日本では2020年頃からベビーシッターらによるわいせつ事案が相次いで明るみになり、子どもを預ける多くの親が不安を感じる事態となった。なかでもシッターの男が女の子にわいせつな行為をして逮捕された事件では、男が保育士や幼稚園の教員資格を持っていたことなどから、対策を求める声が高まっていた。

そこでこども家庭庁は、切り札になり得る制度の新設に向けて一歩を踏み出した。それは、性犯罪歴を持つ人物を保育士など子どもと関わる仕事から排除する「DBS」と呼ばれる制度だ。

第一回こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議(6月27日)
第一回こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議(6月27日)
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子どもや若者の性被害防止へ“2本の柱”

芸能界での性被害問題などに注目が集まる中、政府は7月、子どもや若者の性被害防止に向けた緊急対策をとりまとめた。

柱となるのは「男性・男児のための性暴力被害者ホットラインの開設」と「日本版DBS導入に向けた検討の加速」。ホットラインについては、9月の中旬をめどに開設する方向で検討している。「男性や男の子が被害に遭っても相談しにくい」といった有識者からの指摘を踏まえた。

もう一つの柱は「日本版DBS導入に向けた検討の加速」だ。

「日本版DBS」はイギリスのDBSを参考にしている
「日本版DBS」はイギリスのDBSを参考にしている

「日本版DBS」は、教育や保育など子どもと接する仕事に就く人に過去に性犯罪歴がないことを確認する仕組みで、イギリスのDBS(Disclosure and Barring Service=前歴開示および前歴者就業制限機構)を参考にしている。イギリスでは、子どもと関わる仕事への就職希望者はDBSを通じ、性犯罪歴がないことを証明するいわゆる「無犯罪証明証」の交付を受け、雇用主側に提出する必要がある。

こども家庭庁は「日本版DBS」の創設に向け、6月から法律の専門家などによる有識者会議を開き議論を重ねている。主な論点は、①対象となる事業や職種の範囲、②データベースに登録される犯罪歴などの情報の範囲、をどこまで広げるかだ。

“認証制”の案も…事業者は前向き

①の「対象となる事業や職種の範囲」について、学校や保育所、幼稚園に加えて学習塾やスポーツクラブなどについても対象に加えるかどうか、現在議論が進められている。具体的な案として、認定制度を設けて希望する事業者に「認証」を与え対象に加えるといった意見が出ているという。

こうした“資格不要の職種だが子どもが活動する場”に携わる事業者はどのように考えているのか。進学塾大手の関係者は「過去に性犯罪の前科がある人が隠して面接に来た場合、口頭で確認したとしても正しく答えているか調べようがないのが現状。子どもの前に立つ仕事のため、なるべく危険な人は排除したいというのが本音なので、こうした制度ができるのであれば会社としてはありがたい」と語る。仮に認証制となった場合は「内容次第」としつつも、「子どもたちが安全になるような形で対応したい」と前向きだ。

認定NPO法人「フローレンス」が行うオンラインの署名活動
認定NPO法人「フローレンス」が行うオンラインの署名活動

子育て支援を行う認定NPO法人「フローレンス」は、8月10日から日本版DBSの対象を「子どもと関わる全ての仕事」とするよう求めてオンラインの署名活動を行っている。署名活動には10日あまりで約7万筆の署名(21日現在)が集まっていて、関心の高さがうかがえる。

登録情報の範囲については慎重に検討

一方、②の「データベースに登録される犯罪歴などの情報の範囲」については、憲法が保障する「職業選択の自由」などを制限することから、慎重に検討が進められている。

「犯罪歴などの情報の範囲」については、刑法上の有罪判決を受けた「前科」は含まれる見通しだ。その上で、起訴猶予処分などの「前歴」まで広げて欲しいといった意見のほか、加害者の退職などで事件化しない事も多いとみられるため、そうしたケースはどうするのかなどの意見が出たという。

このほか、刑法では「刑を終えてから10年が経てば刑が消滅する」と定められていることから、データベースに保存される期間などについても上限を設ける必要があるとみられ、制度創設に向けた検討事項は多い。

求められるのは、子どもを守るための制度が一日も早く整備されること(画像はイメージ)
求められるのは、子どもを守るための制度が一日も早く整備されること(画像はイメージ)

一方で、ある政府関係者は、「日本版DBS」を創設すること自体が加害者に対して一種の“抑止力”になることから「一刻も早く世に出すことが重要だ」と話す。検討事項は多くあるとしても、まずは子どもを守るための制度が一日も早く整備されることが求められる。

有識者会議は9月にも意見をとりまとめる方針で、これを受けてこども家庭庁は関連法案の内容を固め、早ければ秋の臨時国会に提出する見通しだ。

(フジテレビ社会部 松川沙紀)

松川沙紀
松川沙紀

フジテレビ社会部・省庁キャップ こども家庭庁担当