大阪・泉佐野市を走行中の電車内で7月23日午前、清水和也容疑者(37)が乗客や車掌の男性を刃物で切り付け3人が負傷した。突然、多くの乗客が別の車両に走り始め、車両内という閉鎖空間で逃げ惑う乗客らはパニック状態となった。

このような密室空間で逃げ場のない走行中の列車内での襲撃事件は後を絶たない。2021年には、走行中の小田急線内や京王線内で乗客を襲撃する事件が発生し、社会に大きな衝撃を与えた。
鉄道各社は対策強化
2021年に無差別襲撃事件が発生した京王電鉄では、指令所等で車内の映像がリアルタイムで見られる防犯カメラの導入を決定し、23年度末までに全車両に設置すると発表した。
また、鉄道各社は防犯カメラに加え、アナウンスの徹底や警備員の巡回強化など見せる警戒による対策も進めている。さらに、国土交通省は防犯カメラの設置を義務付ける方針を示した上で、人工知能を用いた画像解析により不審者などを検知する技術の導入を検討しているという。

ちなみに、今回事件があったJRの快速電車には防犯カメラが付いていたというが、果たして防犯カメラは相次ぐ電車内での凶行事件に効果があるのだろうか。
恐らく「事案の早急な把握と対応」という意味では効果があるだろう。前述のように、リアルタイムで指揮所等が把握できることにより、警察・救急などへの連絡・情報連携、各種運行調整が速やかになされることが期待される。
一方で、抑止という面では疑問が残る。
過去の列車内の凶行事件を見ても、「死刑になりたい、誰でもよかった」など、ある程度警察に検挙されることは想定している、ないしはスコープ外(彼らにとってはどうでもよい)となっている場合や極端に衝動的な事件が多く、そういった動機や衝動性を持つ人物にすれば、防犯カメラによって犯行を止めようとは思わないだろう。

その中で、電車利用の際に手荷物検査を行うべきといった意見もあるが、日常の電車利用の中で手荷物を行うのは極めて非現実的である。電車の利便性と日常生活への密接な関わり方を考えれば、防犯カメラや警備員の巡回、避難方法や緊急連絡手段の乗客への明示など、現在の対策が現実的な部分であろう。
また、鉄道会社としては、凶行事件が発生してしまった場合における乗客の円滑な退避手段の確保・誘導、対象者の移動の制御などに重点が置かれるように思われる。
要するに、凶行事件を完全に防ぐことは不可能であり、我々利用者が有事に備え自身で身を守るしかないのだ。
自身を守る13箇条
凶行事件から身を守るために電車利用者が対策すべきポイントについて、以下列挙する。
<電車利用前における設備関連について>
1. 電車内非常通報ボタンの位置を確認
2. 非常用ドアコックの位置の確認
3. 駅ホームの非常停止ボタン、ホームドアの非常用解放ボタンの位置の確認
4. 消火器類の場所の確認
<電車利用時の心構えについて>
1. 車両番号の確認
2. 車内の様子の把握
3. イヤホンのノイズキャンセリング機能の利用を控える
4. スマホやタブレット、読書に没頭しない
ちなみに、海外の著名な危機管理会社曰く、治安が良くない国・地域の電車を利用する際は、ドア周辺に位置してスムーズに退避できる経路をイメージし、車内ではスマホや読書もせずにイヤホンで音楽を聴くこともせず、電車内の乗客の動きを直視せずとも広い視野で捉えているという。彼は、電車内でイヤホンをしてスマホに夢中になり、乗客に一切注意を払わない日本人を見て、日本はなんて平和なんだと感じたそうだ。

<電車内で凶行事件に遭遇したら>
1. 逃げる
2. 身を隠す
3. 非常通報ボタンを押す
4. 明確なSOSを出す
5.(襲撃された場合は)かばんや書類などの持ち物を盾にする
ここまで留意すべきポイントを列挙したが、SNSや報道で乗客が逃げ惑う映像などの情報に接したとしてもその危機感は醸成されるが、いざという対応にはつながらない。企業や学校、地域単位で、電車内での凶行事件を想定した訓練を行い、実際に体験することが非常に重要である。
最後に、電車利用においてここまで想定するかと思われる方もいるだろう。しかし、現に日本では、車両内において数々の凶行事件が発生している。
日常生活におけるリスクマネジメントは、個々人の意識次第である。
【執筆:稲村悠・日本カウンターインテリジェンス協会代表理事】