“かなだい”の愛称で親しまれるフィギュアスケート・アイスダンスの村元哉中(30)と高橋大輔(37)。
カップル結成から3シーズン、2人は5月に引退を発表した。
2019年の結成1年目から見えた「五輪」への道と、強い思いを抱いて出場した全日本選手権。
そんな彼らがどのようにしてお互いを、そしてアイスダンスと向き合ってきたか、その3シーズンを振り返る。
1シーズン目で目指した「五輪」出場
「(北京五輪)行きたいなって思います。イメージはしています。自信もないし根拠もないけど。
4度目のオリンピック、それを成し遂げたときに“俺、かっこいいじゃん”って思える。漠然と(五輪へ)行けることを信じている」(高橋)

アイスダンスの楽しさについては「まだ分からない。ただやることがたくさんあるということは、日々充実していくんだろうなって思っています」と話し、「時間がない。哉中ちゃんは素晴らしいものを持っているので、僕次第でこのカップルはどう化けるか。僕次第だと思っています。責任感じています」と語っていた。
そして迎えた競技会デビュー戦は2020年のGPシリーズ・NHK杯。
結果は3位と大健闘した。
NHK杯後、村元は「ようやくお客さんの前で初披露できたのでホッとしてる。今大会は悔しい部分もたくさんあったので、全日本に向けても切り替えないと。
私も2年ぶりに氷の上に戻れたので、“アイスダンスって良いな”と改めて思いましたし、本当に大ちゃんにも感謝しています」と振り返った。
高橋も「やっとお客さんの前で披露できたってことで一安心と、練習してきたことを出し切れなかった悔しさで、もっとできるのにというところを見せられなかったのは課題。
それが次の試合や、これからに向けての糧になってくるので、いろんな意味で良いスタートができたんじゃないかなと思います」と話していた。

その後、2人は“かなだい”としては初めてとなった全日本選手権へ出場した。
このとき、高橋は久々の全日本へこう意気込んでいた。
「34歳でまさかの全日本デビュー。デビューじゃないか、15回出ているけど、アイスダンスデビュー!は楽しみたい。なかなか経験する人いないんじゃないかな。
1回引退して、シングルで2年やって、まさかのアイスダンスきて、『こいつなにがしたいねん』みたいな感じの。“天然記念物”みたいな感じで出て行こうかと思ってます」
数々の経験をしたからこその言葉だった。

その全日本は2位に終わった。
村元は「『2022年の北京五輪』という大きな目標があるので、その中で自分たちの強みをもっと見つけて。
練習で良くても試合で出せないと意味がないので、トレーニングを重ねて来年の全日本でもトップを狙ってオリンピックへつなげられたら」と力強く夢の五輪を見据えていた。
「超進化」で目指した夢の五輪
北京五輪シーズンの2021年、結成2年目のかなだいは五輪出場へ向けてのプログラムを考えていた。
このシーズン、2人のテーマは「超進化」だった。
「『オリンピックシーズンなので、和のテイストを入れたら面白いのでは?』という話になり、日本代表だからこそできるプログラムを選びました」と語った村元。

リズムダンスのプログラムは“日本っぽいもの”を探す中でたどり着いた『ソーラン節』だ。
北海道を代表する民謡で漁師が魚を水揚げする時にうたわれたソーラン節を、和楽器の琴を用いたヒップホップ調の曲と組み合わせたプログラムを作り上げた。

勝負のシーズンに、高橋は「北京五輪の前に、12月の全日本選手権で結果を出さないと、オリンピックどころではない」と話し、村元も「全日本のことしか頭にない。そこを目標にしないと北京は見えない」と気を引き締めていた。
高橋は「全日本まで時間がないのでレベルアップをハンパなくやっていきたい。“超進化”じゃないですけど、『今シーズンは全く違う!何があったの?』みたいなものを見せていくモチベーションでいれば、やっていけるのかなと思います」と語った。
五輪シーズン初の公式戦はGPシリーズ・NHK杯。
そのこだわりの新プログラムを国内初披露し、リズムダンス、フリーダンス、合計得点のすべてで日本歴代最高得点を記録すると、日本勢最上位の6位となった。
このとき2人は、初めてライバルの小松原美里・尊組を上回った。
これまで積み重ねてきたことが、この大会で結果として表れてきたことで2人の「自信」につながる。
次のポーランドで行われたワルシャワ杯では、時差や連戦の疲労がある厳しいコンディションの中、さらに勢いを増した演技を披露し、海外の観客を魅了した。
NHK杯で更新した日本歴代最高得点を10点以上更新し、2位となり、ISU公認の国際大会で初の表彰台に上がった。
結成からわずか2シーズン目で見えてきた五輪出場。それでも「全日本の先に北京オリンピックがある」と話していたほど、2人はにとって、全日本選手権への思いも強かった。
高橋は「全日本は表彰台の真ん中に立ちたい。全日本優勝は目標にある。それには100%の演技をしないとそこには立てないので。その時にできる全力をやるしかない」と意気込んでいた。

