ユルリ島の写真×農耕馬の絵

正面を向き、こちらへ視線を送る白馬。

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たてがみは長く、どこか神秘的な雰囲気が漂う。

2023年8月11日から鹿追町の美術館で始まった企画展「幻の馬」には、根室沖の無人島・ユルリ島で生きる馬の写真が展示されている。

「幻の馬、美しくて儚いと感じますね」(来館者)

「野生の馬が北海道に存在することも知らなかった。作品を通してこの馬の存在を忘れたくないと思った」(来館者)

来館者たちはその魅力に引き込まれているようだ。

撮影したのは、稚内市出身の写真家・岡田敦さん(44)。

10年以上にわたって馬を撮り続けてきた。

「僕が撮り始めたときには、すでに馬が消えゆくことが分かっていたので、この島の馬たちの命と向き合いたいという僕の中の思いがそうさせたのかなと思う」(岡田敦さん)

”労働力”としてユルリ島へ

根室沖にたたずむ小さな無人島・ユルリ島。

1950年代、馬はコンブ漁の労働力として根室から島に運ばれた。

岡田さんがカメラに収めたのはその馬たちの子孫だ。

根室で馬の牧場を営む佐々木徳太郎さん(83)。

当時のことを知る一人だ。

「漁師さんの馬をこの牧場でほとんど放していた。コンブ漁や荷物運び、人間の手では大変なので、馬を使っていた」(佐々木牧場・佐々木徳太郎さん)

佐々木さんの牧場は1960年代まで漁師の労力として働いていた馬の共同牧場地だった。

人の生活を支えてきた馬。

しかし、機械化が進み、その数は減少した。

ユルリ島の漁師たちも、根室で漁港が整備され干し場が確保できると馬を残し引き揚げていった。

「命とはなにか」2人の作家が問い続けるもの

「機械がどんどん発達してきたら、馬はあまり必要ないものだろうから。そういう面でみんなが馬を使うのをやめていくからね」(佐々木さん)

島に残された馬はいずれ消えゆく運命にあるのか。

岡田さんは撮影とともに島の関係者にもインタビューを続け1冊の本にまとめた。

本のタイトルは『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』。

エピタフとは「墓碑銘」を意味する。

「人に知られることもなく、消えゆく馬に、何かしら最後の役割のようなものを与えることができたら。僕の作品が芸術として残ることによって付随して、ユルリ島の歴史も残すことができるかもしれない」(岡田さん)

企画展で岡田さんの写真とともに並べられているのが神田日勝の油絵だ。

神田日勝は戦後、鹿追町で農民として生きながら農耕馬などの絵を多く残した。

「神田日勝は馬や廃屋、鉄くずなど、世の中から捨てられていくものを一生懸命描いています。誰もが豊かさに向かって進み、社会が発展していく中で、そこからこぼれ落ちたもの、忘れられていくようなものに、自分を重ねながら世の中を見つめていたのではと思います」(神田日勝記念美術館 川岸真由子学芸員)

消えゆくものたちに永遠の命を吹き込んだ画家と写真家。

「他人に見られたくないものを表現する。それが芸術だということを日勝は教えてくれた。日勝や僕が絵を描くことや写真を撮ることで、何を表現したかったのかということを見てくれたら」(岡田さん)

2人の作家の作品は呼応し合い、「命とは何か」ということを見る者に問いかける。

▼『神田日勝×岡田敦 幻の馬』
 2023年8月11日(金) ~ 2023年10月28日(土)
 神田日勝記念美術館(鹿追町東町3丁目2)

北海道文化放送
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