「子供が象に殺された」キャンプにたどり着いても安心できないロヒンギャ【山中章子アナウンサー】

山中章子
カテゴリ:ワールド

  • 国境を越えたロヒンギャは、キャンプまでの数日間を野宿で待つ
  • 命がけでたどり着いたキャンプでは象の被害が相次いだ
  • ジフテリアなどの感染症拡大の恐れ

国境を流れる川を渡るロヒンギャたち

今回の取材では、公式のキャンプの一つ、クトゥパロンという一番大きなキャンプだけでなく、バルカリ、ウキヤ、ウンチプラング、レダなどのキャンプも訪れた。

また、ミャンマーとの国境近くではバングラデシュ軍の警備がより厳重になっていたが、テクナフという、ミャンマーとの国境を流れるナフ川沿いの地域や、ミャンマーから陸路でロヒンギャたちが逃げて来た道があるガンダムという場所も、運良く取材できた。

(これまでの取材報告はこちらから
【第一弾】ロヒンギャ難民を受け入れるバングラデシュ国民の“懐の深さ”と現実
【第二弾】難民キャンプではスマホで薪を管理!? 砂嵐の中に生きる70万人のロヒンギャの実態

ナフ川

ロヒンギャたちは、ミャンマーからバングラデシュに逃げて来てから、キャンプに連れて行かれるまでの数日間、ナフ川を上がった土手や、国境を繋ぐ道路上で野宿して過ごしたという。
その道路上にはボロボロになって脱ぎ捨てた服が今も散乱していた。

地元のバングラデシュ人や軍に支援物資などを与えられ、なんとか命を繋いだそうだ。

たどり着いたキャンプでは象の被害

だが、命がけで逃げて来たキャンプにも危険が潜んでいた。
それは“象”だ。

ロヒンギャたちが避難しているキャンプは、もともと森林保護区でアジアゾウの住処だった場所。
そのため、象がキャンプに迷い込んでしまうこともあるというのだ。
キャンプに向かう道すがらも、象に注意という看板が目についた。
それも歩行者標識の隣に、だ。

もちろんその周りには支援施設があり、こんなところにも象が来るのかと驚いた。

クトゥパロンの中にある、モドゥチュラという象の被害にあった地区に行ってみた。
だがここに行くまでが大変だった。

今年2月に、子供が象の被害にあった場所に行きたいと言っていたのだが、正確な場所がわからない。
ドライバーがキャンプにいるロヒンギャたちに聞きながら探すが、あっちと言われたり、こっちと言われたりと、なかなかたどり着くことができなかった。

ようやくその現場に着いても、他の地域と特に変わりはないように見える。
もともと簡易的な住居なため、象が暴れて踏み潰しても、またすぐ元どおり建て直せてしまったようだ。

ある男性は「11歳の息子が、2月に象が襲来した際、象の鼻に巻かれて、投げ飛ばされ、地面に叩きつけられ、亡くなってしまった」と話してくれた。
あまりのことに、なんと言っていいのか、私は言葉に詰まってしまった。

その時の惨状を話してくれた父親は、苦痛に顔を歪め、大粒の涙をこぼしている。

周りにいる人たちも口々に、象の恐ろしさを話す。
今もしここに突然象が来たら、どうやって逃げればいいのか、思わずこちらも想像してしまった。

次に話をしてくれたのは、40代の女性だった。
彼女の夫は深夜、象に襲われた際に踏まれてしまい、血だらけになって亡くなったという。

物音がして女性は起きたというが、真っ暗な中いきなり象が暴れているのだ。
どうにもできなかっただろう。
その時に夫が着ていた服も見せてくれたが、血の痕が付いていた。

そして、象に踏まれてぺしゃんこに潰れた金属製の入れ物もいくつか見せてもらったが、私が手で叩いてもビクともしないくらい硬いものだった。
それがいとも簡単に潰れてしまうとは…。

