災害から身を守るには、安全な場所に避難することが大切だ。ただ、赤ちゃんがいる家庭では、避難所に行くのをためらってしまうことがあるという。

ベビー用品メーカーのコンビ株式会社は2022年2月、1歳までの子どもがいる250人に、避難場所についての意識調査を行った。

親の半数以上がすぐに避難所に行かないと回答(コンビ株式会社の調査結果より)
親の半数以上がすぐに避難所に行かないと回答(コンビ株式会社の調査結果より)
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避難指示が発令された場合、すぐに赤ちゃんと避難所に行くか聞いたところ「すぐにはいかないと思う」(46%)、「行かないと思う」(6%)と、約半数がすぐには行かないとした。主な理由は「一緒に避難できる状態なのか確認してから判断するため」などだったという。

多くの不安を感じていた(コンビ株式会社の調査結果より)
多くの不安を感じていた(コンビ株式会社の調査結果より)

また、避難所で赤ちゃんと過ごすことへの不安はあるか(災害情報は除く)と聞くと「とても不安がある」(80%)「やや不安がある」(18%)となり、全体の98%が不安を感じていた。

不安の中身について、複数の選択肢から選んでもらったところ、「赤ちゃんが騒いだり泣いたりすること」「寝かせられるマットやベッドがあるか」といったものが見られたという。

赤ちゃん用の“段ボールベッド”を開発

そこで、コンビの子会社「コンビウィズ株式会社」が注目したのが、赤ちゃん用の簡易ベッド。防災備蓄品として「Combiひなん所用コットHB11 ベビーにこっと(3個入)」を開発したのだ。

ベビーにこっとの特徴(提供:コンビウィズ株式会社)
ベビーにこっとの特徴(提供:コンビウィズ株式会社)

ベビーにこっとは、縦約81cm、横約48cm、高さ約61cm。素材の多くが段ボール製のため、工具なしで組み立てられるという。避難所での生活を想定して、頑丈な土台、通気性があるパッド、ほこりや粉じんを避ける、折りたたみ式の幌(ほろ)などを備えているのが特徴だ。

使用できるのは、生後6カ月くらいまで、体重11kg以下の赤ちゃんになるという。

工具なしで組み立てられる(提供:コンビウィズ株式会社)
工具なしで組み立てられる(提供:コンビウィズ株式会社)

ベビーにこっとは3床のセットで4万9500円(税込)。昨年6月の発売から2023年8月末の時点で、全国の自治体、商業施設、保育施設など、50以上の施設で導入・備蓄されているという。

※施設で帰宅困難になった場合や避難所での使用を想定しているため、個人向けの販売はしていない。

赤ちゃんとその親は、避難所でどんな環境に置かれるのだろう。そしてなぜ、段ボール製の簡易ベッドで解決しようと思ったのか。コンビウィズ株式会社の担当者に聞いた。

赤ちゃんとの避難は不安や心配だらけ

――なぜ、親は避難所に行くのをためらう?
避難所だと、親は赤ちゃんが泣いたり騒がないよう、周囲に気を使いながらあやしたり、寝かしつけることになります。不衛生な環境下で健康を損なわないかと心配もします。赤ちゃんを寝かせられる場所がなく、暗闇で踏まれないようにするため、一晩中抱えながら座っていることもあるそうです。こういった気苦労、衛生面・安全面など不安を感じているのです。

一晩中抱えていることもあるという(画像はイメージ)
一晩中抱えていることもあるという(画像はイメージ)

――「ベビーにこっと」を開発したのはなぜ?
きっかけは2020年7月の記録的豪雨です。救助される赤ちゃんをテレビで見たとき「避難所に赤ちゃんを連れて行っても大丈夫」と思える備蓄品があれば、逃げ遅れることなく、もっと早くから避難できたのではないかと考えました。


――赤ちゃん用のベッドに注目した理由は?
赤ちゃんは数十cmの高さでも、転落すると頭蓋骨骨折や頭蓋内損傷の恐れがあります。壁や物との間に頭が挟まれるなどして窒息するケースもあり、命を落とす危険性もあるため、大人と一緒のベッドで寝るのは危険です。大人用の段ボールベッドが避難所で支給されることがありますが、赤ちゃん用は普及していないと思い、本製品を開発しました。

赤ちゃんの快適性を重視

――開発でこだわったところは?
快適性です。(避難所だと)夏場は蒸し暑くなり、冬場は底面から冷気が伝わりやすくなります。少しでも寝心地を良くするため、コンビのベビーカーで採用しているシートをアレンジしたパッドを置き、本体底面は底上げ式の構造として、通気孔を設けました。

また、赤ちゃんの存在をアピールしています。大きな幌を取り付けることで、照明の光やほこりを避けるとともに、遠目でも分かるようにしたほか、本体の角に蓄光テープを貼ることで夜や停電時の暗闇でも、赤ちゃんの位置を確認できるようにしています。

赤ちゃんの存在をアピール(提供:コンビウィズ株式会社)
赤ちゃんの存在をアピール(提供:コンビウィズ株式会社)

――素材に段ボールを選んだのはどうして?
段ボールは軽くて持ち運びしやすく、使用後は資源ごみとして再利用できるほか、空気層のある構造なので、断熱や防音効果もあります。段ボールで囲う形状にすることで、赤ちゃんを冷気などから守り、周囲から聞こえてくる雑音も緩和しました。

ベビーにこっとの使用イメージ(提供:コンビウィズ株式会社)
ベビーにこっとの使用イメージ(提供:コンビウィズ株式会社)

――避難所で活用する上での注意点は?
赤ちゃんを放置して離れないことです。離れる必要がある場合は、代わりの人に見守りを頼むようにお願いします。また、つかまり立ちが出来るようになった赤ちゃんは利用できません。その他も含めて、本体にイラスト付きで注意点を表記しています。

赤ちゃんとの避難をちゅうちょしないで

――平常時はどのように保管しておけばよい?
高温多湿を避けて保管をお願いします。本製品はポリ袋で密封し、梱包箱にテープ止めで密閉されています。中身の確認などで開けてしまったあとに、きちんと密閉しないまま保管されると、虫や雑菌が混入する可能性がありますのでご注意ください。


――ベビーにこっとに期待する影響は?
赤ちゃん用の防災備蓄品があると知ってもらうことで、赤ちゃん連れで避難所に行くことを、ちゅうしょしてしまう親が少しでも減ることを期待します。施設側でも、赤ちゃんの避難、防災についての意識を向けるきっかけになっていただければ幸いです。

避難所に行っても、赤ちゃんと過ごせる環境がない可能性もある。こうした不安で避難をためらうことがあるようだ。乳幼児を安心して寝かせられる環境の整備も求められるのかもしれない。

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。