西九州新幹線開業から3年。「新鳥栖-武雄温泉」間の整備方式やルートは決まっておらず不便さを口にする利用客も多い。また、並行在来線沿線の住民は「恩恵は全然受けていない」と不満を募らせている。

駅前レストラン閉店 空き店舗のまま

2022年9月23日に開業した西九州新幹線。武雄温泉駅と長崎駅が30分程度と近くなり、利用者数も年々増加している。

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新たな新幹線の起点となった佐賀・武雄市。その現状はどうなのだろうか。

今年(2025年)の9月中旬、平日の正午ごろの武雄温泉駅前。きれいに整備されたスペースが広がっている。しかし、平日ということもあるのか、行き交う人の姿はほとんど見られなかった。

平日の昼時、駅前で過ごす人はほとんどいない。新幹線開業と同時にオープンした駅前の一等地のレストランは今年(2025年)3月に閉店した。

継続的な売り上げが見込めなかったため閉店となり、跡地は空き店舗のままとなっている。

「新幹線開業2年目からはガタ落ち」

武雄の玄関口の現状に温泉街で旅館を営む武雄市観光協会の山下会長は危機感を募らせる。

武雄市観光協会 山下裕輔会長:
(新幹線開業前は)長崎の人は武雄に来てないんです。だから武雄初めてという(長崎の)人が1年目はすごく多かった。2年目からはもうガタって落ちましたよ。今年ぐらいから新幹線(開業)前ぐらいに戻ったかなと

武雄市観光協会の山下会長は、東からのアクセスが良くならない限り、現状は変わらないと指摘する。

武雄市観光協会 山下裕輔会長:
この市場(長崎方面からの観光客)だけでどうにかするというのは絶対無理だと思うんです。新幹線は東京から長崎までつながって初めて生きるんです

利用客「武雄での乗り換えが不便」

「新鳥栖-武雄温泉」間の整備方式やルートはまだ決まっていない。佐賀、長崎、JR九州、国の意見の食い違いによって協議が進んでいないからだ。

このため、長崎に向かう利用客は不便さを口にする。

福岡方面からの利用客:
博多から武雄で(降りて)乗り換えしなくてはいけないのが残念

埼玉県から長崎への利用客:
使いにくいですよね、やっぱり。(新鳥栖駅~武雄温泉駅間が)つながるとくとすごくいいんですけどね

進まない「整備方式・ルート」の協議

今年8月、「新鳥栖-武雄温泉」間のあり方について、佐賀県の山口知事は長崎県知事、JR九州の社長と1年3カ月ぶりに意見を交わした。

県の試算によるとフル規格で整備する場合の佐賀県の負担は1400億円以上。山口知事は、巨額の負担となるだけに改めて慎重な検討と地元の合意が必要との認識を示した。

佐賀県 山口知事:
やみくもに前に進めても後で問題が発生する。ここできっちりと3者で、もしフル規格で何かやるのであれば、しっかり合意をした上でやらなければいけないというふうに申し上げた

観光業を支える立場から武雄市観光協会の山下会長は、現状へのもどかしさを口にする。

武雄市観光協会 山下裕輔会長:
(現状のままでは)次世代にお前たち何やっていたんだって言われますよ。自分たちの覚悟ひとつで通るわけじゃないですか。通せるのに通さないことしているわけでしょう。それをなんと言い訳するのかという話ですよ

特急列車3分の1以下に激減した市町

一方、西九州新幹線の開業に伴い並行在来線になった長崎本線沿線の市町の現状はどうなのだろうか。

肥前鹿島駅では、新幹線開業前は1日に45本停車していた特急列車が14本、3分の1以下に減った。地元の住民からは不満の声があがっている。

太良町の住民:
(新幹線の)恩恵は全然受けてないですよ。すごくローカルになっていますよ

鹿島市の住民:
息子が博多にいるけど行かなくなった

並行在来線の利便性はさらに悪化する可能性があるという。

長崎本線利用促進期成会会長 松尾勝利鹿島市長:
特急が14本から10本という話ですので、われわれとしては現状のまま走らせてくださいと

まちづくりに大きな影響を及ぼすだけに長崎本線の沿線にあたる4つの市町は、JR九州に運行本数の確保などを要望したが、今後の見通しは立っていない。

駅前再開発 “期待”と“冷めた声”

一方、県と市は、鹿島・太良エリアの玄関口、肥前鹿島駅周辺を新たな観光拠点にするため、53億円をかけて駅舎の建て替えや駅前の再開発を計画している。

新しい駅舎には観光客向けの宿泊施設ができるほか、イベントなどが開催できる広場もオープンする予定で、旅行客にこの地域をゆっくり味わってもらう、いわゆるスローツーリズムを軸とした再開発だ。

しかし、駅前再開発への期待の一方で、市民からは列車本数の確保を急いでほしいとの冷ややかな声も上がっている。地元住民は…。

「(新幹線効果は)ないですね。嬉野温泉とか武雄温泉からたまに来る人もいるけれども。(駅前の再開発には)期待はしますよ。きれいになるから」

「そんなところにお金かけなくていいと思う私は。都会みたいな駅にする必要は全然ないと思いますよ」

「そこ(再開発)に予算をつぎ込むんだったら、電車の便をどうにかしてほしいです」

佐賀県の山口知事は…

佐賀県 山口知事:
新幹線が全てじゃない。素晴らしい地域っていうのは、どんなことがあっても行きたい観光地。そういう素晴らしいエリアを県は一生懸命地元の皆さんと作り上げていきたい

西九州新幹線開業から3年。「新鳥栖-武雄温泉」間の整備方式やルートの道筋も見えてこない中、並行在来線沿線の利便性は低下。課題はいまだに山積している。

サガテレビ
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