国が大麻の規制を強化する中、大学の学生寮に捜査のメスが入った。なぜ若者の間で違法薬物の乱用が広がっているのか?テレビ西日本は、若者を取り巻く“薬物事情”を取材した。

若者に忍び寄る“違法薬物”の影

東京・中野区にある日大アメフト部の学生寮で8月3日、大麻取締法違反などの疑いで警察の家宅捜索が行われた。

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警察は7月19日ごろ、寮から乾燥大麻と覚醒剤成分の入った錠剤を押収していて、今後、使用の実態や入手ルートの解明を進めることにしている。

いったい学生たちに何が起きていたのか…。

法務省の最新統計によると、大麻取締法違反で検挙された人のうち20代以下が最も多く、全体の約70%を占めているという。

夜になると行き場のない若者たちが多く集まると言われている福岡市・天神の警固公園で、大麻に対する認識を聞くと…。

20代男性:
大麻=違法なイメージは、ありますよね。それこそクラブとかで一時期流行ったりはしたので。1回、聞いたことがあるのは、A大学でめっちゃ流行った。バイヤーが流行って、それがB大学、C大学に流れてきたみたいな

ーー大麻を吸ったことは?

20代男性:
あります。タバコと同じかなみたいな。(大麻は)19、20歳くらいからずっと吸ってます。ちゃんと大麻吸ってます。今もっす

専門家も驚く“新成分の市場投入スピード”

日本で大麻は違法だが、大麻を身近に感じているという若者たち。話を聞くと気になるワードが…。

警固公園の若者:
合法大麻の成分はTH…なんとかかんとか…

若者の口から出た「合法大麻」「THなんとか」という言葉。詳しく調べると「THCH」という成分で、これまでは規制の対象外だったが、8月4日から「違法成分」として規制されている。

この「THCH」とは、いったいどのような成分なのか?専門家に聞くと…。

福岡大学薬学部・三島健一学部長:
炭素数が6個のやつが、今回規制される「THCH」になります。「THC」の合成品ということだと思います

福岡大学薬学部の三島教授によると、大麻は大きく向精神作用を持つ「THC」と、抗炎症作用があると言われる「CBD」という成分に分けられるという。「THC」は違法成分で、若者が口にしていた「THCH」は規制をかいくぐった「THC」の合成品ということになる。

福岡大学薬学部・三島健一学部長:
「THC」よりも強力になる可能性はあると思います

三島教授は「THCH」は「ハイ」になるなど大麻に似た作用があり、これがより強い可能性があると話す。

規制をすると、すぐ同様の合成成分が現れ、またそれを規制すると新成分が現れる、いわゆる「イタチごっこ」状態。専門家もそのスピードには驚くばかりだ。

福岡大学薬学部・三島健一学部長:
そもそも「THC」の骨格の類似品がいろいろ、こんなに出てくるとは思わなかったんで…。新しく市場の方が先に出てるという感じ

この一連の流れ、実は以前にも同じようなことが起きていた。2010年代に大流行した「危険ドラッグ」だ。規制がかかると、化学式を少し変えた新商品がすぐに登場する点は当時と変わらない。

「脱法ハーブ」などと呼ばれた危険ドラッグは、2015年に実施された指定薬物の包括指定でほぼ壊滅したとされている。
そんな中で登場した新たな物質「THCH」。取り締まり機関である厚生労働省の担当者は…。

厚生労働省 担当者(取材メモより):
2023年3月以降、「THCH」を摂取したとみられる人の救急搬送が9件相次いでいた。合法と安全は違う

「THCH」を摂取して9人が搬送されたという事例を踏まえて、規制に踏み切ったという厚生労働省の担当者。強烈な副作用の恐れもあり、その健康被害は未知数だ。

厚生労働省 担当者(取材メモより):
第1次脱法ハーブブームのような状況にならないように、ほかの物質に対しても早期に規制していきたい

規制をしても「より強い成分」が出回る

そんな中、急ピッチでの対応を迫られているのが販売店だ。記者が店内をのぞいてみた。

桜井福大記者:
おしゃれな内装の店舗です。しかし棚には巻きタバコみたいなものが置いてあります

店長に巻きタバコみたいなものは何か聞いてみると、「これは『CBDジョイント』って言って、紙巻きタバコとして売っている商品です。CBDは合法です」と話す。

北九州市八幡西区にあるこの店舗では、精神作用をともなわないという「CBD」の商品を販売している。以前は8月4日から規制された「THCH」の商品も扱っていた。

店長:
これはTHCHはうちの商品です。規制から2日後くらいには、ほぼない状態

店長は規制に一定の理解を示す一方で、規制によって危険な商品をまん延させる可能性も指摘する。

店長:
(脱法)ハーブのときもそうですけど、規制をして、その法をくぐるために強い成分っていう流れじゃないですか。「THCH」の次のヤツとか段々強くなっていくんじゃないかなっていう予想をしてる。「脱法ハーブ」の流れになると思うから「THCH」以降は扱わない方がいいんじゃないかな。けど、ほかの業者さんとかは分からないから…。どうしても歯止めが効かず、よくない方向にいく気はしてます

再燃する危険ドラッグブーム、このイタチごっごを収束する方法はあるのか。

(テレビ西日本)

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