ウクライナの反転攻勢が始まって約50日が経過。当初はかなりの勢いで押し返すと見られたウクライナは、ロシア軍の敷いた地雷などに苦戦し膠着状態に。

BSフジLIVE「プライムニュース」では元陸幕長の岩田清文氏と防衛研究所の高橋杉雄氏を迎え、地雷原の破壊など最前線で戦況に応じた技術的な任務に従事する部隊「工兵」について伺った。

工兵を含む「諸兵科連合作戦」の重要性

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新美有加キャスター:
イギリスの国際戦略研究所(IISS)の軍事アナリスト・ガディ氏がウクライナ軍の前線を視察した分析内容。主なポイントは、まず「前線の大部分は砲兵の支援を受けた歩兵の戦い」。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
土地の取り合いにおいて、最後は歩兵を進ませなければならない。地雷原や敵の砲兵の排除が必要で、砲兵の支援がなければダメだという今の戦場の常識。

新美有加キャスター:
また「ウクライナ軍はまだ大規模な諸兵科連合作戦を習得していない」。これは異なる強みと弱みがある複数の兵科を組み合わせ、各兵科の能力を最大限に発揮できる部隊を編成する作戦。

高橋杉雄 防衛研究所防衛政策研究室長:
戦車がいきなり対戦車ミサイルの攻撃を受けた実例がある。本来は周辺に展開する歩兵が守らなければならないが、それがなかった。ずっと訓練していた諸兵科連合作戦が実践できていないという指摘。結果、ロシアの的になってしまう。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
10年ほど前からNATO軍がウクライナに戦法を教えている。だが実務経験上、諸兵科連合作戦を数カ月で習得するのは難しい。ウクライナ軍は損耗を少なくして少しずつ、という姿勢で頑張っているのだろう。

新美有加キャスター:
ガディ氏はロシア軍を追い込むために必要なことにも触れている。「組織的なアプローチが存在し、ロシア軍の士気が著しく低下し、ロシアの防衛が突然あるいは徐々に崩壊した場合のみ変化する可能性」。

高橋杉雄 防衛研究所防衛政策研究室長:
現状で大規模な突破は多分できない。ハルキウ奪回時のように、補給の要衝を一気に取ってロシア側の士気が崩壊しなければ大きな戦況の展開はないという分析。

反町理キャスター:
「組織的なアプローチ」とは工兵の存在か。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
工兵含め、諸兵科連合の攻撃力で突破する戦法があると言っていると思う。今回のウクライナの作戦目的はクリミアの孤立化。物が届かなければ、また政軍関係に問題がある中で第一線の兵士が疑心暗鬼になれば、士気は著しく低下する。実はアメリカもイギリスも、裏切りを呼びかけロシアの政軍関係を崩壊させようとしている。

新美有加キャスター:
ウクライナの反転攻勢の成果が思いのほか出ていない現状に、米軍のミリー統合参謀本部議長が発言。「解決すべき問題は地雷原と防空」「夜間に地雷除去を行えばいい、空からの攻撃を避けられる」「諸兵科連合作戦を用いて、工兵や地雷除去の装備を投入すること」。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
全くその通り。しっかりした防空体制がとれない現状、一番効率的なのは地雷原の除去で、夜しかない。諸兵科連合が連携しなければできない。記者が大規模な航空戦力の供与について質問したが、すぐにできないからアメリカも苦しいのだと思う。

高橋杉雄 防衛研究所防衛政策研究室長:
統合参謀本部議長の役割は大統領に対する軍事的アドバイス。ホワイトハウスの方針に逆らう航空戦力が必要だとの発言は口が裂けてもできない。その前提で、防空が重要だとして空対空に言及している。つまり、ミリー議長本人は航空戦力が必要だと考えていると思う。夜間の作戦についても、ロシアの対戦車攻撃ヘリが夜間に行動しているのはすでに明らかで、聖域ではない。だが、(昼より夜に地雷除去する方が)まだマシだと言っていると私は解釈する。

地雷除去に苦戦のウクライナ軍工兵、地雷敷設能力の高いロシア軍工兵

新美有加キャスター:
地雷がウクライナ軍の前進を阻んでいると見られるが、地雷除去の役割を担うのが工兵。戦況に応じて道路、橋梁、地雷原などの建設や破壊をするために必要な技術と資材を持つ部隊。陸上自衛隊では「施設課」にあたる。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
極めて頼りになる職種。工兵がいなければ攻撃も防御も成り立たない。今回、ウクライナの攻撃では歩兵より前で処理しており、損害も一番大きい。陸上自衛隊の施設課は「没我支援」という涙ぐましい精神を持っている。

反町理キャスター:
ウクライナの戦場における実際の工兵の役割は。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
橋をかけることで、後から来る戦車が相手の準備した対戦車壕を乗り越えられる態勢を作ることが一つ。そして地雷原を処理する。また歩兵が乗り越えられない塹壕に装甲車で入っていき、中の敵を排除して塹壕を崩す。

