多くのファンがいる「ラーメン二郎」。
その直系店で修行しながら、自身の店は直系ではなく、いわゆる「ラーメン二郎系」=インスパイア系で開店した店主。
その理由の背景には、「ラーメン二郎」グループの“掟”があった。

下北沢の路地の奥にある「インスパイア系」の名店

ラーメン二郎。東京・港区三田に本店を構えるラーメン店であるが、現在は札幌市から京都市まで全国に44支店ある、ラーメン業界の一大勢力となっている。
さらに、直系の支店以外にも「インスパイア系」と言われる、「ラーメン二郎」とビジュアル・味が良く似たラーメン店も数多くある。
その「インスパイア系」の中でも、「ラーメン二郎」愛好家に評判が良く、名店と言われる店が、東京・世田谷区下北沢にある。「らーめん玄」という店だ。

小田急線・京王線の下北沢駅から徒歩数分にある「ラーメン玄」
小田急線・京王線の下北沢駅から徒歩数分にある「ラーメン玄」
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料理レシピには、“著作権”のようなものはない。だから「インスパイア系」であっても、開業は自由だ。とは言え、他者が生み出した“商品”で商売を…と思う向きもあるかもしれない。
しかも、「らーめん玄」の店主は、「ラーメン二郎」直系の店で長く修行をしたという。
なぜ直系ではなく、「インスパイア系」の店にしたのか…取材に行ってみた。

通りから路地を入った奥に店舗はある
通りから路地を入った奥に店舗はある

下北沢駅からは徒歩数分。飲食店脇の路地を入ったところに店舗はあった。

店頭には「並び方」を指示する掲示が
店頭には「並び方」を指示する掲示が

立地としては、ややわかりにくいが、店頭に貼られた「並び方」の掲示を見ると、そんなことは関係なく、行列店であることがわかる。

「ラーメン玄」店主・鈴出延宏氏
「ラーメン玄」店主・鈴出延宏氏

昼の営業を終えた店主・鈴出延宏さんは、カウンターのみの店内で寛いでいた。

Q.貴重な休憩時間に取材を受けて頂き、ありがとうございます。まず、ご年齢とご出身は?
店主・鈴出延宏氏:
今年50歳です。東京出身です

Q. こちらのお店をオープンされて、何年になるんでしょうか?
今年で4年目です。19年の7月の開店です

Q.店名の「玄」というのは、どういう意味合いがあるんでしょうか?
作り手もプロだけど、お客さんもラーメンが大好きな、食べ手として「玄人」の人が集まるといいなと思って。もちろん、どなたに来て頂いても大歓迎です!

Q.ご自身のお仕事は、最初から飲食業でスタートされたんでしょうか?
最初に働いたアルバイトは、実はTBSの美術なんです。大道具さんでした。フジテレビさんで、美術スタッフがメンバーだった「野猿」がブレイクしてた頃で

慶應義塾大学正門の近くにある「ラーメン二郎」三田本店
慶應義塾大学正門の近くにある「ラーメン二郎」三田本店

Q.そうなんですか。TBSの美術から飲食業、ラーメン業界へはいつぐらいに行かれたんですか
25歳からしばらくの間は、配送の仕事をしていて、その配送の途中にラーメン二郎の三田本店があって。なんか朝からお客が並んでたり、凄いところだなと思っていて。タイミングが合えば入ってみようと思っていて、まもなくお客として食べに行きました

Q.最初に「二郎」を食べられて、どういう感想を持たれましたか?
正直なんか、そんなに凄い美味しいとかっていう感じよりは、ちょっと変わった味っていう印象でした。最初はものすごいおいしいとかっていう感じは持たなかったなと記憶してます。でも、あそこでしか食べられない味だから、みんな行くっていう感じで

Q.最初はそう感じる方は多いようですね。
ラーメン業界にいたわけでもなく、最初は一般のお客さんとして行かれたわけですね

そうです。でも、すごく人気のあるラーメン店だったので、自分でもやってみたいと思いました。それで弟子入りしようと、まずは三田本店の門戸を叩きました。営業が終わった夕方頃でした

