がんと診断された人の割合が全国で7番目に高い(※)長崎県で、若い世代から「がん」への意識を変えようと、県内で講義を行い「がん教育」に取り組む一人の看護師がいる。子供たちの反応に手ごたえを感じる一方、“医療スタッフだけに頼らないがん教育”という大きな目標も持つ。(※2019年 10万人あたりのがん患者:長崎県406.1人 全国387.4人)
2人に1人が「がん」…早期発見が大事
長崎県の大村中学校で教壇に立った看護師の田中圭さん(取材時42歳)。分かりやすいイラストと言葉で、中学生に「がん」について教える。

がん看護専門看護師 田中圭さん:
統計で、実際に2人に1人が「がん」になっている。なんか信じられん感じがするけど、それくらい身近な病気になっています
田中さんによると生活習慣を改善するとともに、症状はなくてもしっかり検診を受けてステージ1、2の段階で見つけてあげると「がん」は治るという。

約1000人の「がん看護専門看護師」
長崎医療センターで、田中さんは全国で1054人、県内には7人しかいない(日本看護協会認定資格)「がん看護専門看護師」として患者や家族と向き合っている。
がん看護専門看護師 田中圭さん:
ドクターの場合はどちらかというと医学、疾患とか治療と病気に対してベクトルが向いていますが(がん看護専門看護師は)その治療でどんな影響があるか良い面も悪い面も理解し、患者の生活を整えて、“その人がその人らしく暮らしていけるように支援する”ところが違うかな

田中さんが、がん看護専門看護師を志したのは20代のとき。ある患者が望む看護やケアに医療者としても、一人の人間としても、十分に応えられたのかと考えたのがきっかけだった。いまは時代に合った資格とも考えているという。
がん看護専門看護師 田中圭さん:
人口減少と核家族化、独居の方も増えてきました。いろいろな生き方・死に方が生まれてくると思うんです。(がん患者が)より良い生き方をどう見つけるかを考えると、がん看護専門看護師がそれを担う1つの職種になるのかなと思います
“がんサバイバー”が語る「命の大切さ」
「誰もががんになる時代」で大切なのは「がん教育」だと考え、田中さんは年に10回程度、長崎県内各地で子供たちに講義を行っている。大村中学校では39歳で乳がんと診断された“がんサバイバー”の50代女性もオンラインで講演した。

福岡県のNPO法人 キャンサーサポート 中原美夏さん:
抗がん剤・副作用を知っていますか。髪の毛が抜けます。私も坊主頭になってしまいました。ドラマとかで見るあのまんまでした。風呂場で髪の毛を洗うと排水溝にどんどんたまっていって、タオルで拭くとタオルにいっぱい付いて。
「あなたが生きているきょうは誰かが生きたかったきょうだ…」
この世の中には生きたくても生きられない人がたくさんいることを覚えてほしいと思います。
田中さんが話す「がんの知識」と、がんサバイバーが語る「命の大切さ」。
授業の前後に行ったアンケートでは、「がんは身近な病気だと思う」と答えた生徒は71%から91%へ、「身近な人と話し合おうと思う」と答えた生徒は32%から57%へと伸びた。

生徒:
がんはあんまり自分には関係ない病気だと思っていました。(家族に伝えたいことは)がん検診をちゃんと受けるということと、がんになったとしても諦めずに頑張っていこうということです
生徒:
おじいちゃんが2人いるが両方がんになってしまって、1人のおじいちゃんが、がんで亡くなってしまったので大きいです。早めに見つけることができたら治すこともできるので、自分もしっかり気をつけようと思いました
生徒:
自分ができることは食生活だと思うのでそれをしっかりやって家族や親戚にも伝えてみんなで長生きできるよう頑張りたいです
大村中学校は今回初めてがんに特化した学習を行ったが、「子供たちが自分たちのいい明日を作る意味でいい効果があった」と評価している。
医療スタッフなしでも「がん教育」を
長崎県内の「がん教育」はこれまで一部の関係者の熱量に支えられていたが、県が2023年3月に医療関係者向けの勉強会を初めて開いたほか、患者団体も2024年から講話をしたいと準備を進めている。田中さんは最終的に医療スタッフがいなくても「がん教育」が行われる環境が理想だとしている。

がん看護専門看護師 田中圭さん:
先生や学校独自のがん教育が増えていくことに期待しているところです。(いまは医療関係者の)講話や講演会という形ですが、通常の教育の一環として当たり前にどこの学校でもどこの地域でも受けられる環境になることを願っています
日本人の死因第1位、「がん」。誰もがかかりうる病気だからこそ考えてほしいと田中さんは「がん教育」を続ける。
(テレビ長崎)