ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、2022年の韓国の防衛装備品輸出額が前年比約2.5倍に急増。一方、輸出が進まず需要が拡大しない日本では、防衛産業から撤退する企業が相次ぐ。BSフジLIVE「プライムニュース」では元防衛相と識者を迎え、日本の防衛産業の現状を検証した。

韓国の防衛装備品が他国に“爆買い”される理由

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新美有加キャスター:
ロシアのウクライナ侵攻後、韓国が大幅に防衛装備品の輸出を伸ばした。2022年の輸出額は約2.4兆円で、2021年から約2.5倍に急増。この理由は。

伊藤弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員:
ウクライナ戦争の影響があり、前年の勢いも基盤となった。特にポーランドは韓国側が驚くほど桁違いの爆買いをした。

反町理キャスター:
日本の防衛産業からはどう見えるか。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
正直羨ましく思う。防衛装備は一度売って終わりではなく、整備や部品の供給、弾薬も含め長い付き合いになる。完全に水を空けられている現状を深刻に考え、議論している。

反町理キャスター:
ポーランドは韓国から総額で1兆円ほど買った。K-2戦車、K-9自走榴弾砲、FA-50軽戦闘機など。なぜ多く売れるのか。

伊藤弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員:
大型の機銃や長距離打撃の多連装ミサイルなどにも広がっている。信頼関係を構築しセールスを続けることを狙っている。最近目立って能力が向上しているのは、各国の要求に応じたカスタマイズができる点。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
恐らく、ドイツなど本来買いたい相手国の防衛装備は現在、かなりウクライナに投入されている。新たに作るには相当時間がかかるかもしれない。韓国製にはそれなりの能力があり比較的安価で、すぐに一定の台数を揃えるという約束をする。

反町理キャスター:
例えば、日本の最新鋭の10式戦車と比べてどうか。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
日本の戦車もかなり優秀で、本来性能は日本のほうが高いと思う。だがある程度の拡張性、相手国が使いやすくするための余地を残す必要があるかもしれない。

防衛装備を輸出できず、研究にも非寛容で無理解な日本

新美有加キャスター:
日本の輸出ルールについて。1967年に政府が武器輸出三原則を表明。1976年の政府の統一見解以来、輸出は事実上禁止に。2014年、安倍内閣がこれに代わる防衛装備移転三原則を決定。平和貢献、国際協力の積極的な推進、日本の安全保障に資する場合は移転を認めるように。日本も韓国のような輸出は可能か。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
今はできない。実は朝鮮戦争のとき、武器弾薬はかなりの部分、日本から出していた。だが高度経済成長の結果、防衛装備の輸出の必要もなくなり、野党の追及に応じて時の総理大臣がどんどん厳しくして、いつの間にか武器を出せない原則ができてしまった。世界中で防衛装備が流通する現代にこれではいけないと、安倍政権で防衛装備移転三原則を作った。だが、まだ日本の防衛装備は海外で活用されていない。検証作業は進みつつあるが。

反町理キャスター:
法律でも憲法でもなく、あくまで原則。戦車や戦闘機の輸出ができない法的な根拠はあるのか。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
法的な根拠はない。だが、日本が出せると原則で定められるものは限られる。防弾チョッキを提供するときにも、わざわざ閣議決定してクリアした。

反町理キャスター:
韓国と同様の輸出は、現行の体制ではできないと。小野寺さんが立ち上げた議連「次世代の防衛産業の構築と海外装備移転を抜本的に促進する会」は、まずその自主規制のルールを検証するのか。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
そう。防衛装備の関係がある国とは非常に密接な関係になる。つまり大きな外交のツール。日本は技術立国としての装備がありながら、ここをずっと疎かにしてきた。結果、防衛産業は自衛隊が使う限られた数の装備しか作れない。儲からず、技術開発費や研究費も出せない。どんどん国際社会から取り残されてしまう心配がある。

伊藤弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員:
全く同感。劣化は否めない。投資額も韓国は日本の4倍以上で、AI、ドローン、ビッグデータなどを活用した兵器の開発に集中している。軍民官学が連携し、地方自治体が提供した場所で研究している。日本は大学での軍事研究がいまだ難しい。大学院進学者も減り、知的基盤が縮小している。

反町理キャスター:
民と軍の技術のデュアルユースに対して日本があまりに非寛容?

