比例70歳定年制で世代間バトル

自民党選対本部会議 7月20日・自民党本部
自民党選対本部会議 7月20日・自民党本部
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自民党は7月20日、来年夏の参議院選挙に向け、第一次公認として選挙区で37人、比例区で19人の候補者を発表した。
この選挙の公認に関し、近年、風物詩のようになっているのが「世代間バトル」だ。

今回も自民党の内規で決まっている比例候補者の「原則70歳定年制」について例外を認めるかどうかを巡る世代間バトルが勃発した。

来年の参院選で定年制にひっかかる70代の参議院議員のうち9人が、『人生100年時代』『1億総活躍』といった政策を背景に、年齢差別の解消を訴え、定年制を適用せずに公認するように求めていた。
これに対し、青年局を中心とした若手議員は、世代交代による新陳代謝を進めるため、定年制の厳格な適用を訴えていた。

バトルの結果は、9人のうち7人に公認が出というもので、おおむね70代の議員の主張に軍配があがった形だ。
 

定年制推進の風向きに変化

これまで高齢の議員については、「長老支配」とか「老害」などと言われ、とかく嫌われがちだった。

思い出されるのは、2003年に当時の小泉純一郎首相が、衆議院選挙の比例単独候補に73歳定年制を適用した際、対象となる中曽根元首相、宮沢元首相の2人に引退勧告をしたことだ。

特に、かつて党から終身比例一位を約束されていた中曽根氏は、「政治的テロだ」と猛反発し、直接引退勧告しにきた小泉首相の要請を拒否して大騒動になった。

 
 

この一件も含め、定年制推進論の背景には、「若手議員=良い、高齢議員=悪い」というイメージが浸透し、高齢議員は既得権益の代弁者のようにも扱われるという状況があった。
 

若手議員の不祥事続発も背景に

ただ、その後、民主党の政権奪取に伴う小沢チルドレンの大量当選、そして自民党の政権奪還に伴う安倍チルドレンの大量当選を経て、政治家の新陳代謝が一定程度進んだ。

その結果はどうだったかというと、若手議員の不祥事が連発し、最近では“魔の3回生”などという言葉が流行するくらいで、年齢が若返れば政治がよくなるなどということはなかった。

 
 

逆に高齢化が一段と進む中で、安倍政権も「1億総活躍」や「人生100年時代」などの政策を打ち出し、まだまだ働ける高齢者にはどんどん活躍してもらおうという空気になっている。

政界でも大島衆院議長(71歳)のような、寝技ができて威厳のある人が重宝され、二階幹事長(79歳)は党の要として君臨、伊吹元衆院議長(80歳)も存在感を発揮している。

大島理森衆院議長、二階俊博幹事長、伊吹文明元衆院議長
大島理森衆院議長、二階俊博幹事長、伊吹文明元衆院議長

そうした中、政治家の世代論については、重しとなる長老、油ののった壮年、血気盛んな若手の「老・壮・青のバランスが大事だ」との考えが、与野党を問わず大勢を占め、年齢で一律に区切る「定年制」自体への疑問の声も以前より広がっているように感じる。
 

定年の例外を認められた理由は「支援団体の力」

一方で、今回、参院比例定年制の例外として7人が公認されることになった背景には別の事情もある。

塩谷選挙対策委員長は公認発表会見で、比例区での公認を希望した70代議員9人中7人を定年制の例外とした理由について、自民党の比例定年制には「支援団体が余人を持って代えがたい候補と決定」という例外規定が設けられていると指摘し、この7人を支援する団体については、「我が党とかなり強い連携がある団体が多い」と説明した。

では、公認された議員、公認されなかった議員はどんな人で、どんな支援団体を抱えているのか見てみたい。

一次公認となった山田俊男氏、柘植芳文氏、佐藤信秋氏
一次公認となった山田俊男氏、柘植芳文氏、佐藤信秋氏

※年齢は参議院の任期満了を迎える来年7月28日時点

<一次公認となった議員>
衛藤晟一(71歳) 首相補佐官
木村義雄(71歳) 元厚生労働副大臣
佐藤信秋(71歳) 全国建設業協会
山東昭子(77歳) 元参議院副議長・タレント
羽生田俊(71歳) 日本医師連盟
山田俊男(72歳) 全国農政連
柘植芳文(73歳) 全国郵便局長会

