2022年7月、安倍晋三元首相が奈良で射殺された銃撃事件を機に宗教法人に対する注目が集まっている。旧統一教会が政治と密接に関わっていたことが明らかになり、文化庁がその実態を調査する事態に。一体いま、宗教法人を巡って何が起きているのか?“売買される宗教法人”を取材した。

宗教法人の実態 活動を把握しきれない現状

この記事の画像(17枚)

宗教活動に限れば、宗教法人は税制で優遇されていたり、年収が8000万円以下であれば収支報告の義務がなかったり…活動実態がなかなか分からないことが問題となっている。

宗教法人ブローカー:
うちはネットで宗教法人を売りたい人を募って、買いたい人を募っていますね

売買された先にあるのは、住宅街に面した道に墓が並ぶ異様な光景。ある日、突然、母の墓を移動させられた檀家の怒り…

そんな中、神社や寺が売買されるマーケットがあると聞いた。

高値で“売り”に出される宗教法人の実態

大阪市浪速区の雑居ビル。ここで4年ほど前から宗教法人の売買を仲介しているという山本隆雄氏。

元々、霊能などに携わっていた山本氏は、宗教法人を売りたい人や買いたい人たちがいることを知り、ホームページを通して仲介業(ブローカー)を始めたと言う。

宗教法人ブローカー 山本隆雄氏:
これは別に捕まらない、法律がないんでね。隙間を見つけたって感じですね。宅建もいらないし、資格もいらないし。インターネットって武器があったから、それで「売ります・買います」とHPに載せたら、それを見て(問い合わせが)いっぱい来た

山本氏が運営するウェブサイトには、数千万から億単位で、寺や神社の土地や宗教法人そのものが取引されている。

宗教法人ブローカー 山本隆雄氏:
(Q:実際に売りに出されるのはどのような宗教なのでしょうか?)
うちで扱っているのはほとんど何もやってない宗教ですね。要するに檀家もいないのが多いですね。もうつぶれかかっているっていうか、“何もないから売る”みたいな感じで

多くは、後継者不足や信者の減少で維持が難しくなった休眠状態の宗教法人だ。

売買の対象はどこの宗派にも属さない「単立」法人

その中でも特に、売買の対象になりやすいのは…

宗教法人ブローカー 山本隆雄氏:
(Q:取り扱っているのは基本的に単立?)

単立です。それしか売買の対象にならないです。あんまり多くないんですよ、単立っていうのは。単立にならないと売りに出せないので。買い手がつきません

どの宗派にも属さない宗教法人を“単立”と呼ぶ。“単立”は代表役員の交代や資産を処分するときに宗派の承認を必要としないため山本氏によると比較的、容易に売買ができると言う。

新たに宗教法人を取得するには10年以上かかると言われているためか、何千万という販売価格は売り手側の神社や寺の言い値だと、山本氏は言う。

宗教法人を買うメリットとは?

どんな人が宗教法人を買いにくるのか?そしてどんなメリットがあるのか?

宗教法人ブローカー 山本隆雄氏:
電話で今日は一件、「中国人でも行けるか?」ってね。中国人でも外国籍でも宗教法人の代表になれるんですよ。印鑑証明が取れればいける

宗教法人法では、宗教活動で得た収入は非課税、境内の土地には固定資産税もかからない。

さらに法人が取得した場合は相続税もかからないため、それらの“優遇措置”を目当てに、山本氏のもとには日本の資産家も訪れます。

宗教法人ブローカー山本隆雄さん:
会社をやっている人がほしがりますね、脱税とか節税とか。宗教法人は8000万円まで申告しなくていいんです。だからブラックボックスやから税務署も何も分からないんですね。相続関係で探している人もよく聞きますね。うちに来ますけど、相談に。相続で要するに宗教法人買って、そこに自分の財産を投げ込むんですわ