小松原美里・尊組も狙う、たった1枠のオリンピック出場をかけて挑んだ、2021年の全日本選手権。
しかし、小松原美里・尊組に僅差で敗れ、2位。

リズムダンスでの転倒が明暗を分ける結果となり、2人のオリンピックの夢は潰えた。
それでもつかんだ2022年1月の四大陸選手権で、アジア初の銀メダルを獲得。
3月の世界選手権にも出場し、村元は「2年間で新しいチームとして成し遂げたことはすごいことだと思う」と振り返った。
悩み抜いた3シーズン目は「オペラ座の怪人」
進化し続けてきた2人だったが五輪シーズンを終えた後、次のシーズンも競技を続行するか、その答えを保留にしていたが、拠点のフロリダの地でスタートを切った。
村元は当初から“かなだい続行”に意欲を見せていたが、高橋が「この流れのまま続けたらいけない」と保留にしていた。
考え抜いた末、2シーズンアイスダンサーとして成長を実感した高橋は「もう1年やったほうがいいと思った」と決意を新たにし、3年目をスタートさせた。

この3シーズン目で決めたフリーダンスのプログラムが「オペラ座の怪人」。
高橋にとって、シングルで2006-2007年シーズン以来、16年ぶりに滑る縁ある曲だった。
高橋自身もすごく好きな楽曲ということもあり、20歳になる年に滑り、36歳を迎えるシーズンになった今、アイスダンサーとして滑ることでいろいろとアイデアが浮かんでくるという。
“かなだい”3年目が始まった際、2人は3シーズン目の思いと目標をこう話していた。

「1年目も2年目もバタバタした全日本でした。自分たちの経験も浅い中での全日本は、プレッシャーもすごく大きかった。
3年目の全日本は、落ち着いて自信を持って挑みたい。周りの雑音にとらわれず、自分に集中してミスなく、今できることを全力で出し切りたい」(村元)
「昨シーズンは、五輪に囚われている自分もいました。行けるんじゃないかって気持ちにもなって一層緊張して。
今回も試合なので緊張感は高くなるけれど、3シーズン目に入ってこれまでの経験を活かして、思いっきり全日本で落ち着いて、アイスダンサーとして初めて挑めるんじゃないかと思っています」(高橋)
3シーズン目でも変わらず2人の目標は「全日本優勝」だった。
そして、2023年の世界選手権は日本での開催も決まっていたため、その代表も狙っていた。

迎えた2022年の全日本では、結成3シーズン目にして2人は初優勝した。
高橋は全日本でシングルとアイスダンスの2冠を達成した史上初の選手となった。
全日本後、村元は「優勝するのが目標だったので、3シーズン目でそれを達成できたのは本当にうれしい」と喜びを明かした。
2012年のシングルでの優勝と今回の優勝を振り返り、フィギュアスケートへの思いをこう語った。
「11年前はアイスダンスでまた真ん中に立つなんて全く想像していなかった。“人生何があるかわからないな”って思うんですけど、ただこのフィギュアスケートが自分自身をすごくつくってくれていて。
離れたい気持ちがあったときもあったけど、やっぱり自分の軸として“フィギュアスケートがある”と、年齢を重ねれば重ねるほど感じてきている」

そして手にしたのが、2023年の日本開催となる世界選手権への切符。
その世界選手権ではプログラムの世界観を存分に表現する会心の演技で、日本勢過去最高に並ぶ11位となった。演技直後に2人は、リンク上で涙を流して喜んだ。
観客も引き込まれ、温かい拍手と声援に包まれた高橋は「僕ら、本番中は2人の世界に入ってて、終わってから、わーって。あったかい、空気が。本当にね。バナーが満開の桜みたいでしたよ、ピンクで」と興奮気味に語った。

「今日はもうすごく満足している。本当に。本当に嬉しいんです」と高橋が話すと、村元も「すごく嬉しいです。余韻に浸ります」と笑顔を見せた。
リンク上でガッツポーズを見せた高橋は、「いやバンクーバー超えた!本当に!」とバンクーバー五輪フリー後の力強いガッツポーズが再びできたことを喜んだ。
村元にはそのガッツポーズが見えていなかったようで「やってたんだ」と笑うと、「めっちゃ嬉しかった。できた、やったーと思って」と喜びを爆発させた。

そんな世界選手権を終えた後、2人の顔はすっきりしていた。
この大会の前には、すでに引退を決めていたという村元と高橋。
そして、その後行われた国別対抗戦を最後に2人は3シーズンに及んだ競技会を終えた。
後編では、引退会見後の2人に3シーズンの「ベスト演技」「ケンカ」「今後の夢」を聞いた。