ウクライナでは、ロシアに占領された地域を中心に大量の地雷が眠っている。ロシア軍から解放した土地の復興のためには、その除去が必要不可欠だ。戦場以外での除去作業で、すでに20人が命を落とした。まさに危険と隣り合わせ隣り合わせの作業だ。その作業を迅速かつ安全に進めるため、今、日本の新たな技術の活用が期待されている。
国土の3割に地雷埋設。ぬいぐるみの中にも…
ウクライナ政府によると、国土の約3割(17万4,000平方km)に地雷や不発弾が残され、約500万人が、それら危険物の近くに住んでいるとされる。地雷や爆弾は地中だけでなく、時には家の中のぬいぐるみに仕掛けられていることもあるという。
ウクライナ国民の安全を脅かすだけでなく、ロシア軍から解放した土地の復興を進めるうえでも、復興への障害となっている地雷や不発弾への対策は急務だ。
侵攻を受けたブチャやイルピンを含むキーウの近郊や、昨年秋以降に奪還した東部の都市など、ロシア軍によって一時占領された土地での地雷除去作業にあたっているのが、ウクライナ内務省傘下の非常事態庁職員らだ。
侵攻開始時には300人だった非常事態庁の地雷除去専門要員は、その需要の高さから、今は5倍の1500人に増えている。
通常、地雷の除去作業は金属探知機を使って行われる。しかし金属探知機は、文字通りあらゆる金属に反応するため、探知したものをすべて掘り出し、地雷かどうかを確認しなければならず、膨大な時間がかかっている。
しかも、その作業は危険と隣り合わせだ。これまでに、68人の非常事態庁職員が地雷除去作業で負傷し、うち20人が命を落とした。
地雷除去に日本の新技術「ALIS」が活躍
危険極まりない作業だが、必要不可欠である地雷除去作業。今ここで、日本の新たな技術の活用が期待されている。
国際協力機構(JICA)を通じて、20年以上にわたり地雷対策で協力してきたカンボジアと連携し、ウクライナ非常事態庁の職員に、新たな日本製の探知機を使った地雷除去のノウハウを提供しようというものだ。
ポーランドの首都ワルシャワ郊外にある内務省施設内にある警察訓練所。7月、ここでウクライナ非常事態庁の職員8人に対して行われた訓練を取材した。
教えるのは、この探知機を使って地雷作業を行ってきたカンボジアの専門家、そして、その開発者である佐藤源之東北大学名誉教授だ。
佐藤教授が開発した「Advanced Landmine Imaging System(先進的な地雷の画像化システム)」を略したALISは、金属探知機と地中レーダーを組み合わせたものだ。
地中レーダーによって地中の物体の形状をスマートフォンで目視できるため、地雷を判別しやすいという。これまですべての金属を掘り出し確認してきたが、この探知機を使うことで、大幅な効率化が図れるという。
注目すべきはこの探知機、ロシアが多く使用するプラスチック製の地雷にも対応が可能だという。
「作業を加速。でも一番大事なのは…」
真剣な面持ちで訓練に参加していた非常事態庁の職員、ヴォルディミル・ソフィーチュクさん。普段は、市民からの通報を受けて、地雷や不発弾の除去にあたっているヴォルディミルさん、2015年から地雷除去に関わってきたスペシャリストだ。日本の探知機について、話を聞いてみた。
ウクライナ非常事態庁職員 ヴォルディミル・ソフィーチュクさん:
ただの金属探知機と違い、何が埋まっているのか形を確認することができる。この探知機ですべてが解決するわけでないが、地雷除去作業を加速させるとても有効な手段だ。
一番大事な条件は、戦争が終わること。戦争が終わったら、地雷除去が必要になってくるだろう。このような機械があれば、広範囲での除去が可能になってくる。技術をウクライナに持ち帰り、同僚と共有したい。
佐藤教授は、自分の開発した探知機がウクライナで使われるとは思っていなかったという。それでも、「私たちが培ってきた技術が、早くウクライナの人たちに役に立つように使ってもらえれば、技術開発してきたものとして非常にうれしいこと」と語る。
日本政府は、ウクライナにALISをすでに4台供与しており、年内にも数十台を追加する方針だ。
ウクライナの地雷や不発弾の除去には数十年かかるといわれている。国際社会は戦後を見据えた準備を、今すぐにでも始める必要がある。