UFO(未確認飛行物体)は存在するのか。全米の注目が集まったアメリカ議会下院の「UFO公聴会」が、7月26日開催された。
注目の理由は「UFOを目撃した」「政府がUFOを回収した」などと、内部告発を行ってきた3人の元米軍関係者が、参考人として呼ばれたからだ。会場には参考人の発言を聞こうと、海外から訪れる人もいるほど、傍聴希望の行列が出来た。そして、アメリカの主要メディアも集結。
当日の報道では、「UFO」の存在ばかりが報じられたが、公聴会を開いた議員たちの狙いの詳細、その後には、議会vs国防総省高官のバトルが勃発するなど、UFOをめぐり、さらに活発化している動きを追った。


政府は“悪魔”、UFO調査への妨害行為に議員が怒りの演説
私たちが会場に到着すると、会場周辺には傍聴希望者の長蛇の列が出来上がり、メディアも殺到していた。アメリカ人記者が「議会の公聴会で、こんなに長い行列が出来るのは初めてだ」とつぶやくほど、異常な熱気に包まれていた。
UFO公聴会に呼ばれた参考人は3人。元米海軍のパイロットで、基地に駐留中に「ほぼ毎日UFOを見ていた」と告白したライアン・グレイブス氏。元米空軍で情報機関にも所属しており「墜落したUFOを、政府が回収した」と内部告発をしたデイビッド・グラッシュ氏。そして、国防総省が「UFOの可能性がある物体」と公開した映像を2004年に撮影した、元米軍パイロットのデイビッド・フレイバー氏だ。この3人が会場に入ると、歓声と大きな拍手が巻き起こった。


公聴会の冒頭、グロスマン委員長は「1969年には、ジョージア州でカーター大統領がUFOを見たと主張したことも、指摘しておきたい」と述べた上で、政府がUFOを専門的に調査する部局を立ち上げたにも関わらず、「政府の透明性と説明責任のなさは見逃せない」と指摘した。
さらに、2023年2月の中国の偵察気球による領空侵犯事件を挙げて、「アメリカ政府は150万ドルの税金を、気球を撃墜するためのミサイルに費やした。しかし、バイデン政権からはほとんど明確な情報は得られていない」と政府の対応を厳しく批判した。また、公聴会の開催を主導した共和党の・バーチェット議員は、「この会議のためにデンマークからはるばるやってきた人に会った。これは重大で世界的なことだ。政府の隠蔽工作を暴く」と述べた上で、「この件では悪魔が私たちの邪魔をした。私たちは、情報機関のメンバーからの妨害にぶつかってきた」と政府側が議会の調査を妨害してきたと、激しく非難した。


参考人「UFOの残骸と“人間ではないもの”を回収」

3人の参考人は、委員長に促され右手を挙げると、真実を証言することを誓い、それぞれが冒頭に自身の経験を語っていく。
グレイブス氏:
「政府の一部はUFOについて、彼らが公表している以上のことを知っている」
フレイバー氏:
「私達が見たUFOは現在私たちが持っている技術、あるいは今後10年間に開発しようとしているものよりも、はるかに優れたものだった」
質疑となると、議員からも核心を突いた質問が飛び出す。
議員:
30人以上のパイロットと働いていて、その人達はUFOを目撃した?
グレイブス氏:
彼らの多くは、UFOを自分の目でも目撃していた。
議員:
その物体が、なぜ私たちの技術によるものではないと分かるのか?
グレイブス氏:
これらの物体は、カテゴリー4のハリケーンの風の中で完全に静止していたが、同じ物体が超音速まで加速した。私たちが説明できないような、非常に不規則で素早い動きをしていた。

議員:
UFOが、アメリカの情報を調査している可能性はあるのか?
グレイブス氏:
可能性はあります。
議員:
UFOの何%が、政府に報告されていると思うか?
グラッシュ氏:
これは私の個人的な経験で、多くのパイロットと話をしたものですが、おそらく5%近くが報告されていると思う。
議員:
墜落したUFOを回収したということだが、それを操縦していた生物の遺体はあると思うか?
グラッシュ氏:
すでにインタビューなどで公言したとおりです。人間以外の生物は、このUFOの回収品の一部と一緒に出てきた。

議員:
2004年にあなたが体験したUFOの目撃は、どんなものだった?
フレイバー氏:
私たちが経験したことは、科学や当時私たちが持っていた能力をはるかに超えていたと思う。


3人の参考人はそれぞれ自身の経験を語ったが、実は一番多くの時間が割かれたのが「内部告発者への妨害」と「汚名」であった。「UFOを見た」と告発すれば、おかしな人間だと思われてキャリアに傷が付くことを恐れ、皆が二の足を踏んでいる現状もあると言う。
さらに告発によって、「身の危険を感じた」「内部告発者の報復調査が行われている」との証言も出た。議員達からはUFOの存在は抜きにして、こうした報告が実際よりも過小に行われている現状は「安全保障上の危機」であり、「政府の隠ぺいや妨害行為を改善する必要がある」と訴えていたのだ。



国防総省高官「公聴会は侮辱、見過ごすことは出来ない」と反撃
一方で、国防総省でUFOなどを専門に調査する「全領域異常対策室」の責任者であるカークパトリック氏は「個人的な見解」として、公聴会で行われたやり取りを「侮辱的なもので、見過ごすことはできない」とする書簡を、個人的なSNSに発表した。しかし、これは一気にSNS上に拡散され、政府機関と議会の対立にまで発展している。
また、カークパトリック氏は「献身的な人々が、この問題に心血を注いでいることを否定されたことに深い失望をしている。人間以外の技術に関する疑惑を裏付ける信頼に足る証拠は、まだ見つけられていない」と、参考人の発言を真っ向から否定した。


これに対して、公聴会に出席していた共和党のルナ議員は自身のSNSに、「国民から情報を隠すような政府では、もはや代表的な政府とは言えない。参考人が身の危険を感じたと議会で証言したばかりなのに、彼の元上司(カークパトリック氏)が、彼の信用を失墜させようと書簡を投稿するのか?奇妙なことだ。」と批判した。

議会側は公聴会でも、度々政府の情報機関や国防総省の担当者に「調査を妨害されてきた」と主張しており、カークパトリック氏のSNSへの投稿は、さらなる火種となる可能性もありそうだ。
議員側は「UFO特別委員会」の設置を要求
公聴会の最後にグロスマン委員長は「透明性は政府の要です。私たちは広大な銀河系に住んでおり、多くの未解決の疑問があります」と述べて、政府に対して情報の開示をさらに強く求めていく考えも強調した。
野党・共和党が過半数を占める米議会下院の公聴会ではあったが、バイデン政権を支える与党・民主党側の議員も多く参加した。議員達に共通しているのは、「UFOに関する政府の情報開示の少なさが、混乱を起こしている」という点であった。
公聴会後には早速、出席した議員達によって、政府のUFO対応を調査する「特別委員会」の設置を、マッカーシー下院議長に求める要請文が起草された。


UFOだけ捉えると、“オカルト”にも近い雰囲気が出てくるが、議員達の目的はあくまでも「政府の情報開示」であった。アメリカの空に「正体不明な物体」が飛んでいて、その調査で何が行われているのかは、安全保障上、知るべき問題だと訴えていた。その解明に向け内部告発者は重要であり、それが本当にUFOなのか、他国によって作れられた「何か」なのか。それともアメリカ政府の所有するものなのか。国民は知る権利があるということだ。
公聴会から一気に動き出した「UFO」の真実を解明する動きは、議会と政府の対立もはらみながら、ますます熱を帯びていきそうだ。
(FNNワシントン支局 中西孝介)