広島の野球少年の憧れ「カープジュニア」。その軟式野球チームの監督に元広島東洋カープ・安部友裕さんが就任した。現役時代にリーグ優勝を経験し、どん底も味わった安部新監督は子どもたちをどう育てるだろうか。

現役引退から1年足らずで監督に

夏の日差しが照りつける8月5日、広島県北部の庄原市運動広場に大勢の野球少年が集まった。そこへ拍手で迎えられたのは元広島東洋カープの安部友裕さん。

安部友裕さん:
この度、カープジュニア監督に就任することになりました、カープOBの安部と申します

安部友裕さん
安部友裕さん
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子どもたちを前にマイクを握る安部新監督は、現役引退から1年足らずで再び赤いユニホームに袖を通すことになった。小学生の軟式野球チーム「カープジュニア」の8代目監督に就任したのだ。
2005年から始まったプロ12球団のジュニアチームによるトーナメントでは、カープOBのレジェンドたちも監督を務めた。歴代監督には、達川光男氏、西田真二氏、北別府学氏、山崎隆造氏、山内泰幸氏、横山竜士氏、天谷宗一郎氏が名を連ねる。

安部友裕さん:
前任者の天谷さんに話を聞き、言われたのは「本当にいい経験になる。安部、やったほうがいいぞ」という言葉をいただいて

未来のプロ野球選手を見つけ出せ

この日は県内の各チームから入団希望の小学6年生、約90人が庄原市に集結。選考に必要な体力測定を行った。

安部監督の初仕事は、選手の視察だ。

安部友裕さん:
第2の菊池を見つけないといけない

10年連続でゴールデングラブ賞を受賞したカープの菊池涼介選手。“第2の菊池”となる原石を探すようにセカンドのプレーを見つめ、好プレーが出ると「おー!ナイスキャッチ!」と声をかける。グラウンドをくまなく回り、ベース間を走る走力テストで気になる選手を見つけた。

安部友裕さん:
めっちゃ足が速い子おった。あの5番の子、スーパー足速かったよ

安部監督が注目した俊足の選手
安部監督が注目した俊足の選手

速さが際立っていたのが呉市から参加した今中翔太選手。小学生ながら50メートル6秒4の俊足を誇る内野手だ。

呉市から参加した今中翔太選手(中央)
呉市から参加した今中翔太選手(中央)

ちなみに、小学生時代の安部監督は50メートル6秒7。

安部友裕さん:
めっちゃ速いね。走るのは誰にも負けない?

呉フィールズ スポーツ少年団・今中翔太 選手:
ありがとうございます。はい、誰にも負けないです

安部監督に「逸材」と言われ、うれしそうな今中選手。一方、まわりにいた選手からは「ずるい、ずるい、ずるい」と、小学生らしい素直なブーイングが飛び交った。

毎年12月に開かれる全国大会「NPB12球団ジュニアトーナメント」ではセ・パ12球団がそれぞれ小学5~6年生のチームを結成して対戦。野球少年がプロ野球選手になる夢を追いかける。言わば「カープジュニア」は“プロへの登竜門”でもある。

子どもからの“直球質問”も打ち返す

緊張感が漂うグラウンドだが、憧れの元赤ヘル戦士・安部監督のまわりには自然と子どもたちの輪ができていた。

質問する選手:
仲の良かった選手は誰ですか?

安部友裕さん:
かわいがってもらったのは松山竜平選手や新井貴浩監督。選手時代は新井監督にも食事にいっぱい誘ってもらったし。いろんな先輩に食事に連れていってもらって…

安部監督はどんな直球の質問にも手を抜くことなく答えていた。参加した小学生にとっては、元プロ野球選手からアドバイスをもらう絶好のチャンスだ。

竹原市から参加の選手:
ストライクが入らないときにどうすればいいですか?と聞いたら、体を大きく使いましょうと言われました。頑張ります!

安部友裕さん:
張り切りすぎなくていいからね。力を抜こう。頑張ろうと力が入ると動きが取れなくなるから、エラーしたとか気にしなくていいから。どんどん楽しくやろう

監督のひと言で、肩の力が抜ける。

アドバイスをもらった選手:
ありがとうございました

選手にお礼を言われ、安部監督は真面目な語り口調から一変、高めのアニメ声で「はーい」と返事をした。その声色に、まわりにいた選手たちは「え?」と拍子抜け。緊張気味の顔が笑顔になる。選手がのびのびプレーできるよう、時にユーモアを交えながら声をかけ、心の距離を縮めていった。

「失敗しても軌道修正できる子に」

安部友裕さん:
僕は長くレギュラーを張ったわけでもないし、レジェンドでもない。でも安部には安部なりの野球人生があって、そこには強みがあって…。優勝も経験できた。どん底も味わった。立ち直り方も自分なりに勉強してきた。僕なりに、そういうことは伝えていけるのかなと

バッターは現役時代の安部友裕さん
バッターは現役時代の安部友裕さん

野球の苦楽を知り尽くし、人一倍悩み抜いてきたからこそ、子どもたちに伝えられることがある。安部監督の目指す指導者とは…

安部友裕さん:
頭ごなしに伝えない。自分の経験論だけで伝えない。自分の経験論だけ伝えてしまうと、指導者の野球人生の線路にはめてしまって個性がなくなっちゃうんですよ。いっぱい選択肢を与えて「失敗してもいろんな道を通って、目標にたどり着こうね」というやり方で個性が磨かれていくと僕は思っています

選手の気持ちに寄り添う安部監督。目指すのは“失敗してもいいんだよ”というチームの環境作り。「前を向いて、失敗しても軌道修正できる主体性を持った子どもたちを育てていきたい」と話す。

(テレビ新広島)

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