36人が犠牲となった京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判で、青葉被告が遺族の質問に答え、初めて謝罪の言葉を口にした。青葉被告と法廷で対峙(たいじ)した遺族は、「話している内容が幼稚すぎて、聞いていてしんどかった。本当に身勝手な理由だった」と語っている。

青葉被告が法廷で初めて謝罪

青葉真司被告(45)は2019年、京都アニメーションの第1スタジオにガソリンをまいて放火し、36人を殺害した罪などに問われている。法廷でも、犯行動機について「京アニに作品をパクられた」などと話す青葉被告。20日、遺族による質問の日を迎えた。

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事件で亡くなった京アニを代表するアニメーター、寺脇(池田)晶子さんの夫は青葉被告と初めて対面し、直接質問をした。

法廷に立った寺脇(池田)晶子さんの夫が「池田晶子がいることはご存じでしたか?」と質問すると、青葉被告は「作画監督として務めている認識はありましたが、厳密に誰というより京アニ全体を狙う認識、誰か個人という認識はありませんでした」と語った。

また、寺脇(池田)晶子さんの夫が声を震わせながらゆっくりと、「事件前に放火殺人をする対象者に家族…特に、特に子どもがいる事は知っていましたか?」と質問した際には、青葉被告は「申し訳ございません。そこまで考えなかったのが、自分の考えであると思います」と答え、法廷で初めて謝罪の言葉を口にした。

しかし、別の遺族の代理人から「被害者の立場に立たなかったのか」と問われると、「京都アニメーションはパクったりしたことに良心の呵責(かしゃく)はないのか」などとまくしたて、裁判長から注意を受けた。

20日の公判を終えた後に開かれた記者会見で、寺脇(池田)晶子さんの夫は「終わってからまだ間がないので、きょうあったこと、まだ自分の中でも整理しきれてない。非常に複雑な気持ち。(青葉被告が)話してる内容が幼稚すぎて、聞いていてしんどかった」と語った上で、質問の際、晶子さんの名前を出した場面については、「その場に立つと、感情が抑えきれない。名前を出すと、その人との記憶が走馬灯みたいにして、思い出しちゃうんですよね。非常に身勝手な、他の人が質問した内容も聞いたけど、本当に身勝手な理由だったよって(晶子さんには報告する)」と話した。

関西テレビ 京都支局・越後みなみ記者:
6回目となった20日の被告人質問では、遺族らが被害者参加制度を使い、青葉被告に初めて直接質問する日とあり、法廷内はいつも以上に緊張感に包まれていました。亡くなった寺脇晶子さんの夫は、大きく深呼吸をしてから、青葉被告に訴えかけるように質問を始めました。寺脇晶子さんの夫は約10分間質問し、時折声を震わせたり、涙で言葉を詰まらせたりする場面もありましたが、青葉被告から目をそらさずに、じっと聞いている様子でした。また、他にも遺族とみられる人が涙を流しながら聞いている様子も見られました

被告が口にする「闇の人物」の存在

公判の鍵を握るのは「闇の人物」の存在。青葉被告は京アニの小説コンクールに落選したことが犯行の大きなきっかけになったと主張している。ここまでの公判の中で「闇の人物」というキーワードが何度も出てきた。

法廷で弁護側が「事件は小説コンクールを落とされたことがきっかけか」と尋ねると、青葉被告は「落選させたのも闇の人物だと考えている。京アニがその実行部隊である。一番狙いたいのは京アニだ」と発言した。 こうした発言から、弁護側は犯行動機には「闇の人物」がいるとみている。

一方で検察側が「では、闇の人物は敵か?」と尋ねると、青葉被告は「敵対している部分もあればしていない部分もある」と返答。また、検察側の「闇の人物は小説の盗用に関わっていないのでは?」という質問に対して、被告は「おそらく関わっている」と発言した。こうした発言から検察側は、「闇の人物」が動機に与える影響は小さいのではないかとみている。

争点となる“被告の責任能力”

弁護側、検察側、双方の被告人質問から見えた公判のポイントとは。

関西テレビ 京都支局 越後みなみ記者:
弁護側は、妄想の程度が大きく、完全に支配されているといった印象を植え付けるためなのか、どこからが事実でどこからが妄想なのかわからない、理解しがたいような話を被告に存分に語らせているような印象がありました。弁護側は引き続き妄想が責任能力の欠如にどう影響していたかを立証していくとみられます。一方検察側は、闇の人物に関する青葉被告の説明について矛盾点や曖昧さを追及していた印象でした。検察側は妄想に支配された犯行ではないとしていて、犯行準備や犯行自体に計画性がみられることや、犯行をためらっているにもかかわらず、実行したことなどから、青葉被告の人のせいにしやすいなどの思考や行動の傾向が現れた犯行だと立証していくとみられます

今後、京アニ裁判を巡っては、10月下旬から争点である責任能力に絞った審理が始まり、青葉被告の精神状態を鑑定した医師の証人尋問なども行われる予定で、責任能力をどう判断していくのか注目される。

(関西テレビ「newsランナー」2023年9月20日放送)

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