伊藤弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員:
非寛容で理解がない。知的なものに対する投資や名誉の与え方が足りない。技術者にももう少しペイしないと、どんどん技術が流出していく。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
防衛大臣のとき、日本の優秀な研究者にも安全保障の基礎研究に入っていただこうと公募した。有名大学の先生方の応募があったが、応募がわかるとその大学の教授会でつるし上げにあい、手を下ろさざるを得なくなる。その一方で、その大学が米軍の軍事研究を請けていたり、中国人民解放軍の経験者を研究者として受け入れていたりする。これが日本の学術界の現実。

反町理キャスター:
三原則とはまた別次元の、防衛産業に対する見えないバリア。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
もう一つある。日本の企業は、素晴らしい装備兵器を作っていると胸を張って言えない。ノイジーマイノリティが攻撃してくるから。儲からず、撤退が増え、技術の劣化に繋がる。この悪循環を断ち切りたい。国を守るため最新鋭の技術でモノを作ることは、私は正しいことだと思う。

世界に防衛装備品輸出のマーケットを広げる韓国の国家戦略

新美有加キャスター:
韓国は、国家戦略として防衛装備品の輸出拡大を進めてきたと見える。その理由は。

伊藤弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員:
80年代後半に、自前で戦車や飛行機を作れるようになった。だが納入後に需要がなくなり、工場の稼働率が一気に落ちた。輸出もできない状況が90年代まで続きかなりダメージを負ったが、2006年に防衛事業庁ができ関係部署を統括して、海外に出る姿勢を示した。特に李明博大統領が展開したトップセールス外交が今実っている。

反町理キャスター:
どこに何を輸出して市場を広げていったか。

伊藤弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員:
変化が生じたのは2009年あたりから。経済成長に伴ってインドネシアやタイなどアジアの新興国の国防費が上がっており、それをマーケティングで把握して、艦艇や潜水艦、戦闘機などを輸出してきた。フィリピンやトルコにも。

反町理キャスター:
尹大統領は、2027年までにアメリカ・ロシア・フランスに続く世界4大防衛産業輸出国入りを果たすと発言。

伊藤弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員:
欧州、アジアなどかなり市場が見えてきた。彼らが今焦点を当てるのはアメリカ市場への本格参入。すでに弾薬を輸出しているが、装甲車などをアメリカの企業と協力して作るコンセプトもあり、無人走行車にも米軍がかなり関心を持つと聞く。

未来に備え、法的基盤や軍民官学・地方自治体の連携基盤の整備を

新美有加キャスター:
日本の防衛産業の現状。この20年で100社超が防衛分野の事業から撤退する中、6月7日に防衛産業強化法が成立。自衛隊の任務に不可欠な装備品の製造企業が撤退する場合、生産ラインを国有化して管理を別の企業に委託できるように。またサプライチェーンやサイバーセキュリティに取り組む企業の費用を国が負担するほか、装備品の海外移転を官民一体で進めるため企業活動を支援する基金を創立。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
戦車を作る際は1000の会社が関わると言われる。1社、2社が欠ければ作れない。会社が撤退したとき、別の会社が見つかるまで国が一時的に維持する考え。また装備を海外移転する際にグレードダウンしたものを出すとき、費用を基金から出して移転しやすくするなどの意味がある。

伊藤弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員:
立法が早かった。防衛省の担当者に敬意を表したい。だがこれはあくまで対処療法であり、10〜20年先を考えた内容を力強く実行してほしい。我が国の強みは素材・部品。海外からも共同開発の話がある。先端分野の未来戦に備えた兵器を開発する法的基盤や軍民官学・地方自治体の連携基盤を今から作っていく必要があるのでは。

反町理キャスター:
10~20年後の防衛産業をより活性化するためのイメージはあるか。例えば、日英伊の3カ国が次期戦闘機を共同開発するが。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
韓国のように売りやすいもので価格競争をするのではなく、素材や技術がある日本は別の土俵で十分やっていけるという考え。次期戦闘機にも相当野心的に高い能力を持たせる。だが、第三国に装備移転する際のルールを決めておかなければ。輸出できなければ大損してしまう。

反町理キャスター:
そもそも日本という国のあり方について。憲法9条、軍隊を持たない、戦力不保持といった話がある中で、現実的に防衛産業を進めるときに様々な意見が出てくる懸念は。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
当然あるからこそ、丁寧に説明している。インターネットやGPSなど、安全保障の研究から出る技術が民間に転用され国が強くなる例は多くある。戦うためでなく国を守るための研究。そこから出てくる最新鋭の技術が次の日本の技術立国の種になる。丁寧に説明し、正面から進めたい。

(BSフジLIVE「プライムニュース」6月13日放送)