寛永11年(1634年)から続く長崎の氏神「諏訪神社」の秋の大祭「長崎くんち」が毎年10月7・8・9日に行われる。新型コロナウイルス感染拡大などの影響で、4年ぶりの開催となる。
日ごろからお座敷で踊りを披露している長崎検番が約60年ぶりに奉納する演目には、町の人たちの思いが込められている。
祭りを彩る「くんちの華」
2023年、長崎市丸山町が奉納するのは、長唄「唐人共祝崎陽祭(とうじんとともにいわうきようのおまつり)」。長崎検番の芸妓(げいこ)衆があでやかな舞を披露する。長崎検番が受け継いできた「浮かれ唐人」をアレンジした踊りだ。
この記事の画像(12枚)「阿茶さん」と呼ばれる唐人が、かつての花街・丸山で芸者と戯れる様子を表現している。
かつての日本三大花街の一つである丸山町。町内には歴史ある料亭が立ち並び、今でも花街の面影が感じられる。
今から約390年前の1634年に2人の遊女が諏訪神社に踊りを奉納したのが「長崎くんち」の始まりとも言われている。
丸山町の奉納を支えるのが「長崎検番」。芸妓衆は「おもてなしのプロ」、あでやかな舞と美しい唄で客をもてなす。
長崎検番・桃羽さん:
(お座敷の時は)前回よりももっと、常にもっともっとと思っている。「期待以上だったよ」と言われるように
長崎検番の芸妓衆は「くんちの華」と呼ばれ、毎回見事な本踊を奉納している。
熱の入る指導…くんち初参加の芸妓も
8月末、諏訪神社での場所踏みに臨んだ。「浮かれ唐人」は、唐人が丸山で芸者と戯れる様子を表現する。
芸者役を務めるのはすず華さん。YouTubeで見たお姉さん方の姿に憧れて芸妓の道を選び、4月に初めて座敷に入ったばかりの新人芸妓で、くんちの出演はもちろん初めてだ。
新人芸妓「芸者役」・すず華さん:
斜め前じゃなくて真横に行くんですか?
踊りを指導・花柳孝光央さん:
だからこの場所を覚えておく
新人芸妓「芸者役」・すず華さん:
ここに戻ってくる?
踊りを指導・花柳孝光央さん:
そうそうそう
石畳はでこぼこで滑りやすく、見える風景も違うため、普段稽古をしている室内とは感覚が全く異なるという。
新人芸妓「芸者役」・すず華さん:
外で踊ること自体が初めてだったので、何から何まで全然違った。プレッシャーもあるが、おくんちに出させていただくことがとてもうれしいので、精いっぱい、いい奉納踊りができるよう頑張りたい
コミカルな動きが特徴的な唐人役の「桃羽さん」も、今回がくんち初出演だ。魅せ場は約2分間の「ひとり踊り」。
「唐人役」・桃羽さん:
私は小柄だが(演技では)大きく見せないといけない。自分が舞台に立っていない時の気持ちの持ち方や姿勢まで気をもっていかないと、そこまで手を抜かないようにやりたい
場所もだが、演技のかたちもお座敷とは違う。
孝光央師匠は芸妓たちに、「(今も)間隔はあるように感じるかも知れないが、(長坂の)上から見たときに頭しか見えなくなるから、少し引いてあげないと一番上から見る人は見えない」と演技の指導を行う。
踊りを指導・花柳孝光央さん:
(座敷では)下から芸者さんは見られることが多いが、くんちだけはすり鉢の底で踊るような感じ。目線などを意識している
浮かれて踊ってみんなの元気を上向きに
そして本踊に欠かせないのが、三味線や唄を披露する地方(じかた)だ。
こんげんよかことなかばってん。チクライチクライカーラリフーラリミョー
夏は盂蘭盆(うらぼん)、精霊流し(浮かれ唐人より)
歌詞には長崎弁や唐人の言葉を想起させる音遊びが登場し、港町・長崎の異国情緒と華やかさを描いている。
地方・三勇さん:
こういう情景を唄っているんだなというのが伝わるといい。踊りの説明をしているから
地方・るり羽さん:
当時、中国の方が来た時に長崎で(過ごした)情景を思い描いて見てほしい
丸山町が「浮かれ唐人」の全てを奉納するのは58年ぶりのことだ。この唄と踊りにひとつの思いを込めている。
踊りを指導・花柳孝光央さん:
題名の通り「浮かれ唐人」は浮かれて踊る踊り。久しぶりのくんちをみんなで浮かれていただいて、もっとみんなを元気良くするつもりなので、一緒になって元気を出してもらいたい
長崎検番「芸者役」・玉羽さん:
コロナ禍も落ち着いて、皆さんの気持ちが上向きになっているところに、賑々(にぎにぎ)しく皆さんの気分を上げられるように、みんな一緒に楽しく頑張ろうと思う
新人芸妓「芸者役」・すず華さん:
ちょうど残りがあと1カ月となったので、あとはもう長崎検番でひとつになって、一丸となって、いい奉納踊りができるように、これからもずっと練習していきたい
「くんちの華たち」が、あでやかな舞いと美しい唄で長崎の町を明るく照らす。
(テレビ長崎)