工兵の役割
工兵の役割

反町理キャスター:
ウクライナ軍はどこまで進んでいるか。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
ほとんど最初のところでは。ロシア軍の弱点を探るために偵察車両が近づくと弾を落とされてやられてしまい、苦労しているようだ。

高橋杉雄 防衛研究所防衛政策研究室長:
ロシアによる自爆型ドローンの攻撃もかなり行われている。ある程度進んだ場所でも、ロシア側が予備兵力の戦車で食い止めてしまう。地雷原を開いた場合は場所が限られ、狙い撃ちされる。航空優勢がない状況では難しい。

反町理キャスター:
一方、防衛線を作り上げたロシア軍工兵の技術の評価は。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
1カ月半ウクライナ軍を止めており、優秀さは認めざるを得ない。また地雷敷設の能力が高く地雷原の数が圧倒的。仮に地雷原を抜けてもまた対人・対戦車地雷を散布するため、ウクライナは再度処理しなければならない。

新美有加キャスター:
ウクライナ軍の地雷除去車両には、レオパルト2Rなどがある。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
埋もれている地雷を下からすくい上げて処理をするもの。だが処理するときは目立つため、敵の火力が向く。戦車部隊や大砲の支援などの諸兵科連合により、周囲で地雷処理の車両を守ることが必要。工兵の車両を増やすだけではダメで、数よりも連携。

反町理キャスター:
ウクライナ側は、地雷除去車両が入るための環境が整わない中で入ってしまっているのか。この戦い方は間違っていないか。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
間違ってはいないが、事前の偵察が不十分だった、想定以上にロシアの対戦車ヘリの攻撃が強かった、などがあると思う。思った以上の地雷の海だったという状況。

新美有加キャスター:
仮に今後、うまく地雷除去ができたとして、さらにその先にある新たな障害は。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
地雷を除去して最初の地雷原を越え、陣内戦から1個大隊の陣地を抜けたとしても、まだ後ろに陣地があって同じ地雷がある。ロシアの予備隊の戦車大隊が突っ込んで、また陣内の戦いになる。ただ、それらを抜けてしまえば「隣の大隊が抜かれた」との情報が回り、ロシア軍が瓦解する可能性もある。

世界と遜色ない自衛隊の工兵車両 ウクライナへの供与は

新美有加キャスター:
陸上自衛隊が保有する主な工兵車両は、対戦車壕や崖などの障害を迅速に処理できる施設作業車、地雷原を迅速に処理し車両用の通路を開設する92式地雷原処理車。そして、小川などに戦闘車両を通過させるための橋をかける91式戦車橋、河川に浮橋や門橋をかける92式浮橋。質・量の面で確保できているか。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
かなり揃っている。十分だとは思わないが、防衛3文書に基づく目標に向けて足りない部分は入ってくると思う。

反町理キャスター:
あえて伺うと、日本の国土が戦場になることを前提とした備え、攻め込まれた際に守るための装備と見えるが。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
陸上自衛隊は戦争では日本の外に行かない。国土防衛のためにいる。おっしゃる通り。

高橋杉雄 防衛研究所防衛政策研究室長:
これは今、ウクライナがやっているように奪回作戦を行うためのもの。91式や92式とは採用された年を指し、つまり80年代後半に開発されてきた車両。当時はソ連の北海道侵攻がかなり現実性のあるシナリオだった。侵攻された後に食いとめて反撃をする用意だが、議論になっているいわゆる反撃能力とは性格が違うもの。武器としての殺傷能力もない。

反町理キャスター:
殺傷能力がないならば、ウクライナ支援でこの装備を移転することには問題ないように思えるが。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
ウクライナが欲するなら渡してもいい装備だと思う。日本の防衛産業が余力において作れるならば渡すべき。

高橋杉雄 防衛研究所防衛政策研究室長:
政治が決めることだが仮に出したとして、操作法について一定の訓練をすれば他の地雷原処理車と同様に戦術的に使えると思う。性能も、個人的な見解では諸外国の陸軍のものに遜色ない。

反町理キャスター:
ウクライナに送るなら、日本の施設課の自衛官が指導することになる。日本の国際的な安全保障上のスタンスが様々に変わってきている中、この部分についても我々は今判断を求められているのでは。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
それはある。しっかりと議論した上でやるべき。

高橋杉雄 防衛研究所防衛政策研究室長:
これまでと違う国際支援をやると政治が決めたときに、装備の提供のレベルが上がる。所詮装備は道具で、その前に政治的意思がある。

岩田清文 元陸上幕僚長 元陸将:
日本が国際社会で憲法前文にある「名誉ある地位」をどのように占めたいのか。単純に殺傷兵器・非殺傷兵器という分け方で考えていいのか。日本としての生き方を決めるべき時期。

(BSフジLIVE「プライムニュース」7月24日放送)