パソコンに嘘のセキュリティー警告を表示させて不安をあおり、連絡してきた相手から修理代名目で電子マネーなどをだまし取る「サポート詐欺」が福岡県内でも急増している。テレビ西日本でも実際に遭遇、記者が“サポート窓口”を直撃した。

突如、パソコン画面に異変が…

5月30日、午前10時15分のテレビ西日本報道部。
報道デスクがパソコン画面をのぞいて記事をチェックしている。

報道部に響く謎の警告音
報道部に響く謎の警告音
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すると次の瞬間。パソコンの画面が黒くなり、赤い表示が出てきた。驚いたデスクは、慌ててキーボードを操作する。すると「ピーピーピー」と警告音が周囲に響き渡る。

周りの報道部員たちも異変に気付いた。報道デスクが続けてパソコンを操作していたところ、突如、警報音と共に「パソコンがウイルスに感染した」との警告文が画面に流れた。

テレビ西日本報道部・塩津正デスク:
某社の経済記事を見ていたところ、この表示が出て

パソコンが操作不能になり、不安をあおるような怪しい日本語の警告アナウンスまで流れ出した。

「重要なセキュリティーメッセージは、あなたのコンピューターがロックされている、あなたのIPアドレスは、個人情報の盗難ウイルスを含むWEBサイトを訪問するあなたの知識や同意なしに使用されました」

警告画面には、マイクロソフト社のセキュリティー対策ソフトの名前や“050”から始まるサポート窓口の電話番号まで表示されている。

そして警告音は続く。

「コンピューターのロックを解除するには、すぐにサポートに連絡してください」

怪しい日本語のアナウンスは、サポート窓口に電話するよう繰り返し指示してくるのだが―。
実は「サポート詐欺」と呼ばれる詐欺なのだ。

サポート詐欺とは、インターネットを閲覧中に嘘のセキュリティー警告やサポート窓口の電話番号を画面に表示させ、連絡してきた相手からパソコンの修理代などの名目で電子マネーをだまし取る手口の詐欺。

サポート詐欺は、2023年に入って急増していて、北九州市の60代の男性が1月に約180万円をだまし取られるなど、福岡県内では4月末時点で既に42件、1,451万円余りの被害が確認されている。

詐欺犯に電話で直接聞いてみた

詐欺犯は、一体どんなだましの手口を使うのか。
記者が実際に「うそのサポート窓口」に電話をかけてみると…。

詐欺犯との通話を試みるテレビ西日本・毛利拓也記者
詐欺犯との通話を試みるテレビ西日本・毛利拓也記者

詐欺師(ガネスガザラ):
もしもし、お電話ありがとうございます。マイクロソフトのテクニカルサポートセンターの方から「ガネスガザラ」と申します。よろしくお願いします。お客さま?

毛利拓也記者:
もしもし

詐欺師(ガネスガザラ):
はい、ご用件はどうぞ

毛利拓也記者:
お名前をもう一度

詐欺師(ガネスガザラ):
ガネスガザラ

毛利拓也記者:
ごめんなさい、日本人ではない?

詐欺師(ガネスガザラ):
はぁ、そうですね。私はアメリカ人です

毛利拓也記者:
マイクロソフトの社員の方?

詐欺師(ガネスガザラ):
…グフッ、そうですね

詐欺犯は自身をマイクロソフト社員と名乗った
詐欺犯は自身をマイクロソフト社員と名乗った

「嘘のサポート窓口」で電話に出たのは、たどたどしい日本語を話す自称アメリカ人で、マイクロソフトの社員の「ガネスガザラ」と名乗る人物だった。

記者はだまされたふりをして、その「ガネスガザラ」氏に画面に警告文が表示されパソコンが操作不能だと伝えた。

毛利拓也記者:
何か、セキュリティー警告みたいなのが出てきたのですが…

詐欺師(ガネスガザラ):
あっ! そうなんですか、はい。分かりました。お客さま、心配しないでください。それ出ている問題、セキュリティー警告というのはですね、マイクロソフトの方から1回、解決してあげますけど、その前にちょっと何点か確認させてもらえませんか?

毛利拓也記者:
はい

詐欺師(ガネスガザラ):
お客さま、その警告は初めてですか?それとも前、前にも出たことがありますか?

