寛永11年(1634年)から続く長崎の氏神「諏訪神社」の秋の大祭「長崎くんち」が毎年10月7・8・9日に行われる。新型コロナウイルス感染拡大などの影響で、4年ぶりの開催となる。
2人のオランダ人がコミカルな踊りで魅了する栄町の「阿蘭陀万歳(おらんだまんざい)」。女子高校生の踊子は、目標とする母の背中を追いかけている。

踊子達が魅了するコミカルな踊り

栄町が奉納するのは、くんちを代表する人気の演目の1つ「阿蘭陀万歳」だ。
「阿蘭陀万歳」は、昭和初期(1933年・昭和8年)に誕生した日本舞踊花柳流の創作舞踊で、「東京生まれ長崎育ち」の踊りといわれている。

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その昔、長崎に流れ着いた2人のオランダ人が、生計を立てるために“万歳”を踊ったという筋書きだ。個性的な化粧と華やかな洋装で一般的な日本舞踊とは一線を画している。例えるなら「万歳」がツッコミ役で、「才蔵」がボケ役。愛嬌ある動きや表情が魅力だ。

栄町は46年前の1977年から「阿蘭陀万歳」を奉納していて、前回の2013年は、それまで女性が演じてきた万歳と才蔵をくんち史上初めて男性2人で披露した。

2023年も特別な演出でくんちの舞台を盛り上げようとしている。それが、万歳と才蔵が2組。男性の組と女性の組あわせて4人で踊る。

男性は小学校教師の花柳太香九郎さん(38)と大学院生の花柳寿女寿郎さん(24)。女性はコンビニで働く花柳寿女晏奈さん(25)と、高校生の花柳千花寿郎さん(18)だ。

指導を担当する・花柳太香寿郎さん:
長崎の当時の華やかなにぎやかな雰囲気を表現したくて、2組を出しました。振りは変えることはできないが、演出や構成を変えてやっています。楽しんでいただけると思う。

母の背中を追いかける女子高校生踊子

2023年5月、栄町は踊子と「結納」を交わした。“奉納のために町の一員になってもらう”欠かすことができない昔からのしきたりだ。

才蔵役の1人を任された、花柳千花寿郎さん、18歳だ。

才蔵役/久原一花こと花柳千花寿郎さん(18):
未熟な私が踊ることにプレッシャーも不安もあるが、やりきったという感じで本番を迎えられるように練習をしっかりしていく。

前回、前々回は唐子役で出演
前回、前々回は唐子役で出演

栄町への出演は18歳にして3回目。
前回、前々回ともに唐子役で、1歳にして諏訪の舞台を踏んだ。あれから10年ついに主人公に選ばれた。

才蔵役/久原一花こと花柳千花寿郎さん(18):
大好きなくんちに出ることができて本当にうれしい。
やっとできるという気持ちもあるし、4年くんちがなくて、待っていた人もいる。不安もありつつでもワクワクもありつつという気持ち。

千花寿郎さんは本来奉納を行うはずだった2020年、15歳(中学3年生)の時に才蔵役に抜てきされていた。しかし、新型コロナの感染拡大などで奉納踊は3年連続で中止に。
通常開催が決まった2023年、千花寿郎さんは大学受験を控えていたが、稽古と勉強を両立してでもくんちに出演することを決めた。

才蔵役/久原一花こと花柳千花寿郎さん(18):
くんちの練習も結構ある中で、勉強もしていかなければいけない。大変は大変。1カ月切って今はもうやるしかないという気持ち。

千花寿郎さんには目標とする人がいる。

才蔵役/久原一花こと花柳千花寿郎さん(18):
高望みな思いなんですけど…母のように。

千花寿郎さんの母は、指導を担当する花柳太香寿郎さんだ。
過去2回(1999年と2006年)千花寿郎さんと同じ才蔵役で出演、愛嬌と華がある踊りで会場を沸かせた。

才蔵役/久原一花こと花柳千花寿郎さん(18):
自分は生まれていなくて(母の踊りを)ビデオでしか見たことがなくて、ビデオの中で見ても伝わってくるその場の雰囲気だとか、一緒に踊っている気持ちになれるような阿蘭陀万歳。母に届くとは思っていないが目指していければと思う。

目標とする母からの指導。実の親子でも、稽古場ではあくまで「師匠」と「弟子」だ。

指導を担当する・花柳太香寿郎さん:
力を抜いて…しっかり体を使って!ここははっきり!ひざが曲がる!かかとから先へ!

動きに緩急をつけ、踊りの表情をより際立たせる。本番まで1カ月を切り指導にも熱が入る。

才蔵役/久原一花こと花柳千花寿郎さん(18):
(踊りの)間のつなぎができていない。自分の中では完璧とはいえない。

指導を担当する・花柳太香寿郎さん:
(千花寿郎さんは)もっと出せるんじゃないかと。一花なりの阿蘭陀万歳を模索して、練習していってくれるといい。

10年ぶりに踊り馬場に戻る思い

2023年の「阿蘭陀万歳」には新たに加えた場面がある。
賑やかな雰囲気から一転、ふるさと・オランダを懐かしむ「望郷」だ。

哀しみが湧き上がる中、仲間を見つけ「もう一度頑張ろう」と立ち上がる。心の動きを、言葉ではなく表情と、体で表現する。

万歳役/山口晏奈こと花柳寿女晏奈さん(25):
体の使い方や表情もまだまだなのであと1カ月残り少ないが、稽古をして仕上げていきたい。

目指すのは、心をひとつに“4人で魅せる”阿蘭陀万歳。それぞれの個性を出すことも意識している。

万歳役/田川太一こと花柳寿女寿郎さん(24):
万歳らしく、どっしりとしているがそこに面白みを加えたい。

万歳役/西村圭こと花柳太香九郎さん(38):
ずっと2人、2人ではなく途中入れ替わったりするところもある。
それぞれのいいところが出るようにしたい。

才蔵役/久原一花こと花柳千花寿郎さん(18):
母のように臨場感が出せるように役に入りきって、面白い、コミカルな阿蘭陀万歳が踊れたらと思う。

阿蘭陀万歳は、万歳・才蔵の4人にに加え、子どもたちの唐子や町娘も加わり、賑やかに盛り上げる。栄町の唐子役は本来小学生から中学1年生くらいまでの子どもが演じるが、3年間の中止で、高校生になった唐子役もいるため今回初めて「お姉さん唐子」という役を作られた。

指導する花柳太香寿郎さんは「踊りの流れを作ってくれている。新たに役を作って本当に良かった」と話す。

10年ぶりに踊り馬場に戻ってくる阿蘭陀漫才。面白さだけではない、人情味も加わった特別な演出で会場を沸かせる。

長崎くんち・2023年の踊町

(テレビ長崎)

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