緊急事態宣言による外出自粛で、オフィスからリモートワークに切り替えるビジネスパーソンが増えている。

しかし、最初こそ「通勤ラッシュも職場の嫌な人間関係も無い、ストレスフリーな仕事環境」と楽しんでいても、次第に孤独感を感じたり、気が滅入ったり、新たなストレスを感じる人が、実は多いのではないだろうか?

「子育てシェア」を展開する株式会社AsMama(以下、アズママ)では、2009年の創業以来、社員全員がリモートワークを行っている。

創設者である甲田恵子代表取締役CEOに、リモートワークの「大事なこと」を伺うインタビュー。後半テーマは、リモートワークを快適に行うためのテクニックだ。

真面目な人ほど“燃え尽き症候群”になる

株式会社AsMama 代表取締役CEO 甲田恵子さん
株式会社AsMama 代表取締役CEO 甲田恵子さん
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――後半ではまず、リモートワークを行う際、甲田さんが考える「大事な要素」とは何かを伺います。

甲田恵子さん:

リモートワークというのは言い換えれば、24時間いつでもどこでも仕事をしようと思ったらできるわけです。だから家族との旅行中でも、夜中に目が覚めた時でも、四十六時中仕事と向き合っていることができてしまいます。

また、会議などでも移動がないので、気が付いたら「朝9時から夜6時まで休憩もなく、パソコンにひたすら張りついていた」なんていうことにもなりかねないですよね。

――しかし、そんなことはいつまでも続けられるわけじゃないですよね。

甲田恵子さん:

そんなに何日も、何時間も、ぶっ通しで仕事ができる人やそれでパフォーマンスを出せる人などいないですよ。真面目な人ほど、パフォーマンスを出すことを時間でカバーしようとしますが、そうすると遅かれ早かれバーンアウト=燃え尽きます。

連日連夜、仕事をしている(気がする)のに、家族からは「仕事ばかりだ」と批判されたり、自分の時間が取れていないことにふと気付いて焦燥感を感じたり、そこまで働いているのに思い通りにならないことが起きたりすると、心が折れてしまいます。しかも、その状態を周りが察知しにくいわけですから尚更です。

オンオフは「デジタルデトックス」で

――わかります。時間をかければかけるほど、アウトプットできるわけではないですからね。

甲田恵子さん:

リモートワークでは、「限られた時間でどんなアウトプットを出すか」だけを意識して、「遊ぶときは遊ぶ!」「寝る時は寝る!」を基本として、自分の集中できる時間の限界を把握した上で休憩できるようにすることが、最大のパフォーマンスに繋がるということを信じて、意識し続けることが大切です。

――では、どうしたら自宅にいながらオンオフをうまく切り替えることができますか?

甲田恵子さん:

一番わかりやすいのが、デジタルデトックスです。リモートワーカーのほとんどは、デジタルデバイスを使って仕事をしている人が多いですから、パソコンやスマホから物理的に離れる時間を作ることが、一番わかりやすく、即効力がありますね。

燃え尽き症候群になるような人は、ついついパソコンを開いてしまい、開いたら最後、作りかけの資料が気になってしまったり、メールの未読があることが気になって処理したくなってしまう。

今はそれがスマホでもできてしまうので、そうなると家事をしていても移動中でもベッドの中でも、仕事の連絡があるのではないか、見逃している情報があるのではないかと気になってしまい、結果的には効率の悪い、ダラダラと仕事にとりつかれている状態になります。

リモートワークの黄色信号と赤信号

オンオフ作りにはデジタルデトックスがおすすめ
オンオフ作りにはデジタルデトックスがおすすめ

――我々、報道で働く者なんかは多かれ少なかれ、日常的にそういう状態です(苦笑)。

甲田恵子さん:

家族や友だちが話しかけても上の空になってしまったり、話しかけられることにイライラしたりするようになったら、黄色信号です。休憩はおろか、家事や食事、睡眠が何日もおろそかになってしまうようでは赤信号ですね。

現実的には、急用があれば電話がかかってくるだろうし、土日に休んだからといって仕事上のパフォーマンスに影響が出るなんていうことはありません。

――黄色信号・赤信号になったときに、立ち止まるのにはどうしたらいいのでしょうか?

甲田恵子さん:

それでもどうしても気になってしまってしまうという人は、自宅の近くのコワーキングスペースなどを借りて、時間と場所を決めて仕事をするという方がいいでしょう。今は数千円で契約できるところもあります。それでも通勤よりはずっと、時間的にもメンタル的にもいいはずです。

メリハリをつけることで家族の理解が得られたり、自分の趣味の時間を持てるようになったりと、オンオフをつけられるようになったという人もたくさんいます。

快適な環境作りには家族の理解が必要

――なるほど。では、自宅でリモートワークをする上で、快適な環境を作るにはどうすればよいでしょうか?