毛利拓也記者:
初めて出ました

詐欺師(ガネスガザラ):
何か、アダルトサイトを検索したんですか?

毛利拓也記者:
いや、アダルトサイトとかは…

詐欺師(ガネスガザラ):
アダルトサイトとか、変な動画とか、変な

毛利拓也記者:
その辺は、検索してないのですが

詐欺師(ガネスガザラ):
どうですかね~。それ、セキュリティーの警告がマイクロソフトの方からわざわざ現れています。というのは、コレですね、できるだけ早くパソコンを直してくださいというつもりでこの警告が表れています。セキュリティーが、もし入っているんだったら、それ効いてないと思います。ですからそのウイルスで感染されているわけです

電話口の「ガネスガザラ」氏は「パソコンがウイルスに感染している」「早く修理しないといけない」など不安をあおってくる。さらに「パソコンの内部を調べるため遠隔操作の必要がある」と言い始めた。

詐欺師(ガネスガザラ):
そちらさまのパソコンは、いまマイクロソフトのサーバーと遠隔操作することで、パソコンのですね、それ説明したり、見せたりしながら解決の方法も教えてあげます

毛利拓也記者:
なるほど。普通のパソコンで誰でもできる?初めてなので心配だが

詐欺師(ガネスガザラ):
ああ、わかりました。お客さま、心配しないでください。それ、マイクロソフトの方から、毎日仕事してますから、それ、お客さまのご判断なんですけれども、大丈夫だったらやりましょう。
でっ、お客さまどうしたいなのか、自分ですぐ判断してください。いまからですね、直してほしかったら、いまからパソコンの診断をするため、診ないとわからないので、わからないと解決もならないんです

毛利拓也記者:
遠隔操作で、これから解決できるかもしれない?

詐欺師(ガネスガザラ):
そうです。そうです。そうです、はい

パソコンの遠隔操作に応じるよう畳みかけてくる「ガネスガザラ」氏。もちろん記者は、その手には乗らない。
ところで、自称アメリカ人の「ガネスガザラ」氏はどこから通話しているのか?

毛利拓也記者:
これは、いま日本からの電話?

詐欺師(ガネスガザラ):
そうですね、はい。東京の、え~~っと、東京にある、え~っと、品川グランドセントラルタワーからマイクロソフトのウィンドウズサポートセンターのテクニカルサポートの方から話しております

毛利拓也記者:
あっ、ということは、日本からお話なんですかね?

詐欺師(ガネスガザラ):
そうですね、はい

「ガネスガザラ」氏は日本マイクロソフトが実際に本社を構える東京都港区の高層ビルで電話に出ていると説明した。
すかさず記者が、さらに突っ込んで尋ねる。

毛利拓也記者:
品川セントラルタワーの何階にオフィスがある?

詐欺師(ガネスガザラ):
そこに行くと書いてあります

毛利拓也記者:
あ、何階かは、いまは言えない感じですか?

詐欺師(ガネスガザラ):
言えますけれども、書いてありますから自分で読んでみてください

毛利拓也記者:
行こうと思えば行けるので、何階か教えてもらいたい

詐欺師(ガネスガザラ):
はい、はい、はい。はい、待っております

電話口での応対が次第にトゲトゲしくなっていく「ガネスガザラ」氏。そこで記者は相手が要求する遠隔操作に話を戻し、会話の引き延ばしにかかる。

毛利拓也記者:
このまま遠隔でも作業ができる?

詐欺師(ガネスガザラ):
そうです

毛利拓也記者:
どうやって作業をしていけばいいか、教えてください

詐欺師(ガネスガザラ):
あっ!?ゴホン。わかりました

こころなしか機嫌が良くなったような「ガネスガザラ」氏。パソコンを遠隔操作する手順の解説を始めた。

詐欺師(ガネスガザラ):
キーボードの左の一番下のボタンを見てください。どんなボタンがありますか?

毛利拓也記者:
一番左の下はファンクションのボタンとかですかね

詐欺師(ガネスガザラ):
そうです。ファンクションの右隣は何のボタンですか?

毛利拓也記者:
コントロール

詐欺師(ガネスガザラ):
コントロールの右隣は?

