外出自粛が解除されて、リモートワークからオフィスに戻るビジネスパーソンが増えている。日本生産性本部の調査によると、「リモートワークに満足している」と答えた人は約6割だった一方、「効率が下がった」と答えた人も7割に上った。

果たしてリモートワークは今後日本に定着するのか?

2009年の創業以来社員全員がリモートワークを行っている、「子育てシェア」株式会社AsMama(以下アズママ)の創設者、甲田恵子代表取締役CEOに聞いた。前回は、リモートワークの落とし穴と大事なことについてインタビューさせていただいたが、今回は、今後の課題を伺った。

リモートワークで「仕事の効率が下がった」が7割

この調査は、公益財団法人日本生産性本部が5月22日に発表した「新型コロナウイルスの感染拡大が働く人の意識に及ぼす調査」だ。調査は20歳以上の就業者(自営業者、家族従業者等を除く)1,100人を対象に、5月11日から13日の間に行われた。

ちょうど外出自粛の真最中で、リモートワークが励行されていた頃だ。まずこの図を見ると、ほぼ7割の人がオフィスにほとんど出勤していなかったのがわかる。

この記事の画像(11枚)

一方で5日以上出勤していた人も1割程度いるが、これは次の図の通り社会インフラ系の仕事の人たち、いわゆるエッセンシャルワーカーにリモートワークの実施率が低いことから分かる。

注目したいのは、次のグラフ。自宅での勤務で「仕事の効率が上がった」と応える人はわずか3割。7割の人は仕事の効率がオフィスより下がったと回答している。

リモートワークは「フラット」を意識する

さらに次のグラフを見てほしい。
自宅での勤務に満足しているかとの質問に「満足している」「どちらかと言えば満足している」が約6割で、残り4割は満足していないとの結果だ。満足していない人は当然オフィスに戻るのを心待ちにしていただろう。

ーーまずこの結果について、リモートワーク歴11年の甲田さんはどう感じますか?

甲田さん:
満足しているかどうか、2つに分かれるのはよくわかります。もともと自立して会社にいようといまいと自分で仕事を見つけていた人は、『オフィスに行かなくても仕事は出来るな』と分かったと思います。一方で、在宅だと部下の顔が見えない、上司の機嫌が分からない、自分のところに意外と仕事が来ない、何をしていいかわからないとわかって不安になる人もいます。

子どもや家族も家にいて集中できないという人もいるでしょう。そういう人は会社に行けば誰かいるし、何かあるので「通勤=稼働」している気分になりやすかったり、マイペースというよりセルフコントロールがしやすい環境で働けるので会社に行きたくなります。たぶん、『求められている感、働いている感』が欲しいのでしょうね。

株式会社AsMamaの創設者、甲田恵子代表取締役CEO
株式会社AsMamaの創設者、甲田恵子代表取締役CEO

――特に管理職から「リモート中、仕事が無くなった」という声をよく聞きます。

甲田さん:
そういう人はふだん、部下から報告を受けて、承認して、印鑑を押すのが仕事なんですね(笑)。ただ、リモートワークになる時点で、『フラット』を意識した方がいいなと思います。もちろん部下からの相談や承認業務もあるけれど、リモートワークにおいては、自分自身がプレイヤーとしてどういう価値を出せるのか、新入社員と張り合うぐらいの気持ちで何が出来るのかと考える時ですね。

管理職は「時間泥棒」しないで部下の育成を

――外出自粛中、「自分だけは出社する」という管理職がいたと言う話もよく聞きますね。

甲田さん:
部下には感染防止のために出社させられないから管理職が代わりに、というケースもあるでしょう。しかし、会社に行くと仕事した気になる人は一定数いらっしゃるのですよ。そういう人はだいたい40代から50代以上の人ですよね。あと10年程で定年や嘱託になるのですが、そのときは自分で経済的価値や社会的価値を生むことを、あらためて考えなければいけなくなります。

だから今までの延長線で会社に行って、いろんな人と話しているうちに仕事をした気になって給料をもらえるという感覚のままでいるよりは、自宅で何もすることが無いというなら、その状態の自分と向き合うほうがいいんじゃないかなと思います。

勿論職種にもよりますが、在宅でパフォーマンスを出せない人は、会社にいても出せていないことが多いことに気づくべきだと思いますね。

――会社に行きたい人は、自分がいないのに仕事が回るのが怖いからとよく言われますね。

甲田さん:
自分がいなくても会社がどんどん成長し、しかも自分のパフォーマンスは全く出せていないとなると確かに怖いでしょう。だからと言って、会社に行って『それを早く片付けたら』とか生産性が無いことを言いたくなったり、放っておいてもパフォーマンスが上がっているものをわざわざ報告させたくなったりというのは、考えものです。うちの会社では、そういうのを『時間泥棒』と呼んでいます。