※当時は、三田店は午後4時前には営業を終えていた。

Q.三田本店の店主であり、現在は「ラーメン二郎」総帥とされる、創業者のAさんを直接訪ねられたんですね?
最初に応対してくれたのはAさんではなく、当時の助手の方でした。その方に弟子入りしたい旨を話しました。
そこからAさんにつないでもらいましたが、Aさん的には、いきなり三田本店で修行って言っても、現状では面倒見てあげられないから、「近くの支店で1~2年くらいやっておいでよ」と言われました。
当時、私は35歳でした。Aさんは、もしかしたら私の年齢のこともあって、今からのラーメン店修行は難しいのでは無いか、だからそう言えば諦めるかもしれない、その方がいいにかもしれない、という思いもあったのかもしれません

Q.それで近くの支店は実際に紹介はされたんでしょうか?
はい、直系のX支店の店主・Bさんを紹介してもらいました

X支店は、「ラーメン二郎」愛好家からの評価が非常に高い店とされている。

本店での修行は叶わなかったが…直系の支店を紹介される

Q.それで、X支店のB店主を訪ねられたんですね
そうです。でも意を決してX支店に向かいました。
最初に訪ねた時は、事情を知らないバイトの方とかは「は?」みたいな感じだったんですけど、「三田のAさんに言われてきた」って言うと、X支店の店主・Bさんに伝えてくれました

Q.X支店では、すぐに採用になったんですか?
店主のBさんからは「創業者のAさんに聞いておく」と言われ、後日に面接のために来てくださいと連絡がありました。
営業終わりの24時頃に、ちゃんと履歴書を持って行きました。そういったところから試されていたんだと思います。
その面接で、「しばらく、こちらで働かせてあげてっていう話になってるけど?」と聞かれて、「お願いします」「じゃあ、おいでよ」と話がまとまりました

X支店で修行していた頃の鈴出氏(18年8月)
X支店で修行していた頃の鈴出氏(18年8月)

Q.「ラーメン二郎」の修行って、どんな感じなんですか?
Bさんは体育会ノリが好きな方でしたから、厳しかったですよ。特に最初の2~3年は厳しかったですね。
とはいえ、お店を経営するといろいろ大変なこともあるので、今は、あの修行でメンタル鍛えられたことは感謝してます

Q.修行は、一番最初はこれ、少し慣れてきたら次にこれ、みたいな順番はあるんですか?
まあ、まずキャベツを切るところからですね。次はスープの寸胴の掃除、洗浄。
X支店では、麺を茹でたり、盛り付けは店主がやることになってるんで。ほかの支店では違うところもありますけど

Q.週に何日出勤されてたんですか?
週6日ですね。休んだこともなかったです。台風の時も、営業できるように店まで行きましたから

Q.当初は総裁のAさんから「三田本店で修行する前に、支店で1年くらいやってみれば」という話だったと言うことですが、実際はX支店での修行はどれくらいされたんですか?
11年です。35歳から46歳ぐらいまで

Q.それは長いですね。40歳前後というと、いろいろ自分の人生を考えるような年代でもあると思うんですけど、いつぐらいから独立とかを考えましたか?
7~8年たった頃からですね。家族も出来たりしてたので

#2では、「ラーメン二郎」直系店で長く修行したのに、なぜインスパイア系で独立開業したのか、ストレートに聞いてみた!

「ラーメン二郎」インスパイア系【調理法】を全て公開!(前編)

「ラーメン二郎」直系店で長く修行した、「らーめん玄」店主・鈴出さんに調理のすべてを見せてもらった。

まずは自家製麺している麺(今回は「小」)を取り出す。かなり太めの麺。小麦の香りが漂う。
麺量は「大」「小」あるが、「小」でも300グラム。普通のラーメン店なら大盛りの量だ。「大」になると400グラム。
「らーめん玄」には「小の小」という、女性にも完食しやすい麺量200グラムのサイズも用意されている。

寸胴で麺を茹でる。「固め」といったオーダーも出来る

麺を茹でながら、チャーシューを準備する。

かなり厚めにカットする。そして、チャーシューはカットするだけでなく…

丼に盛り付ける前に、別の小さな鍋で温めるという。こうすることで、他の具材との「温度差」がなくなり、ラーメンとしての一体感が生まれる。

※【調理法】後編では、様々なトッピングで圧倒的なボリューム、「二郎インスパイア系」ラーメンの完成までをすべて公開する!
そして、なぜ「インスパイア系」での独立を選択したのか。その理由について語ってもらった。

小林剛浩
小林剛浩

慶應義塾大学経済学部卒業後、フジテレビジョン入社
情報番組、報道番組制作等を経て、FNNプライムオンラインを担当