毛利拓也記者:
ウィンドウズのマーク

詐欺師(ガネスガザラ):
そうですね

キーボードの配列をチェックした「ガネスガザラ」氏から次なる指示が―。

詐欺師(ガネスガザラ):
ウィンドウズのマークのボタンを押したまま、ローマ字の「R」ボタンを押してください

毛利拓也記者:
ウィンドウズのマークを押したまま「R」ですか?

詐欺師(ガネスガザラ):
はい、はい

もちろん記者は指示通りには動かない。
そもそも、この「ウィンドウズ」と「R」のキーを同時に押す操作は「ファイル名を指定して実行する」というコマンドで、詐欺犯は言葉巧みに相手を操り、最終的には“パソコン乗っ取りソフト”などをインストールさせるという。

毛利拓也記者:
ウィンドウズのボタンを押して一緒に「R」ですね

詐欺師(ガネスガザラ):
そうです

毛利拓也記者:
はい、押しました

もちろん記者は指示されたキーを押していない。

詐欺師(ガネスガザラ):
はい、画面の左下に、なんか小さな画面が出てきていると思うけど

毛利拓也記者:
はい、はい、はい

詐欺師(ガネスガザラ):
出てますか?

毛利拓也記者:
う~ん、ちょっと出てこないですね。そこには、どんなものが出てくる?

電話:
プー、プー、プー

毛利拓也記者:
切れました

「ガネスガザラ」氏は突然、電話を切った。

背後からは“複数人の声”が

記者は再び「嘘のサポートセンター」に電話をかける。

詐欺師:
お電話ありがとうございます。ウィンドウズサポートセンターの◎△$♪×が話しています。問題どうぞ

毛利拓也記者:
すみません、先ほど電話した毛利という者なんですけど、電話が途切れてしまって

詐欺師:
う~ん、ただいまお客さまのパソコンで“トロイの木馬”ウイルスの問題が感染されましたが

毛利拓也記者:
ごめんなさい、もう一度、お名前を?

詐欺師(マイク・ミラー):
マイク・ミラーです。私の名前はマイク・ミラーで、パソコンの中に“トロイの木馬”ウイルスが感染されました

2人目の詐欺犯は「マイク・ミラー」と名乗った
2人目の詐欺犯は「マイク・ミラー」と名乗った

先ほどの「ガネスガザラ」氏ではなく、今度は「マイク・ミラー」と名乗る人物が電話に出た。

毛利拓也記者:
さっき電話をつないでいただいた人をもう一度お願いしたい

詐欺師(マイク・ミラー):
何???

通話の背後からは、どこか広い室内で話す複数の人の声も聞こえてくる。

詐欺師(マイク・ミラー):
私もマイクロソフトの技術者です。ご心配しないでください。いま、どんな画面が見えますか?

毛利拓也記者:
いま、後ろが騒がしいが、どこから電話している?

詐欺師(マイク・ミラー):
これは、マイクロソフトの電話番号ですね

毛利拓也記者:
マイクロソフトの電話番号?オフィスですか?

詐欺師(マイク・ミラー):
それは問題

すると、背後からかすかに言葉が聞こえてきた。誰かが電話口の向こう側で「ウィンドウズサポート番号」と口にしている。
どうやら電話口の向こう側は「サポート詐欺」を行う詐欺グループのアジトのようだ。

毛利拓也記者:
すみません、先ほどのガネスガザラさん?をもう一度、お願いしたい

詐欺師(マイク・ミラー):
さっきの人はいません。さっきの人はいません

ここで、またしても電話が切られた。

次々と現れる「マイク・ミラー」

記者は間髪を入れず電話をかけ直す。

詐欺師:
お電話ありがとうごじゃいます。マイクロソフトテクニカルサポートでごじゃいます。どうなさいましたか?

毛利拓也記者:
あなたのお名前は?

詐欺師:
こちらはね

毛利拓也記者:
はい

詐欺師:
私、ミラーと申します

毛利拓也記者:
あっ、さっきのマイク・ミラーさんですか?

詐欺師(マイク・ミラー?):
…はい

毛利拓也記者:
声が違う気がする。さっきのマイク・ミラーさん、あと、後ろがすごく静か。さっきはうるさかった。マイク・ミラーさん?

