寛永11年(1634年)から続く長崎の氏神「諏訪神社」の秋の大祭「長崎くんち」が毎年10月7・8・9日に行われる。新型コロナ感染拡大などの影響で、2023年は4年ぶりの開催となる。
本石灰町(もとしっくいまち)の「御朱印船」は豪快な曳き(ひき)回しと、長崎入港を表現する2人の小学生にも注目だ。
週6稽古で“心ひとつ”に
本石灰町の御朱印船は全長約6メートル、高さ5メートル、重さ5トンで、長崎くんちの曳き物の中で最大級、最重量級と言われている。
この記事の画像(17枚)18人の根曳(ねびき)衆が船を回すと、砂煙を巻き上げ地面がきしみ、大きな音が響く。
経験者が少ない今回は、例年に比べて稽古量が段違い。小屋入り前の5月から週に6回ペースと、他の踊町(おどりちょう)も目を見張る回数を重ねてきた。
初出演の根曳・佐々木啓輔さん:
僕と同じように、初出場の根曳がほとんど。同じスタートラインに立って同じ気持ちで稽古に臨んでいる。本番も心ひとつに頑張りたい
初出演の根曳・岡野孝哉さん:
神は細部に宿るので、所作やきつい時こそ声を出して鼓舞できたらいい
長采・原田伸一さん:
(テーマは)必ず笑うで必笑です。きつい時こそ笑顔。互いに励ましあって、本石灰町の前日の朝はみんな笑顔で迎え、後日では涙と笑顔で終わりたいと思っている
大役務める2人の演技にも注目
本石灰町の御朱印船は、東南アジアとの貿易で財を成した貿易商人、荒木宗太郎の船だ。宗太郎が安南(現在のベトナム)の王女、アニオー姫を妻に迎え、長崎に戻ってきた時の華やかな行列を踊馬場で再現。18人の根曳衆は穏やかに、時に荒れ狂う海を表現する。
長崎市の歓楽街・思案橋。かつてここには丸山遊郭へつながる橋が架けられていた。その橋を渡るか、戻るか、多くの人が考え「思案」したことから、思案橋という名がつけられたと言われている。
本石灰町は200以上の飲食店が立ち並ぶ、思案橋で知られる町だ。かつてマカオから船で運ばれた石灰(しっくい)の荷揚げ場所だったことが町名の由来となっている。
今回、荒木宗太郎役を務めるのは松尾琉希(れの)くん(8)、妻のアニオー役を務めるのは熊谷朱梨(しゅり)ちゃん(8)だ。
3年前の2020年、5歳の時に奉納するはずだった2人。奉納が延期になった時、気持ちを切らさないように町の人に初めて船に乗せてもらった。周りは、くんち出演を前に気持ちを高めようとするが…。
熊谷朱梨ちゃん(2020年当時5歳):
すごい大きくて、緊張する。ねぇねぇ、琉希くん?
松尾琉希くん(2020年当時5歳):
…
緊張からか、無言になってしまった琉希くん。
本石灰町の根曳:
あんた本番でそがんせんでよ
あれから3年。船の上でも緊張することはなくなった。
2023年6月、町の関係者と「結納」を交わし、船出の時がやってきた。
荒木宗太郎役・松尾琉希くん:
謹んでお受けする。荒木宗太郎の名を汚さず頑張ります
アニオー役・熊谷朱梨ちゃん:
アニオー姫として精いっぱい稽古を頑張ろうと思う。よろしくお願いします
2人に意気込みを聞いてみた。
アニオー役・熊谷朱梨ちゃん:
長崎の港に来た時の入港のシーンがある。そこを本物の2人の様に頑張りたい
烏山拓巳アナウンサー:
今回はどんな気持ちで荒木宗太郎役を頑張りたいですか?
荒木宗太郎役・松尾琉希くん:
…
アニオー役・熊谷朱梨ちゃん:
どんな風にやりたい?
荒木宗太郎役・松尾琉希くん:
かっこよくやりたい
インタビューが終わると、すぐさま母親の元へ駆け寄る琉希くん。
琉希くんの母・真未さん:
朱梨ちゃんの言葉をまねして言えば良いじゃん~
2023年の荒木宗太郎はちょっと恥ずかしがり屋のようだ。普段は朱梨ちゃんがリードする場面が目立つが、稽古後の夕食では、少し違う。
アニオー役・熊谷朱梨ちゃん:
チーズリゾット!
荒木宗太郎役・松尾琉希くん:
ねえ、チーズのリゾット頼んでいい?オッケー!
朱梨ちゃんが食べたい料理を代わりに注文する場面も。
琉希くんの父・昭さん:
(琉希は)ご飯食べ行こうばっかりやもんな。常にそれしか言わんもんな。稽古終わったら食べ行きたいってね
船を支える“ベテランのお父さんたち”
稽古を重ねるごとに、琉希くんのエスコートも板についてきた。奉納が3年延びたことで2人は小学生となった。そこで今回は、約半世紀続いてきた所作の演出の幅を広げた。
所作担当・森崎充子さん:
年齢が上がった。前は小さい子ばかりだったので、少し大人っぽい演技を大きくさせてもらっている
荒木宗太郎はより男らしさが際立つように腕を組む場面を、アニオー姫はより華やかに見えるよう扇子を使う演技を加えた。
アニオー役・熊谷朱梨ちゃん:
アニオー姫のようなきれいな姿を見せたい
荒木宗太郎役・松尾琉希くん:
エイ!オー!
船に乗った2人を真下でサポートするのはお父さんたち。熊谷将希さん(34)と松尾昭さん(34)は共に根曳として2回目の出演だ。他の根曳衆が初出演のため、2人が御朱印船や町を引っ張る役だ。
根曳頭・熊谷将希さん:
昭くんとは、囃子方(はやしかた)の時からずっと一緒にさせてもらっているので、縁あって子どもたちも大役を務めさせてもらうので、最高の忘れられない熱いくんちにしたい
根曳・松尾昭さん:
熊谷さんは曳頭だし、僕が持っていないものをいっぱい持っている。僕の気持ちを預けてやっていきたい
奉納の延期により、それぞれの絆を深めた「チーム本石灰」が、10年分の思いを込めて諏訪の杜(もり)を盛大に沸かせる。
(テレビ長崎)