――時間泥棒ですか、苦笑。

甲田さん:
給料以上のペイバックを会社に対してするのであれば、管理職であれば部下を管理することが仕事なのではなくて育成してやるとか、若い世代のイノベーティブなアイデアを実現するために、自分の社内のパイプやリソースを活用させるとか、部署全体のバリューアップを図るために、会社にいなくてもやりようはありますよね。

もちろん会社に行くことによるセレンディピティ(予想外の出会いや発見)がないとは言いませんが、仮に片道1時間の通勤だとしたら往復2時間、1週間で10時間と丸1日の稼働分になることを考えると、今こそ自分のライフパフォーマンスを考える絶好の機会です。

リモートワークは自分のライフパフォーマンスを考える絶好の機会
リモートワークは自分のライフパフォーマンスを考える絶好の機会

Zoomは「見られている」意識と質問力が大事

そしてこちらは、リモートワークの課題として回答者が挙げたものですが、ハード面は比較的解決策は探しやすいですね。また、仕事のオンオフやオーバーワークについては、やはり出たかという感じで、これは以前甲田さんに解決方法を聞いたことがありました。

ここで気になるのは、「上司や同僚との意思疎通」です。よく「Zoomで社内会議をやると、コミュニケーションが取りづらい」という悩みを聞きますね。

甲田さん:
リアルに勝るコミュニケーションは無いですが、オンラインにはコツがあります。

まず、画面しか情報量が無い中でやりとりをするので、自分が見られていると意識することがすごく大事です。たとえば画面では手元が見えないので、メモを取っていたりすると、相手は『この人、聞いているのかな』と思います。だから必ず『メモを取らせて頂きますね』といってからメモを取らないといけないです。大企業の管理職以上の人ほど、こうしたことに慣れていませんね。

――なるほど。PCに向かって、自分がどう見られているかを意識しながらコミュニケーションを取るというのは、相当高いスキルですね・・

甲田さん:
Zoomの画面を見ると、社長だけが大きくて社員がぶら下がっているわけじゃ無くて、社長も管理職も同じ一枠じゃないですか。うちの社員には『リモートワークの世界になったら、喋らない人間は社長だろうが平社員だろうがいないのも同然なので、質問力を大事にしようね』といっています。『管理職であっても、平社員が報告することに対して、感想でも質問でもしないと、自分の価値を出せないんだよね』と。

「Zoomは社長も社員も同じ一枠。質問力が大事」と甲田さん
「Zoomは社長も社員も同じ一枠。質問力が大事」と甲田さん

上司は人事管理の呪縛から解放されよう

――管理職からは「リモートだと社員の普段の仕事ぶりが見えないから、人事管理をどうしたらいいのかわからない」という悩みもありますね。

甲田さん:
誰かを監視するとか管理されるという呪縛から、自分を解放する時代が来たと思ったほうがいいですね。先日、リモートワーク用のソフトで、パソコンをやっているかどうか監視するものを見ましたけれど、旧来型の上司はすごく入れたがるんですよ。リモートワークで監視しようとしても物理的に無理ですし、社員も心が離れていきます。リモートワークの根底には性善説しかありません。さぼっていると疑われていると考え始めると、社員はパフォーマンスが必ず落ちます。

――とはいえ、アフターコロナでもリモートワークを行いたい人は6割を超えていますね。

甲田さん:
コロナのビフォーとアフターでは、違う会社、違う国に来たくらいに考えていいんじゃ無いかなと思いますね。今回、在宅でちゃんと働けると実感した若い世代や子育て世代が一定層出てきたので、戻りたいと思っている人がいても戻りませんね。優秀な人ほどどんどんリモートにいくので、会社も受け入れざるを得ないだろうなと思います。

リモートワークは楽園ではないし万能ではありません。他の人とのコミュニケーションが無いことを不安に思うこともあるし、そんな時はもちろん会って話しますよね。ですが元の世界に戻るといっても、たとえば満員電車のストレスは、戦場で戦っている兵士よりも大きいという研究結果もあります。あのストレスに耐えられる次世代の人間は、そんなにいないはずですよね。

――確かにもう満員電車には戻りたくないですね。ありがとうございました。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。