災害大国日本では、誰もがいつ災害に巻き込まれてもおかしくない。ライフラインが寸断し、大人であっても厳しい状況にさらされるなか、子どものいる家庭はよりいっそうの困難に直面する。災害から子どもの命を守るためには、どのように備えるべきなのか。

『子どもの命と未来を守る! 「防災」新常識 ~パパ、ママができる!!水害・地震への備え~』(辰巳出版)の著者で、2歳の子どもを育てる母親でもある防災士、フリーアナウンサーの奥村奈津美さんに話を聞いた。

奥村奈津美さん
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子どもの防災意識を高めるために

災害時は、親の選択が子どもの命を左右しかねない。いつ、どこに避難をするか、何を持っていくべきか。自宅には何をどれだけ備えておくか。平常時から考えておくべきことは山積みだ。

何より先に取りかかってほしいのは、自治体のハザードマップを確認することだという。自分の住む地域の洪水、土砂災害、津波などのリスクがあるかどうかをチェックする。

避難や備蓄の計画はそれからだ。合わせて自宅の耐震性が十分かどうかも調べておきたい。詳しくは奥村さんに取材した「水害・地震の備え」をチェックしてほしい。

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しかし、いくら親が防災の知識を蓄えたとしても、災害は突然やってくる。いざという時に子どものそばに親がいるとは限らない。学校や保育園、幼稚園にいる時間帯ならその場にいる大人を頼る可能性も高いが、通学中や自宅で一人留守番中に災害が起こるかもしれない。その時、子どもは自分自身で判断せざるをえない状況になる。

だからこそ必要なのは、平常時から子どもの防災意識を育てること。奥村さんはまず、親子で防災体験施設に行くことを提案している。

「防災体験施設には地震の揺れや暴風雨、浸水などをリアルに体験できたり、VR技術で地震、火災、風水害を体感できたりする施設もあります。そういった場所では子どもも前のめりで話を聞いてくれるはずです。施設で水の冷たさや風の強さ、揺れたときの音の怖さなどを五感で体験しておくことで、実際に被災したときのストレスのかかり具合が変わってくるかもしれません。もちろん怖がりすぎてはいけないので、その子と相談しながら試すことが大事です」

親子で行いたい「防災散歩」

加えて奥村さんが提案するのが「防災散歩」だ。ハザードマップを見ながら、子どもと自宅から保育園や幼稚園、学校、公園、そしてよく遊びに行く友人宅などへのルートを散歩してみよう。

「災害時はどの道を通るかで生死が分かれる場合さえある」と奥村さんは言う。帰宅や避難で道を歩く時は、ハザードマップ上で色のついた浸水しやすい道や土砂災害のリスクのある道、また老朽化した橋などを避けて通りたい。少しでもリスクを軽減するルートを家族で事前に把握しておく。防災散歩の目的はここにある。

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また、地震において危険なのが「ブロック塀」のある道だ。

2018年の大阪北部地震では当時9歳だった子どもが、ブロック塀の崩落に巻き込まれて亡くなっている。地震は予測できないため、子どもには普段からブロック塀のそばを通る道を避けるように伝えておきたい。避けるのが難しい場合はせめて反対側の道を通るなどの工夫が必要だ。

避難所の場所は「複数」確認しておく

防災散歩で合わせて確認したいのが、「避難所の場所」。日中に災害が起これば、離れた場所で家族が被災する場合もあるだろう。避難所を確認したら、具体的な集合場所と時間まで決めておくのが大切だ。

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「避難所は広い上に人がごった返しています。その中で家族の姿を探すのはとても大変です。東日本大震災の時も、避難所を一カ所ずつ回りながら家族を探された方がたくさんいました。『避難所の、あの入口の右側にある柱に10時と15時の2回集合しよう』などと、話し合っておくといいです」

避難所も一カ所ではなく順位をつけて複数の選択肢を家族で設けておいてほしいという。「場合によっては避難所から逃げなければならない事態になることも想定されます。いくつか選択肢があれば、家族を探す助けとなるでしょう」

避難所を決める際にチェックしておきたいのが、避難所が安全な場所に建っているかどうかだ。ハザードマップに記された避難所のなかには浸水や土砂災害の恐れのある場所に立地しているものもある。

熊本県球磨郡球磨村の水没した指定避難所(写真提供:奥村奈津子さん)

実際、奥村さんが令和2年7月豪雨で被害のあった熊本県球磨村を訪れた際、ある指定避難所では1階が完全に水没していたという。幸いにもここに避難していた人々はとっさの判断で高台にある別の避難所に移動していたというが、この建物には2階がなく、もし留まっていたなら水に飲まれてしまっていただろう。

非常用持ち出し袋はカスタマイズ必須

避難所へ持ち込む「非常用持ち出し袋」も、子どもがいる家庭では通常とは異なる工夫が必要だ。市販のものを購入済みという人もいるかもしれないが、「『一番大事なもの』が絶対に入ってない」と奥村さんは指摘する。

「例えば眼鏡や補聴器などの体の一部になるもの、そしてアレルギー持つお子さんにはエピペンなどの薬やアレルギー対応食も重要でしょう。無いと命に関わるようなものは絶対に市販のセットには入っていません。なので、自分仕様にカスタマイズしてほしい」という。これらは自治体の備蓄や支援物資にも頼れないものばかりだ。

