新型コロナウイルスが5類に引き下げられ、夜の街にもにぎわいが戻りつつある。しかし、タクシー業界では、ドライバー不足が深刻化しているという。現場を取材した。
乗る人が増えても追いつかない配車
何とも香ばしい匂いが食欲をそそる焼きラーメン。土曜の夜、福岡・中洲の屋台は、ご当地の絶品グルメを求める観光客でにぎわっていた。
韓国から観光客：
私、本当に日本好きで、近い、福岡、本当にきれい！おいしい！優しい！
北九州から観光客：
野球を見に来て、その帰りに寄って。お酒もうまい！料理もうまい！
戻りつつあるコロナ禍以前の日常。飲食店関係者もホッと胸をなでおろす中、人出不足に頭を悩ませている業界がある。終電を乗り過ごした人には欠かせないタクシーだ。中洲地区の乗り場に目を向けると、人が待ち始めた。利用者を待たせないよう、誘導員も必死にタクシーを乗り場に誘導する。
誘導員：
“雨の日”は、絶対に行列です。1mm降ったらもうダメです。ずっとこの辺まで列が来ます。それが一列じゃないですから
乗る人は増えているのに配車が追いつかないタクシー業界の現状。福岡市タクシー協会によると、福岡市とその周辺を走るタクシー事業者94社のドライバーの数は、コロナ禍前と比べ、2023年3月末時点で6,655人と20％以上も減っている。
老若男女・経験問わず積極的に採用
人員の確保が急務となる中、訪ねたのは福岡市南区のラッキー自動車。朝礼が始まっていた。この日の朝礼には、前の月に入社したばかりの新人ドライバーの姿があった。
新人ドライバー・末松昭さん：
研修が長かったので…。その間も入れると今月の頭くらいですね。乗務して、まだ4～5日です
45歳になる末松昭さん、もともとは運送会社で配達ドライバーとして勤務していたが、転職した。
新人ドライバー・末松昭さん：
体力的なものを考えてですね。年齢を重ねても仕事できるような、タクシードライバーというのに興味がありまして
この会社でも、コロナの感染拡大でドライバーが約2割減少。アフターコロナを見据え、2020年の夏ごろから先駆けて求人をかけ、積極的に採用に取り組んできた。
ラッキー自動車・前坂翠副所長：
乗務員が減り始めた段階で、かなり会社としても危機感がありましたので、早い段階から「乗務員を増やしていかないと」ということで、会社として取り組みました
求人掲載を増やしたほか、現役のドライバーに紹介を呼びかけるなどして、現在はコロナ禍前よりも多い350人ほどが勤務している。新たに採用したのは20代から60代まで、年齢も幅広く、8割が未経験者だという。
タクシードライバー5日目という末松さんの勤務をのぞかせてもらった。
新人ドライバー・末松昭さん：
ありがとうございます
客：
明治通りに行ってください
会社を出て30分ほど。この日、最初のお客だ。
新人ドライバー・末松昭さん：
ナビをして頂いても、よろしいですか？
客：
リッツカールトンに行って下さい。リッツカールトン、分かりますか？
新人ドライバー・末松昭さん：
すみません、ちょっと…
客：
そしたら、えっと―
いま、一番の課題は道を覚えること。お客を目的地まで最短距離で運べるよう日々勉強中だと話す。
新人ドライバー・末松昭さん：
地図を覚えていないと、厳しい職種だなというのを感じます。いままでは荷物を運んでたので、それが今度はお客様を目的地まで運ぶので、やっぱり命を運びますので、そのへんのやっぱりプレッシャーというか、責任もある仕事だなあと思います
ラッキー自動車・前坂翠副所長：
まだまだ、人は募集しているところです。コロナのときに失ってしまったお客さまというのが、もっと戻ってきてもらえたらなと思っておりますので。まだ1割以上は増やしていきたいと思います
背景にある「運送・物流の2024年問題」
コロナ禍前の活気を取り戻しつつあるタクシー業界。さらに需要が高まると期待されている夏の観光シーズンを前に、ドライバーの増員が急務となっている。
協会の関係者は、この状況に危機感を抱いているが、その背景には「運送・物流の2024年問題」と呼ばれる問題がある。これは「2024年4月に施行される労働時間などに関する法改正がもたらす影響」を意味する。
タクシーでいえば、勤務間インターバルが、現在「8時間以上でいいものを9時間以上に」。また1日の拘束時間を「最長16時間から最長15時間に」というもの。ドライバーの安全を確保する上で必要だが、人も物もこれまで通りに運べなくなるのではという懸念が上がっている。避けて通れない2024年問題。生活への影響をいかに小さくするかさらに考えていく必要がありそうだ。
（テレビ西日本）
