大耕市長:
結局、総務省が熟成肉に対して線引きができなかったというところがあり、泉佐野市は肉のうまみが高まっているといったエビデンスをしっかり総務省に提出したのですが、最終的に冷凍保存と熟成というのが、総務省は線引きができなかったので、同じ都道府県産に限るということで、『とりあえず泉佐野アウトにしとけ』みたいな感じなのかと思います

「熟成肉は地場産品と言えない」と総務省

なぜルール変更が必要なのか、総務省の担当者に聞いた。

熟成肉に関して「一般論として時間の経過だけで“熟成肉”というケースもあり、熟成に十分な付加価値はなく、地場産品とは言えない」としている。 関西テレビ「newsランナー」から総務省に2点質問しました。
 

Q.熟成加工の基準をなぜ作らないのか?
 「さまざまな返礼品がある中、熟成だけ基準というのは…」

 Q.泉佐野市だけを狙い撃ちしているのでは?
 「狙い撃ちではない。全国数十の自治体で見受けられる」

以上のような答えが返ってきた。

泉佐野市 千代松大耕市長:
熟成などの基準は作らないことに対して、じゃあなぜ熟成肉だけに新たな規制を設けることは不可解です。泉佐野市だけ狙い撃ちしているのではないということに対して、確かに全国数十の自治体は熟成肉を出していますけれど、大阪府は家畜の飼育について全国で46位、年間通して肉牛が約780頭しか飼育されていないんです。それを泉佐野市が全て仕入れたとしても、今泉佐野市が扱ってる量と比べて本当にわずかなものです。扱い額について泉佐野市は32億円ということで、たぶん最も影響が大きい自治体なのかなと考えています

関西テレビ 神崎報道デスク:
総務省は地場産品という大原則を必ず振りかざしてくるので、いくら泉佐野市がアイディアを絞り出して新たな商品を生み出しても、大原則を振りかざされると、つぶされることになると思います。 牛の話がありましたが、例えば泉佐野市で肉牛をゼロから育てて、一大肉牛生産地にするとかで、もう総務省に何も言わせないような形で、『これは地場産品です』といえる商品開発をするのは厳しいのでしょうか?

泉佐野市 千代松大耕市長:
地場産品にもいろいろ定義があると思います。もちろん自分のエリアの中で育てるというのもありますけれど、泉佐野市の場合は加工ということで、実際に事業者で50人を超えるような雇用も生まれていましたので、そういったところからいってやはり私は加工品もしっかりとした地場産品だと考えています

泉佐野市のやり方に“苦言”もあるようだ。

ある自治体から、「地元のブランド米なのに、泉佐野市の返礼品と出されることに疑問は感じていた」といった声があった。 ふるさと納税に商品を提供しているブランド和牛の生産者から、「なんでもありになってしまう。手間暇かけ、思いを込めてその土地の地場産品を真面目に作っている生産者からしたら残念」といった声もあった。

泉佐野市 千代松大耕市長:
細かく言いますと、ブランド米については泉佐野市で創業50年以上の全国的に有名な精米会社が、洗わなくても炊けるぐらいまでの精米をされて、かなりの付加価値をかけてるんです。地元でかなり加工しているわけなんです。今回の件は、肉と米の2つがクローズアップされているかもしれませんけれど、泉佐野市が制度から除外されていた時に、他の自治体が始めていたことを泉佐野市もスタートさせてもらったものです。その中で、多額のふるさと納税の寄附額を全国の方からいただいて、寄付してくれた方とのつながりを大事にしてきました。そのような中で泉佐野市としましては、こういう特殊な加工というのは、一つの地場産品だと考えながら取り組んできました

泉佐野市と国の間での長い戦い

ふるさと納税をめぐって、泉佐野市と国の間で長い戦いが続いてきた。

これまでの経緯をまとめます。

・2008年 ふるさと納税制度スタート
・2011年 千代松市長就任
・2017年から泉佐野市が寄付額3年連続でトップ
・アマゾンギフト券を付与するキャンペーンが物議に
・2019年 総務省が泉佐野市をふるさと納税制度から除外し、泉佐野市は除外の取り消しを求めて裁判を起こしました。
・2020年に最高裁判決で「除外は違法」であると国が敗訴。泉佐野市のふるさと納税制度への復帰が認められた。

Amazonギフト券には賛否の声があったと思うが、今振り返ってどう思われるか?