幼い子どもがいる場合はオムツやおしり拭きのような排泄物への備えも欠かせない。オムツは支援物資として届く場合もあるが適したサイズがないこともある。非常用持ち出し袋に、少なくとも10枚程度は入れておきたい。ミルクを飲む乳児がいる家庭では液体ミルクや固形の粉ミルクと紙コップ、ミルクを溶かす割り箸も加えておこう。

「袋に入れる非常食も平常時に試してみて口に合うと確認したものを加えてください。災害時に初めて食べるのは不安ですし、子どもの場合は食べてくれないケースも考えられます。市販のベビーフードなら購入した時点から1年程度はもつものが多いので、食べたことのある商品を袋に入れて、衣替えの時期に合わせて中身を交換するサイクルにするのがおすすめです」

奥村さんも衣替えの時期に毎回、袋の中身を入れ替えるという。暑くなる季節には虫除けスプレーなどを入れ、夏が終わると防寒着やカイロと入れ替える。定期的に中身をチェックする機会を持てば、必ずしも長期保存できる特別な非常食を買わなくても日常の延長線上で備えることができる。

避難所での子どもが退屈しないために

避難所では子どもが退屈してぐずったり騒いだりすることも考えられる。周囲にも気を使い、親としてもストレスが増すはずだ。少しでも助けになるものとして、非常持ち出し袋にはお菓子やおもちゃも入れておこう。

「おもちゃは、音が鳴らず、電池も充電も必要ないものを選びましょう。年齢によって絵本や漫画、折り紙、また絵を描くのが好きな子なら色鉛筆に自由帳とか。その子によって集中できるものが全く異なります。うちの子だと電車のシールブックが大好きなので、それを袋に加えています」

コロナ禍の現在は、避難所での感染対策としてマスクや消毒液、体温計も必要だ。ただ、考え出すとあれもこれもと入れたくなるが「走って逃げられる重さをキープしてほしい」と奥村さんは語る。

南海トラフ地震などの大地震では、場所によっては地震発生後に数分で津波が到達する想定がされている場所もある。子どもが小さい場合は抱っこしたまま逃げるためなおさらだ。

ちなみに、抱っこで逃げる際には両手が空くよう子どもを抱っこ紐で抱え、その際子どもの靴は忘れずに袋に入れて逃げよう。

 一人で問題なく歩ける子どもの場合は、子ども専用の非常用持ち出し袋を作るのもおすすめだという。避難途中に親とはぐれることもあるからだ。子ども自身で好きなお菓子やおもちゃを選んで詰めれば主体的な防災意識を育む体験にもなるはず。

自宅での備蓄の考え方

ハザードマップ上で浸水や土砂災害、津波の危険がないと判断できる家庭は在宅避難も検討してほしいという。自宅の備蓄はどの程度備える必要があるのだろうか。

「最低限、1~2週間は買い物に行かずとも生活できる備蓄スタイルにしておけば、食品や水の買い占めが起きても焦らないはずです。我が家ではペーパー類やオムツ、マスクを最低限1カ月分ぐらいは備蓄しています。そうすれば災害時に生産が滞ったりした場合も対応できると思います」

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「ただし周囲が3メートル以上浸水するようなエリアだと、あたり一帯が水没してしまい、水が引くのにも時間がかかります」と奥村さんは付け加える。「例えばマンションの上層階に住んでいる方や一戸建てで2階以上に垂直避難を考えている場合もすぐには救助が来ないと思って、数日間そこで過ごさなければいけない想定で備蓄しておくことが大切です」と念を押す。

加えて、妊産婦や乳幼児などは、垂直避難をした場合に体調が急変してもすぐに病院に行けないということも頭に入れておいてほしい。

災害への備えは、「自治体には頼れないと考えて、自分で準備する意識を持ってほしい」と奥村さんは語る。「日本では今後30年以内に首都直下地震が70%、南海トラフ巨大地震が70〜80%の確率で発生すると言われています。それは東日本大震災を超える、大災害になる想定です。その時、支援物資が何日経ったら届くかというのはもう未知の世界です」。

親自身が、普段から主体的に防災意識を持って生活すれば、自然とそれは子どもにも伝わるだろう。それを後押しするアイデアとして、防災体験施設や防災散歩が役に立つに違いない。そこで得た防災知識が、生死を分けるとっさの判断を正解に導くかもしれないのだ。

奥村奈津美
1982年、東京生まれ。防災士、福祉防災認定コーチ、防災住宅研究所 理事・防災教育推進協会 講師、フリーアナウンサー。著書に『子どもの命と未来を守る! 「防災」新常識 パパ、ママができる!!水害・地震への備え』(辰巳出版)。東日本大震災を仙台のアナウンサーとして経験。以来10年間、全国の被災地を訪れ、取材や支援ボランティアに力を入れる。環境省森里川海プロジェクトアンバサダーとして「防災×気候変動」をテーマに取材、発信中。一児の母。

『子どもの命と未来を守る! 「防災」新常識 ~パパ、ママができる!!水害・地震への備え~』(辰巳出版)

取材・文=高木さおり(sand)
イラスト=さいとうひさし