詐欺師(マイク・ミラー?):
はい、はい

毛利拓也記者:
ああ、そうなんですね

まさかの「マイク・ミラー2号」が登場
まさかの「マイク・ミラー2号」が登場

今度は別の「マイク・ミラー」氏の登場だ。
怪しさが尋常ではない「嘘のサポートセンター」。電話口の「マイク・ミラー2号」に記者が身分を明かして切り込む。

毛利拓也記者:
実は、テレビ西日本の記者の毛利という者ですが

詐欺師(マイク・ミラー2号):
うん、うん、うん

毛利拓也記者:
単刀直入に伺うが、これ、詐欺ですよね?

「詐欺か」と問われ、沈黙を貫くマイク・ミラー2号
「詐欺か」と問われ、沈黙を貫くマイク・ミラー2号

詐欺師(マイク・ミラー2号):
……

毛利拓也記者:
もしもし

再び突然、電話が切られた。
しかし記者は、まだまだ引き下がらない。

詐欺師:
もしもし、お電話ありがとうございます。ウィンドウズサポートセンターから話しております。ご意見はなんですか?

毛利拓也記者:
私、先ほどから電話している毛利といいます

詐欺師:
はい、はい

毛利拓也記者:
ご担当者さまのお名前は?

詐欺師:
私は日本マイクロソフト株式会社から話しております

毛利拓也記者:
の、何さんですか?

詐欺師:
私はアメリカ人です

毛利拓也記者:
お名前は?

詐欺師:
マイク・ミラー

もはや驚かなくなった、マイク・ミラー3号の登場
もはや驚かなくなった、マイク・ミラー3号の登場

あきれたことに、今度は「マイク・ミラー3号」が登場した。

詐欺師(マイク・ミラー3号):
おたくは、誰ですか?

毛利拓也記者:
私は、テレビ西日本記者の毛利という者なんですが

詐欺師(マイク・ミラー3号):
ふぁい

毛利拓也記者:
これ、単刀直入にお伺いしますけど

詐欺師(マイク・ミラー3号):
どうぞ

毛利拓也記者:
詐欺電話ではないでしょか?

詐欺師(マイク・ミラー3号):
違います

毛利拓也記者:
詐欺電話、ですよね

詐欺師(マイク・ミラー3号):
マイクロソフトの電話番号なんです。詐欺の電話じゃないです

毛利拓也記者:
詐欺の電話ではない?

詐欺師(マイク・ミラー3号):
ないです

毛利拓也記者:
マイク・ミラーさんはマイクロソフトの社員?

詐欺師(マイク・ミラー3号):
そうです

毛利拓也記者:
結構、こういった手口の詐欺はあるが、「これは詐欺じゃない」と言い切れる保証はどこにある?もしもし?

ここで電話が切られてしまった。
切られても切られても、記者は「嘘のサポート窓口」に電話をかけ続けたが―。

毛利拓也記者:
あっ、切れちゃいました。つながらなくなってるかもしれない

「うそのサポート窓口」にその後、電話がつながることはなかった。

毛利拓也記者:
実際に電話をしてみて、まず驚いたのは電話口の相手が外国人だったということ。そして全員が、片言ではあるものの、こちらの質問などは理解していたと思う。4人中3人が同じ名前を名乗っていたということなどから、マニュアルに沿って対応しているのかなという印象だった。かなりこちらの操作をあおるというか、まくし立てる話し方で、パソコンに慣れていないお年寄りなどは警告に驚いて言われたとおりに操作してしまうのではないかと感じた

まずは冷静な対処を

架空請求などはこちらから電話をしなければ被害に遭うことはないが、サポ-ト詐欺は警告の画面が閉じられないというのが特徴だ。

ではどうすれば対処できるのか、福岡県警にその方法を聞いた。

福岡県警生活安全総務課・下村篤史犯罪抑止対策室長:
パソコンを再起動するということです。「Ctrl」「Alt」「Del」。このボタンを同時に押して稼働中のタスクを終了する方法です。警告画面が出て警告音が鳴っても、まずは慌てないというのが重要だと思います

怪しい画面が現れても、焦らずに冷静になることが重要
怪しい画面が現れても、焦らずに冷静になることが重要

慌てずに対処すればキーボードの操作で警告画面を閉じられる。
焦ってすぐに電話をかけてしまうのではなく、警告画面が出ても「これは詐欺だ」と考え、冷静に対処することが大切なようだ。

(テレビ西日本)

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