泉佐野市 千代松大耕市長:
泉佐野市といえばAmazonギフト券みたいなところもクローズアップされてしまいます。今回のことでは、誘致して泉佐野市にきてもらった熟成肉の事業者に対して今後どうしていけばいいのか全くアイディアがありません。泉佐野市への寄付額が落ち込むこともありますが、事業者の影響が計り知れないということで、担当職員と策を考えていかなければならないとなっているところです。 Amazonギフト券については、当初今みたいにルールが厳格化されていない中で、泉佐野市の事業者さんを使っていましたけれども、泉佐野市内の事業者さんが結局2019年からスタートした新しい制度の中で、3割ぐらいが制度に入れないというような状況でしたので、そういった事業所を救済をするためにAmazonギフト券を付与するキャンペーンをさせていただきました。結果として制度に入れなくなった事業者さんがソフトランディングしていけたらと思っています」 ふるさと納税制度が返礼品合戦のようになるのはいかがなものかという議論もありますが、それについてはどうお考えでしょうか?

泉佐野市 千代松大耕市長:
いろいろな自治体を応援する中で、例えば『千代松を応援したろ』と思っても、返礼品のラインナップがなかったらなかなか繰り返し寄付はしてくれないというところもあります。やはりいろいろな返礼品をすることで、より応援しやすい状況を作り出せているのかなと思っています

泉佐野市民からは千代松市長に好意的評価が多い

ふるさと納税で国と戦いながら税収を得ている千代松市長について、泉佐野のみなさんがどんな印象をもっているのか取材しました。

泉佐野市民:
立派な人やで、がんばってるよ。廃った泉佐野を持ち上げた人やから、それはなかなかのもんやと思います。マメに動いてますわ。どういうことでも。ふつうはもっと天狗になるとこやけど、なってないです。

泉佐野市民:
小学校に今までプールがなかったのが、全部プール作ってくれて、みんな学校でプールの授業ができてうれしいって感じ。柿色のバス(コミュニティバス)作ってくれはったやろ。黄色のバスも無料やし、柿色のバスも無料やし、おかげさんで便利になりました

市民のみなさんの声を聞いていかがですか?

泉佐野市 千代松大耕市長:
ありがたいです。ふるさと納税に関していろいろなご意見は、賛否もちろんありますし、物議を醸し出してきました。どの自治体も同じだと思いますが、地元が少しでも良くなりたいという気持ちの中で、少しでも寄付をいただこうという思いでやってますので、今の市民の方からの声が本当に励みになります」

“出る杭は打たれる”のか?

視聴者の皆さまから届いた質問を紹介したい。

 Q.国から“出る杭は打たれる”というふうに感じていますか?

泉佐野市 千代松大耕市長:
ふるさと納税の歴史の中では、過去に全国で一番取ってきた自治体は、常にもぐらたたきのように頭たたかれてきたんです。泉佐野だけではなくて、例えば宮崎の都城市であったり、長崎の平戸市であったり。泉佐野市は最後まで旧制度下でやって、最終的に司法の場で決着ということになりましたけれども、常に総務省から出る杭は打たれるというか、もぐらたたきのように、寄付額が上がってきた自治体はたたかれているような感じがします

Q.国からこういった指摘があった時の対策は考えなかったんですか?
泉佐野市 千代松大耕市長:
去年の9月に熟成肉に対しての疑義が出されたんですけれど、泉佐野市は事業者から得たエビデンスをしっかりと総務省に提出して、本当にきっちり説明したんです。そのあと何も返事がなくて、今年の6月になって「だめだ」と言ってきたんです。何のやり取りもないんです。もちろん総務省と協議したいと思っているんですけれど、総務省はそういう場を持つかどうか今のところ回答はありません。先日、東京に行って協議させてほしい要望してきました

 (関西テレビ「newsランナー」 2023年9月29日放送)

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