今シーズン限りで広島東洋カープから戦力外通告を受けた安部友裕氏。現役続行をかけてトライアウトに挑んだものの、11月14日引退を表明した。15年間カープ一筋で歩んできた安部氏の引退、そして第2の人生の始まりに密着した。

カープ一筋15年…

2007年高校ドラフト1巡目で広島東洋カープに入団した安部友裕氏。

カープ入団会見時の様子
カープ入団会見時の様子
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入団当初は二軍生活が続いたが、2011年に一軍出場、2016年からはスタメンの機会も増え、同年自己最多の115試合に出場した。プロ10年目の2017年には、自身初の規定打席に到達。さらに、セ・リーグで4位の打率3割1分をマークするなど、チームの連覇に貢献してきた。

しかし、2018年以降は、腰のケガの影響もあり、徐々に出場機会が減少。そして、1軍出場ゼロに終わった2022年。プロ15年目のシーズンをもって、カープから戦力外通告を受けた。それでも、現役続行を目指し「12球団合同トライアウト」への参加を表明。球団から使用が許された室内練習場で当初は一人、ネットを相手にボールを投げ、調整をしていた。

一人で練習を重ねる安部氏
一人で練習を重ねる安部氏

安部友裕氏:
なかなかトライアウトも狭き門というか…現役続行が簡単ではないことはもちろん分かっているし、それでもやっぱり野球が好きでこうやって小学生から続けてきてまだまだ続けたい…そんな思いです

インタビューに答える安部氏
インタビューに答える安部氏

ただひたすらに己と向き合う、これまでとは一変した練習環境。しかし、その姿を見た多くの元チームメートが手を差し伸べてくれたという。

仲間との時間に笑顔も

安部友裕氏:
いっちー(一岡竜司投手)がマツダスタジアムに来た時に、『練習どうしてるんですか?』と聞いてくれて、「一人でやっているよ」と言ったら「ノック打ちますよ」と言ってくれたり

 
 

安部友裕氏:
祐輔(野村祐輔投手)も『球投げようか」とか言ってくれたりして、本当にいいチームメートと野球ができていたということが幸せですし、嬉しく思います

 
 

他にも、九里亜蓮投手や、松山竜平選手。巨人へ移籍した長野久義選手など、安部氏の周りには苦楽を共にしてきた仲間がいた。

15年のプロ野球生活で、この期間が1番嬉しかったかもしれないと、笑顔がこぼれる。大切な仲間に囲まれ、まだまだ野球がしたいと高まる想い。しかし、戦力外通告を受けた身、さまざまな選択肢が頭の中を巡る。

仲間との練習に笑顔を見せる安部氏
仲間との練習に笑顔を見せる安部氏

安部友裕氏:
「野球のことだけ考えとけ」と思う人もいるかもしれませが、家族がいるので。家族がいなかったら自分一人でできる限り野球をやっていたいという気持ちもあるけど、どこかで決断をしないといけない。色々考えながら過ごしています

トライアウト前、最後の練習でノッカーを務めたのは同期入団でもある小窪哲也コーチ。戦力外通告を受けて以来、初めてのグラウンドでの練習だった。

小窪哲也コーチ:
僕も現役続行するか引退するか、決断をしないといけない時に、本当にいろんな人に助けてもらったので…短い野球人生で少しでも協力できればなと思います

迎えたトライアウト当日

仲間の協力もあり、改めて真摯に野球に向き合い、ついに迎えた12球団合同トライアウト。0ボール0ストライクからのシート打撃形成が採用され、2023年シーズンにNPB球団でプレーを目指す49選手が参加した。ホテルから仙台・楽天生命パークへ向かう途中、「なかなか寝つけなかった」と言う安部氏。

33歳の安部氏は、野手として最年長での参加。いよいよプロ野球生き残りをかけた戦いが始まる。

一打席目を凡退で迎えた第二打席。見事な中前安打を放ちアピール。プロ15年分の思いをのせたお手本のようなセンター前ヒットを見せた。第四打席では元カープで同じドラフト1位として入団した福井優也投手との対決も。当日のロッカーが隣同士だったため「絶対打つ」と宣言したが、見事に抑えられたと後日明かした。

