「移動」に光!

 
 
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いま日本の地方が直面している課題は、「移動」だ。人口減少による過疎化で、公共交通機関は採算悪化し路線を縮小せざるをえない。高齢者は行政から運転免許の返納を迫られ、自分で移動する手段がなくなる。もはや地方の高齢者は、食料や日用品の買い物に行くのさえままならないのだ。

その起死回生の策として、いま注目されているのが、ライドシェアだ。
ライドシェアと言えば、世界を席巻するウーバーが有名だが、日本ではタクシー業界の反発もあり普及が進まない。

それでも公共交通機関が発達している都心であれば、まだいい。しかし、電車やバスが1時間に1本あるかないか、もちろんタクシーなど走っていない地方では、代替の移動手段の確保が急務なのだ。
 

ライドシェアサービス実証実験

Azitの須藤信一郎取締役(左)
Azitの須藤信一郎取締役(左)

今月、鹿児島県の与論島で、ある実証実験が行われている。
実験を行っているのは、配車アプリサービスを展開しているITベンチャーの株式会社Azit(アジット)だ。
Azitは2015年から配車アプリ「CREW(クルー)」を開始し、いま東京都23区内で夜の時間帯に展開している。

サービスは、こんな感じだ。
利用者はまずスマホでアプリを起動して出発点と到着点を設定する。「CREWパートナー」と呼ばれるドライバーとマッチングしたら、利用者は移動して目的地に到着する。そこで利用者は運転した人に「謝礼」を支払うが、この謝礼は料金ではないのでゼロでも構わない。利用者がほかに負担するのは、ガソリン代の実費とAzitへのマッチング手数料とカスタマーサポート料だ。

Azitの須藤信一朗取締役によれば、このスキームだと法規制をクリアできるという。

「こうすれば運送の対価の受け取りではないので、法律的に問題ありません。逆に手数料がドライバーさんに支払われるとNGです。国土交通省にも確認をしています」
 

「高齢者を助けてあげたい」

 
 

さて、与論島で行われたライドシェアの実証実験だが、そもそもなぜ与論島だったのか。

須藤さんはこう語る。

「いろんな自治体からのお声がけはあったのですが、与論に訪問したときにシェアリングサービスと相性のいい街だなと感じました。もともと島の人は、街を歩いている人をみたら『暑いから乗っていきな』と声をかけるような島なので。ただ、最近は声をかけると怖いと言われてしまうという話があって、今まであった古き良き文化が、ライドシェアサービスによって素敵な形で残るといいなと」

与論島は観光客に人気のスポットだが、タクシーが島に8台しかないなど公共交通機関が不足している。
そこでAzitと観光協会などが協力して、島内でクルーを使ったライドシェアサービスを1か月間、展開しているのだ。「観光客のためだけではなく、高齢者を助けてあげたいと言う人も多くて、島の人に賛同してもらったのは大きかったです」
 

タクシーの営業時間“外”でサービス

 
 

当初最も心配されたのが、地元のタクシー会社からの反発だったが、サービス時間をタクシー会社の営業時間外である、朝5時から8時の間にするなど配慮した。この時間は、海で日の出を見ながらSUPしたいなど観光客のニーズがあったのだが、これまでは宿の人が無償で送り迎えするなどで何とか対応していたのだ。

「タクシー会社からも否定的な意見は出ませんでした。逆にこれが島を盛り上げるきっかけになるんじゃないかと、とにかく一回やってみようよという感じでした」

この実証実験には国も地方の課題解決策として期待している。国交省としても、国全体の課題である地方の移動に関して、積極的にやっていきたい姿勢だ。

「今回の実証実験でノウハウを貯められているのは強みでもありますし、適法内で進めているので、とても後押しをしてくれています」

実証実験は8月いっぱいで終わるが、今のところ利用者からもドライバーからも、「楽しい」「快適だった」「謝礼がもらえるっていいよね」など歓迎する声が多いそうだ。

9月以降については、「地元のタクシー会社や役場、観光協会とともに、実験の結果を踏まえて今後を考えていきますが、なるべく無理のないかたちで続けていきたいと思います」という須藤さんは、ライドシェアサービスの将来性についてこう期待を語った。

「地方ではバスも路線が無くなっていて、高齢者は免許を返納する中で、(ライドシェアサービスは)もともとあった快適な移動ができないという社会的課題を解決できると思います。また、小さいお子さんが塾に行きたいけど距離があっていけないと聞いた時に、知った顔のママさんが送ってくれるとか、そういうコミュニティが日本にはあるので、もう1回、テクノロジーの力を使って、コミュニティを作っていくのが大事だと」

人と人をつなぎ、温かみある地域社会を取り戻す。
地方の抱える悩みを解決するのは、テクノロジーなのである。

(執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款)

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。