三重・津市の自宅で4歳の娘を暴行し死亡させたとして6月29日、42歳の母親が逮捕された。児童相談所は保育園から通報を受けていたが、事件の1年以上前から親子に直接会う形での確認をしていなかった。なぜ救えなかったのか、経緯をまとめた。

見過ごされたいくつものシグナル

娘への傷害致死の疑いで6月30日に送検された、津市の工場従業員・中林りゑ子容疑者(42)。

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5月22日頃、津市久居野村町の自宅で、三女のほのかちゃん(4)を高さ30cmほどのテーブルの上から転倒させ、死亡させた疑いが持たれている。

事件が発覚したきっかけは、5月25日夜に中林容疑者が消防へした通報だった。

<中林りゑ子容疑者>
「子供が食べ物を喉に詰まらせた。除去したけど呼吸が弱々しい」

この通報があったのは、ほのかちゃんがテーブルから転倒した3日後。ほのかちゃんは救急搬送されたが、翌日に死亡した。死因は頭に衝撃を受けた際に起きる急性硬膜下血腫だった。

近所の住民A:
子供が救急車に乗っていて、その前に家族がいた。見ていてどうしたんだろうと思って。その次の次の日に警察の方が来て

搬送先の病院は虐待を疑い、警察へ通報。警察の司法解剖の結果、額や後頭部など体の複数の場所に皮下出血が確認された。

しかし、通報で中林容疑者が説明した「食べ物を喉に詰まらせた」ような痕跡はなかった。

近所の住民B:
中林容疑者は普通の感じでしたけどね。怖いとかのイメージはないですし。家族はみんな仲良さそうに見えましたので

シングルマザーで、娘3人と仲良く暮らす姿が目撃されていた中林容疑者だが、異なる一面もあったようで…。

近所の住民C:
女の子だけ何度か車の中で放置されていた。2〜3年前から小さい子供の泣き声が一日中聞こえたりしたから、おかしいなとは思ったんやけども。児相に相談した方がいいかな、でも他人の家のことやしって…

近所の人も異変に気づいていた家庭。県の児童相談所も、ほのかちゃんが幼い頃から介入していた。

児童相談センターの所長:
シングルマザーですので、仕事をしないと生活していけない、赤ちゃんがいると仕事に行けない、赤ちゃんを見てくれる人もいないという状況がありまして、そういった理由で関わりが始まった

「虐待のシグナル」は2度もあった…

2019年2月、中林ほのかちゃんは3姉妹の三女として生まれた。間もなく中林容疑者が「シングルマザーなので、赤ちゃんがいると仕事ができない」と児童相談所に話したことから一時保護され、6月からは「乳児院」に入所した。

転機は、ほのかちゃんが2歳になった2021年3月に訪れた。中林容疑者が「自分で育てたい」と話し、児童相談所は保育園への入園を条件に「家庭への復帰」を認めた。的確な対応がなされていたとみられるが、幼い命を救う機会は、このあと何度も見過ごされることになる。

ほのかちゃんが自宅に戻った11カ月後の2022年2月、虐待を疑う「1度目のシグナル」があった。

<保育園からの虐待通告>
「両頬と両耳にあざがある」

あざがあることに気づいた保育園が児童相談所へ通報。児童相談所の聞き取りに対し林容疑者は、こう答えたという。

児童相談センター児童相談強化支援室の室長:
母親は「ベッドから落ちておもちゃ箱に顔を突っ込んだ」というような説明をされておりました。家庭の中で子供がケガをすることがないように、しっかりと注意を払ってくださいという話をさせていただいて「わかりました」と

結局、あざの原因は特定できなかった。

中林容疑者が児童相談所の指導に応じる姿勢を見せたため「一時保護せず、3カ月に1回、保育園に対し見守りをすること」になり、ほのかちゃんの保護には至らなかった。結果的に、この時が児童相談所とほのかちゃんとの最後の面会となった。

児童相談所は定期的に保育園などから様子を聞き取っていたが、保育園から通報があった2022年2月以降、1年以上にわたって、ほのかちゃんに直接会って確認することはなかった。

「2度目のシグナル」は、2022年の夏だ。7月8日を最後にほのかちゃんが保育園に通園しなくなり、8月には津市が3歳児健診を案内しましたが受診しなかった。登園を促す保育園に対し、中林容疑者は…。

<中林りゑ子容疑者>
「保育園が児童相談所に虐待の通告をしたから、園に行かせづらい」

児童相談所に、直接会って確認をしなかった理由を聞いた。

児童相談センターの所長:
自分が虐待を疑われていることがお母さんにとってかなりショックなことだったので、母親が望まない形で強い介入をすることはちょっと避けていたということはあります。じかに児相の職員が見ることはしてないんですけれども、周辺で異常がなかったのでよしとしていた

児童相談所には、虐待が疑われる家庭への「立ち入り調査」や、虐待する親から子どもを強制的に引き離す「保護」などの権限がある。その機会を逃したのかどうか、三重県は今後、第三者委員会で調べるとしている。

(東海テレビ)

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