家の壁なども倒されたり、破られたりしてしまったとのことだが、今ではまた同じ場所に家が建てられている。
引っ越したくても、軍にあてがわれた場所から移動することはできないので、ここで生活するしかないと彼女は悲しそうに語っていた。

安全を求めて、ミャンマーから逃れて来たのに、このキャンプでもまた危険にさらされてしまっているのだ。

防犯のための見張り台

付近を歩くと、高さ3〜4メートルの見張り台のようなものが立っていた。
象を見張るためのものかと聞いたら、泥棒などを監視するためだという。

鍵などもなく、プライバシーも何もない環境での治安の維持は難しい。
電灯なども満足にない中、夜、男性たちが交代で見張りをするとのことだった。

その見張り台に私も登ってみることにした。
梯子などはないので、柵に足をかけて、よじ登る。
周りのロヒンギャたちが、驚きの表情でこちらを見ていた。

上まで来ると、かなり遠くまで見渡せる。
家も人も小さく見えるが、目がいいのか、すぐに見張り台の異変に気付いて、かなり遠くの方にいる人まで外に出て来てこちらの様子を伺っている。

その家々の奥には、まだ緑が生い茂っていた。
そこに象が生息しているのだろう。
象だって、突然木々を切り倒され、住むところを失ったのだ。
共存、と簡単には言えるが、ここではそんなに容易いことではない。
どうすればいいのだろうか…。

見張り台からは霞がかってはいたが、ミャンマーの山々がうっすら見えた。

予防接種で防げるはずの感染症

キャンプでの危険は象だけではない。

年配の男性が拡声器を手に、何か呼びかけていた。
聞いてみると、子どもたちへの予防接種の案内をしているとのこと。
現在キャンプでは、ジフテリアが流行っていて、すでに30人以上の子どもが亡くなったというのだ。

発熱やのどの痛みなどの症状が出るジフテリアは通常、致死率は5~10%ほどで、本来であれば予防接種で防げる。
ただ、ミャンマーでは予防接種を受ける機会がなかった子どもも多く、さらにキャンプも不衛生で劣悪な環境下のため、ジフテリアだけでなく、様々な感染症が広まる恐れがある。

また、すでに現地は雨季のシーズンに入ってしまったが、雨が降れば汚水なども流れだし、より一層感染症が拡大する危険性があるという。
そのため、ユニセフや国境なき医師団など様々な団体で、予防接種を受けるよう呼びかけている。

黄色の旗が予防接種のマークだ。建物の外で名前や年齢などを記入し、中で医療スタッフが子どもたちに注射をする。
7歳までが破傷風やジフテリアなどの5種混合ワクチン、7歳以上は3種混合ワクチンを打つという。

泣き叫びながらもがく赤ちゃんもいれば、おとなしくじっと前を見据えて痛みに耐えている子どももいる。
この施設には、多い時で一日に500人くらい、予防接種を受けに来る人があるそうだ。

ちなみにイスラム教の年頃の女の子たちは人前で肌を見せることはしない。
そのため、男性がいるようなところでは打てないという子もいて、その場合は何人かそういう女の子を集めて、女性スタッフしかいない空間で予防接種するそうだ。

しかし、それでも予防接種を受けるのをためらっている女の子に出会った。

続きは第4弾で。

(取材報告はこちらから
【第一弾】ロヒンギャ難民を受け入れるバングラデシュ国民の“懐の深さ”と現実
【第二弾】難民キャンプではスマホで薪を管理!? 砂嵐の中に生きる70万人のロヒンギャの実態
【第三弾】「子供が象に殺された」キャンプにたどり着いても安心できないロヒンギャ
【第四弾】ミャンマー軍に両親を殺された! 少女が吐露したロヒンギャの現実 
【第五弾】番号と写真で管理され、子どもを隠したロヒンギャの人々
【第六弾】自らを「埃のような小さな人間」というロヒンギャの心遣いに、私たちは涙した )



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