4打席1安打ながらも、内容ある一打で安部氏の野球人生をかけた戦いは幕を閉じた。

トライアウト後集まったファンにサインを書く安部氏
トライアウト後集まったファンにサインを書く安部氏

安部友裕氏:
もう楽しかったですね。ただ本当に疲れました。ずっしり体にきてます。久しぶりに野球をやったなという感じですね

トライアウトを終えた安部氏はすっきりとした表情だった。

トライアウト後に2件の着信

広島空港へのフライト中、1件の不在着信が…。その電話の相手とは。

安部友裕氏:
選手会の方からの電話で、福岡の「北九州フェニックス」からもう早速お話があったという連絡でした。またこちらから連絡させて頂くということでお伝えはしました。必要としてくれている球団があるのは本当に嬉しいですし、後悔のない決断ができるようにと思っています

そして、広島空港から帰る車中。もう1本電話が…

安部友裕氏:
れな?あしたの朝、パパと一緒に幼稚園行こうね!

娘・れなちゃん:
うん。8時30分出発だよ

安部友裕氏:
わかった。一緒にいこうよ

娘・れなちゃん:
うん、バイバイ

可愛い愛娘との何気ない会話に頬が緩む。もし、れなちゃんが「パパ野球やって」と言ったらどうするかという問いかけに安部氏は…

安部友裕氏:
もちろんやりますよ。ただ、僕一回「パパもうお仕事しないで」って言われたこともあって…。でも子どもが物心ついた時にもパパが野球やっているかっこいい姿をみせたいですね。

一人のプロ野球選手として、父として、男として。決断の時が迫っていた。

届いたのは「引退」の2文字

トライアウトから1週間後。取材ディレクターの元に安部氏から連絡がきた。書かれていたのは「引退」の2文字。

もともと、トライアウト後5日以内にNPBからのオファーが無ければ潔く次へ進もうと考えていた安部氏。プロ野球独立リーグ「福岡北九州フェニックス」から入団の打診があったものの、家族4人の将来を最優先に考え、野球選手としての一線を退く決断に至ったのだった。

今後については、「学生野球資格回復制度を取得して野球指導や野球界のさらなる発展につながる活動をしていこうと考えています。引き続きフリーランス安部友裕をよろしくお願い致します。覇気!」と安部氏らしい、前向きなメッセージがつづられていた。

安部氏から届いたメッセージ
安部氏から届いたメッセージ

第二の人生スタート

引退発表の翌日、夕方のニュース番組「TSSライク!」のスタジオに登場した安部氏。改めて自らの野球人生を振り返り、これまで応援してくれた広島の人々へ感謝の思いを伝えた。

安部友裕氏:
大した成績も残さずに、カープに長く在籍させていただいて、よく面倒をみていただきました。トライアウトに挑戦すると決めてからも「何か手伝うよ」と本当にあたたかくしてもらっていい仲間を持ちました。優勝ということになかなか縁がない野球人生でしたが素晴らしい仲間と優勝旅行でハワイに行ったのが一番の思い出です。ファンの皆様にも、15年間感謝しています。これから第二の人生スタート。終わりではないので、よろしくお願いします。

学生野球資格回復制度の取得など、野球界の発展に向けて精力的に活動していくとのことだ。

そんな中、12月からは「TSSライク!」の中で「覇気!安部友裕のツイセキ」(毎週木曜)というコーナーが始まった。第二の人生に進む安部氏が社会見学として広島の人や企業に密着する。

早速取材へ向かった安部氏
早速取材へ向かった安部氏

安部友裕氏:
基本的に野球のことばかり考えてやってきたので、これから恩返しというか受けた恩を広島で還元できるように動いていきたいという思いです

カープ選手として広島の人々に勇気、元気、覇気…たくさんの感動を届けてきた安部氏。第二の人生が始まった。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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