14年前、神戸市北区で高校2年生の男子生徒が当時17歳の元少年に殺害された事件の遺族が、元少年とその両親に損害賠償を求めて裁判を起こした。
■高校2年生を殺害 当時17歳の元少年を逮捕 懲役18年の地裁判決に元少年側は控訴

2010年、神戸市北区の路上で高校2年の堤将太さんが殺害された事件では、2021年に当時17歳だった元少年が逮捕された。
元少年は殺意を否認していたが、ナイフで何度も刺したことなどから、神戸地方裁判所は2023年6月の裁判で殺意を認め、懲役18年の判決を言い渡し、元少年側が控訴している。
■「事件直後に転居 犯行の発覚を遅らせた」遺族が損害賠償求める
遺族は元少年と両親に対し、「元少年は子どものころから不満があると暴力に訴える傾向があったのに、両親が十分に監督せず、また事件直後に転居させ、犯行の発覚を遅らせた」などとして、合わせて約1億5000万円の損害賠償を求めていて、6月10日に裁判が始まった。
■刑事裁判で元少年と弁護側は「精神疾患」で刑事責任を問えない精神状態と主張
なぜ遺族は元少年やその両親に、民事裁判を起こしたのか。それは刑事裁判では、「将太さんがなぜ殺害されたのか」という問いへの答えや語られた謝罪が到底納得できるものではなかったからだ。
元少年と弁護側は、刑事裁判で犯行当時は精神疾患で、十分に刑事責任を問える精神状態ではなかったと主張していた。
将太さんの殺害に至るまでの経緯として語られたのは、元少年が高校時代に交際していた女性や周囲の人に暴力をふるったり、脅迫したりしていたということ。 元交際相手との関係が悪化してから次第に妄想や幻聴に襲われるようになったということだった。
■精神障害の強い影響で「人を殺してはいけないと思っていなかった」と主張 しかし地裁は「精神障害はなかった」と断定
そして将太さんについて、妄想や幻聴から「家の近くまでやってきた、自分を攻撃する不良グループの1人」と思ったと説明。また当時は「人を殺してはいけないと思っていなかった」などと精神障害の強い影響があったと主張していた。
しかし神戸地裁は、精神鑑定を担当した医師の証言などから、判決で「精神障害はなかった」と断定した。
元少年は謝罪の言葉も口にしたが、遺族にとって真実が語られたとは思えず、心からの謝罪とは受け止めることはできなかった。
■「やったことに向き合って、責任を認めてほしい。謝罪してほしい」と息子を奪われた父

遺族は、刑事裁判に基づいて損害賠償を請求できる「損害賠償命令制度」を利用し、元少年には約9300万円の支払いが命じられたが、この命令についても不服申し立てをして、裁判に移行している。
堤将太さんの父・敏さんは、「やったことに向き合って、責任を認めてほしい。謝罪してほしい」と話している。
■「お金を求めているわけじゃない」殺人事件で損害賠償命じられても『ほとんど支払われない』現実

堤将太さんの父・敏さんが今回の民事裁判を起こすにあたって語ったことがある。それは、「お金を求めているわけじゃない」ということだ。
殺人事件などで加害者側に損害賠償が命じられても、そのほとんどは支払われていない。 そして愛する家族の命を金額で表すこと自体に遺族は苦しむ。それでも訴えを起こしたのは、次のような理由からだ。
堤将太さんの父・敏さん:損害賠償請求で挙げた金額が大きなものかどうか、分からないけれども、あなたたちはそれだけのことをやったんだと。その責任をちゃんと果たしなさい、と言いたいということです。
■心から謝罪してほしい「この方法しかない」
犯した罪に向き合って、心から謝罪してほしいと願い、「この方法しかない」と遺族が起こした民事裁判。 元少年と両親側は争う姿勢を示している。
(関西テレビ 司法担当 藤田裕介 2024年6月10日)