甲田恵子さん:

家族の理解や、時には子育てや家事サポートの活用、快適なネット環境やデスク周りなど、個人差はありますが、「仕事にストレスのない環境」を作ることが大切です。

特に大切なのは、家族など近くにいる人が不快な思いをしたり、「不快な思いをさせてしまっているのではないか」と過度な心配をしなければいけない状態を避けることです。

自宅で仕事をするなら「どんな仕事をしているのか」「どの時間帯は話しかけないでほしいのか」などをオフタイムにゆっくりと話し、逆に「いつになったら話しかけていいのか」「家族の時間を取れるのか」などを共有しておくことが大切です。

――小さい子どもが自宅にいるケースも多いと思いますが、そういう時はどうすればいいですか?

甲田恵子さん:

これは、言葉が理解できるようになった幼少の子どもに対しても同じです。たとえ駄々をこねて困らせることがあっても、子どもは大人が思っている以上に理解しています。

リモートワークには家族の理解など、仕事にストレスのない環境作りが必要
リモートワークには家族の理解など、仕事にストレスのない環境作りが必要

「大丈夫?」と相手に思わせないのがマナー

――リモートワークは、家族など周囲の理解を得るということがとても大切ですね。

甲田恵子さん:

周囲の理解を得るのは自宅にいる時だけでなく、旅行に行きながらもちょっと仕事をするとか、せっかく食事に出かけたのに急な仕事が入ったという時も同じです。

リモートワークですから、相手に自分の都合が見えない分、いつでもどこでも働けますが、それはいつでもどこでも連絡があるということと同義なのです。

また、いつでもどこでも働けるからといって、社外の人との打ち合わせをカフェなどの筒抜けのところでしたり、子どもに始終話しかけられるような環境でしたり、相手が「大丈夫ですか?」と思わず言いたくなるような場所での実施も避けることなどは、一緒に仕事をする人や、その場にいる人へのマナーだと意識することも大切ですね。

――では、徐々にリモートワークに慣れてきたら、気を付けたいことは何ですか?

甲田恵子さん:

土日もわからなくなるけど、それはそれでよし。会議のない土日にデスクワークをやって、平日に子どもと遊んだり、テレビ見たりするのはアリ。やることやっていれば、ね。基礎編ができない人は、いきなり応用編をやってもできない人が多いので、気を付けてください。

「オンとオフを80%で両立する」とは?

――アズママの社員が実践している「応用編」はどんなものですか?

甲田恵子さん:

当社の社員はほぼ100%そうですが、言われなくとも大体みんな朝8時過ぎには席につき、食事時間になったら離席し、繁忙期には遅くても仕事をしていますが、誰が管理しているわけでもありません。

「たまにはオフィスに集まってミーティングでもしよう」と言っていた日が、雨なら誰も来ませんし、誰からともなく「雨なのでやっぱりリモートにしましょう」と連絡が入ります。旅行に行く時も時差を計算して「この時間ならコアタイムに働けます」と予め周知して、旅行先で仕事をしているケースもありますし、「いま夕飯作りながらなので、動画をオフにして耳で聞いていますね」なんていう社員もいます。

アズママでは誰が管理することなく朝8時過ぎに席に着き、食事時間は離席する
アズママでは誰が管理することなく朝8時過ぎに席に着き、食事時間は離席する

――確かにそこまでいくと応用編ですね。どうしてそのように出来るのでしょうか?

甲田恵子さん:

自分で分単位、秒単位でオンとオフを切り替えることが出来たり、「オンとオフを80%で両立する」、つまり子どもをあやしながらPCワークをしたり、家事をしながら書類を読み込んだり、満面の笑みで友達と会話しながらも仕事に役立つ情報をインプットしたりといった、オンとオフを同時間にこなすやり方ができるようになるからです。

ただしこれも、そうした自分の働き方に対して家族の理解を得られていることと、「完全オン」と「完全オフ」を当たり前に自制できるという人でなければできません。

「完全オン」と「完全オフ」が出来ない人が「ながらワーク」をすると、結局どちらもできないということになります。

働き方改革で大切なのは「いかにストレスなく働くか」

――なるほど。外出自粛が契機となりましたが、まさに「働き方改革」と言いますか、今後働き方が大きく変わりそうですね?

甲田恵子さん:

働き方改革というのは、「いかにストレスなく働くか」ということが大切ですね。しんどいなと思うほどに働きすぎていないか、自分にとっても家族にとっても(仕事以外の)有意義な時間を取れているか。そういう意識を常日頃から、誰かに管理されるわけではなく、自分で管理するようになるというのが、一番大きな働き方改革ではないかと思います。

――これからどんどん、ストレスフリーでパフォーマンスが上がる働き方に変わっていくといいですね。ありがとうございました。

【聞き手:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
【前編】リモートワークの落とし穴と大事なこと「いつでもどこでも働ける!」と喜ぶ人は要注意

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。