山本氏は、宗教法人の売買に「違法性はない」と言い切る。

宗教法人の売買は、ことし2月、国会でも議論になった。

立憲民主党・渡辺創議員:
今、文科省も脱法的な行為というふうにおそらく考えているはずですが、法人格の売買が横行してしまっている。脱税やマネーロンダリングなどが誘発されている、もしくは、そのことをメリットと考えて法人格を手に入れようとするような不届き者も出てくるというのが現状なわけです

岸田文雄首相:
第三者によって法人格が不正に取得され、脱税や営利行為等に悪用される、こうした可能性が広がるというようなことは、まずあってはならない

政府も、脱税や営利目的での宗教法人の売買を問題視する一方で、「信教の自由の観点から、実態の把握は困難」と手をこまねいている。

宗教法人を売買するブローカーのウェブサイトにはいくつか「売却済み」と記載された寺がある。

境内の墓が道に…売却された由緒ある寺 

大阪市住吉区にある薬師寺は、弘法大師(空海)に由来する名刹で、およそ400年前の江戸時代初期に建立された、摂津国八十八カ所の一つにも数えられる由緒正しいお寺だ。

実際に現地に行ってみると、元あった本堂は跡形もなく、境内にあった墓石は参道に移されたということだ。

お寺はなぜ変わり果てた姿になったのか?寺の近所に住み、60年前に母親の墓を薬師寺に建てたという檀家の男性に話を聞くことができた。

母親の墓を建てた檀家の男性(89):
(Q:お寺をつぶすことは聞いていたんですか?)
知らん。墓を移動することも(寺を)売ることも全部知らんかった。何も言ってけえへんかった。ある日見に行ったら解体して更地になっていた。怒ったろうと、どういうこと言ってくるかと思って待っている

200軒ほどいた檀家に知らされず寺の土地が売却され、さらには墓石を勝手に移されてしまったというのだ。

寺を買い取った不動産会社が語る“てんまつ”「金銭的な整理をした」

真言宗系を名乗るものの実際は“単立”の宗教法人となっていたため、代表役員の交代や資産の処分は当時の住職が独自にできた薬師寺。

この寺を購入し、解体工事を行ったという不動産会社が取材に答えた。

薬師寺を買った不動産会社:
(薬師寺が)債務超過になっていて「もう立ち行かない」という中で、お寺のオーナーさんというか住職の方々に一部の檀家さんも含めてご相談を受けて、色んな問題が起きないように金銭的な整理をしたということです。(寺の債務は)7、8000万円ぐらいじゃないですかね

関係者への取材や登記簿によると、借金を抱えていた薬師寺の住職一家が、2020年10月、およそ400坪の敷地や宗教法人格を1億5000万円ほどで、不動産会社に売却。

不動産会社は本堂をはじめとする建物をすべて取り壊して更地にし、30基ほどあったお墓を参道に移した。

今は、跡地の一部に小さな礼拝施設が再建されたのみで、墓は参道に残されたままだ。

母親の墓を建てた檀家の男性(89):
よそにあった墓をここに持ってきよったわけや、勝手に黙って。
(Q:骨壺は?)
入れていたけど、どっかへほってもうてあれへんわ。(骨つぼは)あったはずや。
 (Q:誰の骨つぼですか?)
わしのおかんや

住職の債務整理を理由に売られ、檀家を悩ます事態となった薬師寺。取材を申し込んだが、「答えられない」とのことだった。

僧侶でジャーナリストの鵜飼さんは、ビジネス目的の宗教法人の売買は、宗教倫理に反することだと指摘する。

僧侶・ジャーナリスト 鵜飼秀徳さん:
今、その宗教家が不勉強で、社会のことを知らないで目先のマネーに飛びついてしまう。多くの僧侶は、当然非常に真っ当な人たち、大多数はそうなんですよ。ところが、一部でそういう人たちが勝手な行動をすることによって、この宗教界全体の信用が失われていることが、これはもう非常に由々しきことですよね

法の目をかいくぐり売買される宗教法人。その現場では「無法地帯」と化した実態があった。

(関西テレビ「newsランナー」2023年6月22日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。