<一次公認にならなかった議員>
石井みどり(70歳) 日本歯科医師連盟
丸山和也(73歳) 弁護士・タレント

これを見ると、1974年初当選のレジェンドにして、“元祖タレント候補”の山東昭子氏や、安倍首相に近い衛藤晟一氏らは別として、多くの議員が強力な組織力をもった団体に支えられていることが分かる。

一次公認となった衛藤晟一氏、山東明子氏
一次公認となった衛藤晟一氏、山東明子氏

さらに2013年の参議院選挙での得票数を見ると興味深い。

■2013年参議院選挙結果

柘植芳文 42万9002(得票数1位)
山田俊男 33万8485(得票数2位)
石井みどり 29万4148(得票数4位)
羽生田俊 24万9818(得票数6位)
佐藤信秋 21万5506(得票数7位)
山東昭子 20万5779(得票数9位)
衛藤晟一 20万4404(得票数10位)
丸山和也 15万3303(得票数14位)
木村義雄 9万8979(得票数17位)

この選挙で自民党は比例区で18議席を獲得した。
当選ラインぎりぎりの18位となった議員の得票数はというと、「7万7173票」だった。
1位になった柘植氏は当選ラインの実に6倍の票を獲得したわけだ。
いかに支持母体の全国郵便局長会の組織力が強靭かを感じさせる結果だ。

それだけに団体の意向を尊重し、定年規定の例外として公認を出すことが、自民党全体の票の底上げにつながるという計算もみてとれる。
 

定年制を議論する際は公平性の観点を

では、今後定年制はどうあるべきなのだろうか。

塩谷選対委員長は会見で「私個人としては定年制について、もう一度議論すべきではないか。70歳定年というのが、いいのかなということも検討する必要があると思っている」と述べ、今後の定年制の見直しに意欲を示した。

会見し公認候補を発表する自民党・塩谷選対委員長(7月20日)
会見し公認候補を発表する自民党・塩谷選対委員長(7月20日)

重要なのは、年齢そのものというよりも公平か不公平なのかではないだろうか。

衆議院は、比例に拘束名簿方式をとっていて、政党が、当選させたい候補者の順番を決めることができる。この制度のもとで終身1位などという約束がされれば、その割を食って当選できない人が出てしまうのは、やはり不公平なことだと思われる。

一方で、参議院はこれまで非拘束名簿方式で、各政党の当選人数の中で、個人名での得票数が多い順番に当選していく。ベテランだろうが、若手だろうが、個人名を書いてもらう戦いを全国で繰り広げるので、必ずしも年齢にこだわる必要はないのではないか。

極論を言えば、100歳の人が公認されたとしても、公平に有権者が投票した結果として当選するならば、それは民意の反映として良いのではないか。

懸念は、先の通常国会で参議院の選挙制度が変更されて、「特定枠」という事実上の拘束名簿式が一部に導入されたことだ。
自民党は合区解消までの間の救済措置として、地域代表を出せない合区県の候補を対象にこの制度を使う予定だが、もし参議院でも終身比例1位のような優遇を画策したら、それは公平性の観点から批判の声が上がるだろう。

 
 

定年制を議論する上で、少子高齢化により、シルバーポリティクスとも言われるほど政策が高齢者優先になりがちになっているため、もっと若い政治家が若年層の声を国政に反映させるべきだという意見にも一定の説得力があることは確かだ。

その上で、高齢の議員をひとくくりにして良し悪しを語る以上に、幅広い有権者の民意を公平に国会に反映するにはどうすればいいかという視点から、世代間バトルを繰り広げてもらいたいと思う。


(政治部・与党キャップ 中西孝介)

 

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。