急速な高齢化が進む中、住宅を借りたくても借りられない高齢者が続出している。政府もこうした高齢者を支援するための検討会を発足したばかりだ。深刻さを増す高齢者の賃貸住宅事情…。福岡の現状を取材した。

社会問題となりつつある“高齢者への貸し渋り”

この記事の画像(17枚)

R65不動産・山本遼代表:
高齢者はなかなか借りにくいと思います。大体、大家さんの7~8割くらいは高齢者の入居を断っているというような状態ですね

「R65不動産」は全国で唯一、65歳以上を専門に不動産仲介を行っている。

R65不動産・山本遼代表:
この前、お部屋を探していた方は70代のご夫婦で、息子さんが医者なので金銭的な面で言うと全然何も問題なかったんですが、結局、物件が見つかるまで3カ月くらいの時間を要しました

深刻さを増す、高齢者に対する賃貸住宅の“貸し渋り”。
この問題を話し合う政府の検討会が発表した調査結果によると、大家などの賃貸人の実に7割近くが、高齢者が入居することに拒否感を持っている。その理由の多くは「家賃の支払い能力」や「居室内での孤独死などの死亡事故」に対する不安だった。

「R65不動産」の山本代表によると、一度も高齢者に部屋を貸したことがない家主も多く、不動産会社としても「高齢者OK」の物件を探すのに手間がかかりすぎる点が事態を悪化させていると話す。

R65不動産・山本遼代表:
もう(貸す側の)思考停止に近いような状態なんですけど、「効率の悪いお客さんなので断ってしまおう」と門前払いしているケースがあるのかなと思います

部屋探しが難航…居住支援法人に助け求める

福岡の高齢者の現状はどうなっているのか。
訪ねたのは、春日市のマンスリーマンションに暮らす佐伯好章さん(75)。独身で身寄りもない佐伯さんは今、部屋探しが難航し、窮地に立たされている。

佐伯好章さん:
この部屋では、これ以上暮らせない。家賃を払っていけない

佐伯さんは、これまで20年以上解体業を仕事とし、県内外を飛び回ってきた。しかし、肉体を酷使する重労働をするには体力の限界を感じ、5月に退職した。

「もう、体力的に無理」と話す佐伯さんが現在住んでいるマンスリーマンションの家賃は5万5,000円。蓄えもほぼなく、月にして6万円ほどの年金では生活していけない。佐伯さんはより安い賃貸住宅を探し始めたのだが…。

佐伯好章さん:
4、5件、不動産屋を回ったが、まったく見つからない。相手にしてくれない。「条件に合う物件がない」と言われる

75歳という年齢や経済状況もあって、借りられる物件が見つからないのだ。

佐伯好章さん:
もう、そりゃあ不安しかなかったですよ。夜も寝返りばっかりうって、悶々とした日が何日もありましたもん

自力での部屋探しに限界を感じていた佐伯さん。ただ、この日の佐伯さんには期待感が滲んでいた。その理由と言うのが…。

ホームアシスト福岡・田中幸雄さん:
佐伯さん、こんにちは

この日、佐伯さんのもとを訪れたのは、居住支援法人の田中幸雄さんだ。田中さんは、福岡県の認定を受けて高齢者などへの住宅支援を行う法人を運営している。佐伯さんは部屋探しのサポートを田中さんに求めていた。

ホームアシスト福岡・田中幸雄さん:
「住宅を探すのを手伝ってほしい」という高齢者からの問い合わせは殺到しています。佐伯さんのように、高齢で身寄りもなく生活保護を受けているような方が、自力で部屋を探して借りるのは、まず無理です

不動産業の免許も持っている田中さんは、多くの物件の家主や保証会社と強い信頼関係を築いている。
田中さんのサポートを受けて、佐伯さんは改めて部屋を探し、この日は審査の結果が出る日なのだが…。

ホームアシスト福岡・田中幸雄さん:
おかげで無事に審査が通りました

佐伯好章さん:
あ~、そうですか。ありがとうございます

ついに佐伯さんの転居先が見つかった。

佐伯好章さん:
本当に安心しました、ほっとしております今。大変うれしいです

田中さんのもとには年々相談者が増えていて、急速な高齢化が進めば、支援法人だけでは支えきれなくなるのではと危惧している。

ホームアシスト福岡・田中幸雄さん:
3年後くらいには人口の3分の1が65歳の方たちになると思います。今は、私たちのような居住支援法人がなんとかしている状況ですが、今後、困るお年寄りはもっともっと増える。社会全体として考えていかないと日本は大変なことになる

貸し渋りは「高齢者だけの問題ではない」

現在、高齢者のうちの400万世帯、6人に1人は賃貸住宅で暮らしている。配偶者との死別などを理由に1人暮らしの高齢者世帯も増え、持ち家を売却して賃貸に住み替えようという人も増えているという。

高齢者専門の不動産仲介を8年間行ってきた「R65不動産」の山本代表は、もはや高齢者だけの問題ではないと話す。

R65不動産・山本遼代表:
「65歳以上の人が借りられない」っていうことを聞くと、若い人は「自分にはあんまり関係ないのかな」って思うんでしょうけど、例えば、親を自分の家の近くに呼び寄せようと思ったときとか、なかなか家が借りられないっていうことが起こったりします

山本さんは、高齢者本人やそれを支援する人たちの頑張りだけではなく、住宅を貸す側に対して、高齢者を受け入れることのメリットを正しく伝えていくことが重要だと考えている。

R65不動産・山本遼代表:
今は、実は学生マンションを建てて貸すよりも65歳以上の方に貸した方が2倍くらいのニーズがある。学生さんが4年住んでくれるところを、例えば高齢者の方の多くは10年以上住んで下さるので、その間の家賃の減額だったりとか、空室期間だったりっていうのは、ほとんどない。そういったところをメリットに感じて頂くっていうことが、社会全体としては必要なのかなと感じています

高齢者は今後も確実に増えていく。貸し渋りの問題は社会全体で取り組んでいくべき課題と言える。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。