酒屋で購入した酒を店先でそのまま飲む「角打ち」。福岡・北九州市では「角打ち」がひとつの文化として昔から根付いているが、今、新たなかたちの「角打ち」が増えていて、改めて注目されている。
「角打ち」復活の兆し
カウンターでしみじみと酒を味わったり、隣り合わせた人や店主と話に花を咲かせたり。酒店の店先で自由気ままに酒を楽しむ「角打ち」。
この記事の画像(18枚)北九州市八幡東区にある「稲月商店」の開業は1934年。一度は閉店したものの、7年前に3代目の稲月康人さんと宏至さん兄弟が「角打ち」を再開させた。
新型コロナの影響で2020年の売り上げは9割減少したが、最近は少しずつ客が増え始め、喜びと期待の声が聞こえる。
「稲月商店」弟・稲月宏至さん:
カウンターのこの雰囲気が戻って、本当最高です
「稲月商店」兄・稲月康人さん:
まず2019年に戻ったらいいなという感じ。その頃は、みなさん会社の方も4~5人連れで来られていたから、それに戻るだけでありがたい
店主がおすすめのワインをセレクト
「稲月商店」の特徴は―。
小川ひとみリポーター:
こちらの店はワインをメインに提供している「角打ち」なんです。頂きます…ん~、おいしい~
ここはワインに特化した角打ち店。店内には約200種類のワインがずらり。食べ物の持ち込みは無料なので、持ち込んだ食べ物に合うワインを店主がセレクトしてくれるのだ。
「稲月商店」弟・稲月宏至さん:
(ワインを注ぎながら)香りもかなり深い。渋みはそこまできつくないですので、ビギナーでも頂けます。きょうはスモークチーズとか生ハムなどには、バッチリ合いますね
実は弟の宏至さんはフランスに渡り、複数の醸造元などで研修を重ねた経験を持ち、ボージョレワインの普及に貢献した人に贈られる「ボージョレ騎士号」を日本人として初めて授与された人物なのだ。
オススメのワインを味わった客の感想は―。
来店客(男性):
どっしり感があって、お肉に合う
来店客(女性):
すごく勉強になるというか、ただワインだけを飲みに行くとかはどこでもある。これはどれに合うとか知識が入って飲むのは、確実に違う
「稲月商店」弟・稲月宏至さん:
ワインといったら、ちょっとかしこまったり、緊張されたりするんですよね。普段、食べている食材でワインを合わせると自然とワインが入っていきやすいですから、おいしいなと言ってもらえることが僕にとって一番幸せな時間です
一緒に笑い合える“居場所”
北九州市若松区にある創業97年になる「榮屋」。店内には焼酎や日本酒を始め、若者も楽しめるようリキュール類も豊富にそろえている。
この角打ち店で多くの人をとりこにしているのが「若松牛すじカレー」だ。
「榮屋」古賀美和子さん:
カレーできました~。お待たせしました、食べてください
「若松牛すじカレー」は北九州市のブランド牛「若松牛」のスジを3日間じっくり煮込んだ一品。
小川ひとみリポーター:
最初はスパイスの味を感じます。そのあと、甘みを感じて、お酒にめちゃくちゃ合いますね
実は店主の古賀さんは、20年間喫茶店を経営していた過去を持つ。その経験を生かした手作り料理は大好評だ。
さらに、この店では広々とした店内を活用してライブ演奏や展示会などさまざまなイベントが行われている。老若男女問わず多くの人が集まる角打ち店なのだ。
「榮屋」古賀美和子さん:
みんな、人生いろいろあるやん。何もない人とかいないけど、ここにきてお酒を飲んだりライブを聴いたりしている瞬間、そういうことを忘れることができて、楽しんでもらえるような、そういう居場所をつくりたい
店主の古賀さんは、若者の夢を応援するための活動も行っている。「榮屋」はアーティストの卵がお客さんに歌を披露する場所にもなっているのだ。
アーティスト志望・心美さん:
何でも話せるし、一緒に笑い合えるし、年の差を超えて通じ合うものがあって、毎日いろんなお話して、すごい大切な存在です
「ありがとう。心美」と応える古賀さん。すかさず常連客から「あんまり言ったらママ泣くぞ!(笑)」と声がかかる。
常連客(女性):
みんなファミリーのような感じで楽しんでいます
常連客(男性):
本当に絆がしっかりしてるから、みんなが集まって楽しんで喜んでいける場所が、この角打ち「榮屋」さんって感じだと思いますよ
古賀さんにとって「角打ち」とは?
「榮屋」古賀美和子さん:
集まって自分のことを知ってくれる人、声をかけてくれる人ができるのが「角打ち」の良さだと思っていて、そういう「角打ち」の中で音楽が加わったら一緒に歌い、泣き、踊ることもできる、みんなが喜んでくれるような、そんな未来を勝手に想像しています
新たなかたちの角打ち店も登場しているが、その一方で角打ち店の数が減ってきているのも事実だ。
北九州市で活動する角打ち文化研究会によると、2012年時点で約150軒あった市内の角打ち店は減少の一途をたどり、現在は100軒以下になっているという。経営者も常連客も高齢になり、店を閉めてしまうケースが目立つということだ。
逆境の中でも、古き良き文化を新たなかたちで未来につなげる北九州市の「角打ち」。ぜひ体験してみてはいかが?
(テレビ西日本)