「NASA(米航空宇宙局)の人為的ミスは、人類を宇宙人の侵入から防ぐことになるのかもしれない」
英紙テレグラフ電子版(8月3日)の論評欄に、こんな見出しの記事が掲載された。NASAが、宇宙探査機ボイジャー2号に間違ったコマンドを発信したために、そのアンテナが地球の方向から外れ交信ができなくなってしまったと7月28日に発表したことについて、そうであれば例え宇宙人がボイジャー2号を発見しても、基地と通信もできないような技術水準の低さでは地球を侵略する意欲を萎えさせるだけだろうというのだ。

「ボイジャー2号に遭遇する宇宙人は、そこから銀河文明の恐ろしい技術ではなく子供向けテレビドラマに出てくるガラクタ市を彷彿するだろう。(中略)宇宙人たちは我々が銀河系支配技術に向かって前進しているのではなく、後退していると結論づけるだろう。自ら破壊する方向に向かっている文明をわざわざ破壊する必要はないだろうと思うのではないか。私たちの愚かさは創意工夫よりも価値があるようだ」
筆者で著名な論評記者のエド・カミング氏はこう結論づけている。
日本の尺八曲も搭載した「ボイジャー2号」
ボイジャー2号は外惑星や衛星の探索を目的に1977年8月に打ち上げられ、宇宙人と接触した時のために地球の生命や文化を伝えるレコード盤を搭載している。

「これは小さな遠い世界からの贈り物です。私たちの音、科学、映像、音楽、思考、そして感情のしるしです。私たちは自分たちの時代を生き延びることを試みています。そして、あなたたちの時代に生きることを願っています。私たちはいつの日か、私たちが直面している問題を解決し、銀河系の文明のコミュニティに加わることを望んでいます。この記録は私たちの希望と決意、そして広大で素晴らしい宇宙における私たちの善意を表しています」

打ち上げ当時のジミー・カーター米大統領の挨拶に次いで、レコードには115枚の地球の画像や55言語での挨拶それにさまざまな音楽などが収録されており、日本の尺八古典本曲「鶴の巣篭」も含まれている。
NASAは、太陽以外の惑星圏でレコードが宇宙人に発見されてコミュニケーションを図るきっかけになることを期待しているのだが、この試みには後日異論が唱えられることになった。
ホーキング博士も警鐘鳴らした“宇宙人との接触”
英国の著名な物理学者スティーブン・ホーキング博士(2018年死去)は、晩年になって宇宙人との接触に重ねて警鐘を鳴らしていた。

「我々はとても平凡な小さな惑星に住む進化したサルの一種にすぎない」(独シュピーゲル誌とのインタビューでの発言)
「もし宇宙人が我々のところへやってきたら、コロンブスがアメリカ大陸へやってきたような結果になるだろう。先住民にとって決して良い結果ではなかった」(米ナショナルジオグラフィックの番組での発言)
「宇宙人は存在するかもしれないが、破滅的な結果をもたらす恐れがあるので接触するのは避けるべきだ」(米ディスカバリーチャンネルの番組での発言)

その後NASAは、ボイジャー2号からの微弱な電波を受信できるようになったと発表。探査機が引き続き、時速5万6300キロのスピードで地球から遠ざかっていることを確認した。そして4日には、NASAがボイジャー2号にアンテナを地球に向けるよう信号を送ったところデータの返信を開始したのが確認でき、探査機が正常に動作し予想された軌道を維持していることが示されたと発表した。
しかし、ボイジャー2号は修復されないまま飛び去った方が、地球の安全のためには良かったのではないのか。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】