ロヒンギャ難民の子供たちの教育は…

第7弾でもお伝えしたが、ロヒンギャの子どもたちの教育について詳しく見ていこう。

ロヒンギャキャンプ内にある、ユニセフが運営している非公式の教育施設は
①思春期の女の子たちのためのセンター
②チャイルドフレンドリースペース
③ラーニングセンター

①は前回お伝えしたが、②と③は日本でいうと学童のような場所だ。

チャイルドフレンドリースペースは、不安や危険にさらされてきた子どもたちが安心して過ごせるようにと作られ、中ではみんなで絵を書いたり、おもちゃで遊んだりしていた。

チャイルドフレンドリースペース
チャイルドフレンドリースペース
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チャイルドフレンドリースペース内
チャイルドフレンドリースペース内

一見穏やかそうな環境に思えたが、銃などの武器、家が燃えている様子、川を下ってバングラデシュまで逃げてきた様子が描かれた絵を何枚も見かけ、子どもたちの心のケアの必要性を感じた。

子どもたちの描いた絵 家が燃えている
子どもたちの描いた絵 家が燃えている
赤い色は血を表しているのか・・・
赤い色は血を表しているのか・・・

また、③ラーニングセンターは、14歳までの子どもたちに基本的な読み書きや算数を教えたり、生きていくために必要なスキルを提供したりする場で、ミャンマー語や英語を学んでいる子どもたちの大きな声が、建物の外にまで聞こえ、元気な様子が伺えた。

ちなみに、バングラデシュの母語ベンガル語は教えていないという。これは、「バングラデシュに居座られたら困る、いつかはミャンマーに帰って欲しい」という気持ちがバングラデシュ政府にあるため、ベンガル語は教えず、ロヒンギャの母国のミャンマー語を教えている。

ラーニングセンター
ラーニングセンター

学校に通ったことのない少女

第6弾に登場したファティマによると、ミャンマーにいた頃、ロヒンギャたちはコーランを勉強する機会はある程度与えられていたが、他の勉強をする機会は与えられていなかったそうだ。
「今のような、迫害を受けてバングラデシュに避難しているような状況下では、勉強が一番大切。このような状況になることを知っていたら、勉強していたし、子どもや孫たちにも勉強をさせたかった」と、声に力が入る。

ロヒンギャ難民キャンプで出会ったファティマ
ロヒンギャ難民キャンプで出会ったファティマ

また、長女のハシナは、生まれた時からずっとロヒンギャの学校やイスラム教の学校が休校や廃校となっていて、その場所でラカインの人たちは遊んでいたり、家を建てて住んだりしている状況だったと話す。

ハシナの娘、12歳のボリアも、ミャンマーにいた頃から学校にも通えず、教育を受けられなかったという

ファティマと孫娘のボリア
ファティマと孫娘のボリア

義務教育のない国、女性が外に出られない文化

ただ、そもそもミャンマーには、義務教育というものがない。2012年まではロヒンギャたちも公立の学校に通い、仏教徒であるラカイン族の子どもたちと一緒にミャンマー語を勉強していたという情報もあるのだが、そもそも義務教育のない国で、長年様々な迫害を受けていたロヒンギャの子どもたちがみな満足に学校に通えていたかというと、かなり厳しい状況だったのではないかと想像できる。

ユニセフの施設とは別に、キャンプ内のモスクでは、コーランを読むためにアラビア語の勉強をしている子どもたちもいるのだが、12歳のボリアはしていない。若い女性は家の外には出ないというのがロヒンギャの文化なのだ。

ハシナは言う。
「イスラム教徒としてコーランを学ぶことも必要だが、それ以外の勉強もさせたい。教育を受けるためなら娘を外に出させる。必要ならば宗教や文化のルールを破ってもいい。娘に教育を受けさせられるなら、私の命と引き換えでもいい」と、語気を強めた。

“英語を話せるようになったら…”

娘のボリアに、どんなことを勉強したいか聞いてみると、「英語」と答えた。

ーそれはどうして?
あなたたちと話すことができるから。」
ボリアの家族から笑みがこぼれた。

 そうか、外の世界を知りたいんだ。英語を話せるようになったら、もっともっと広い世界を知ることができる。

英語を勉強したいと語ったボリア
英語を勉強したいと語ったボリア

少女とともにラーニングセンターへ

近くのラーニングセンターでは、ボリアと同じくらいの年齢の女の子が学んでいるそうで、一度見学に行くことになり、我々も同行させてもらうことにした。

外に出るときは女性はブルカを着用するので、家から出てきたボリアは、目元しか出ていない状態だ。同じくブルカを着用した母ハシナと連れ立って、10分ほど歩いてラーニングセンターに向かう。

ラーニングセンター
ラーニングセンター

ラーニングセンターには20人くらい女の子たちがいた。
かなり緊張気味のボリア。センターのスタッフに話しかけられるが、言葉少なに返事をしている。でも近くで見守るハシナは満足そう。大切な娘に念願の教育を受けさせることができるのだ。

授業後に話してみると、ハシナは明日からでも娘を通わせたいという。ボリアも、とにかく勉強したいと前向きだ。

ラーニングセンターを訪れたボリア
ラーニングセンターを訪れたボリア

ただ、ロヒンギャの子どもたちへの教育については、課題もある。
ラーニングセンターは1クラス35人という定員があり、1週間に6日間、1日3交替で運営しているものの、3歳から14才の子ども298,000人のうち約160,000人が教育の機会を得られていないという。土地が限られていて、新しく施設を建設することが難しい現状なのだ。
さらにトレーニングされた教師の数も足りていない。ベテラン教師の授業を録画し、それを見せて、教師の質の改善にも取り組んでいるとのことだが、教育を受けたい全ての子どもたちの願いを叶えるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

(取材:フジテレビ アナウンサー 山中章子)

(これまでの取材報告はこちらから
【第一弾】ロヒンギャ難民を受け入れるバングラデシュ国民の“懐の深さ”と現実
【第二弾】難民キャンプではスマホで薪を管理!? 砂嵐の中に生きる70万人のロヒンギャの実態
【第三弾】「子供が象に殺された」キャンプにたどり着いても安心できないロヒンギャ
【第四弾】ミャンマー軍に両親を殺された! 少女が吐露したロヒンギャの現実 
【第五弾】番号と写真で管理され、子どもを隠したロヒンギャの人々
【第六弾】自らを「埃のような小さな人間」というロヒンギャの心遣いに、私たちは涙した
【第七弾】12歳で結婚・妊娠 年間16000人もの赤ちゃんが生まれるロヒンギャ難民の性教育

【お知らせ】
9/20(木)から9/23(日)まで、アンチエイジングフェア2018in台場が開催されます。
その中で、9/23(日)15:30から、フジテレビ本社1階マルチシアターで、ロヒンギャ難民の子どもたちについてのトークショーを行います。
お時間がありましたら、ぜひご来場くださいませ。

山中章子
山中章子

先入観を持たず、何事もまずやってみる、聞いてみる。そして、そこから考える。気力は体力で補う、体力は気力で補う。人間万事塞翁が馬。人生何が起きるかわからない。

フジテレビアナウンサー。2009年入社。現在「とくダネ!」、「めざましどようび」、「FNNプライムニュースデイズ」(週末)、「週刊フジテレビ批評」など担当。2015年からFNSチャリティキャンペーンに携わり、マダガスカル、トーゴ、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを取材、系列局などで講演会も行う。