東京株式市場は、日経平均株価が3万円の大台を回復したのに続き、バブル経済崩壊後の最高値を更新した。19日の終値は3万808円と、1990年8月以来、約33年ぶりの高値だ。19日まで7営業日続伸で、この間の値上がり幅は1600円を超えた。

国内景気の回復期待が株価を押し上げ

株価を押し上げているのは、日本の景気回復への期待だ。欧米と比べ遅れて実現した経済再開で、人の動きが活発化し、業績を伸ばす企業が相次ぐなか、日本経済の先行きへの期待が高まっている。

19日の日経平均株価は、取引開始直後から300円以上値を上げ、一時バブル後の最高値を更新
19日の日経平均株価は、取引開始直後から300円以上値を上げ、一時バブル後の最高値を更新
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17日午前8時50分に公表された1~3月のGDP=国内総生産で、個人消費の底堅さが確認されると、30分ほどで平均株価は3万円の節目を超えた。

SMBC日興証券が、2023年3月期決算について、5月18日までに発表を終えた1423社(全体の99.2%)を集計したところ、最終利益は55%にあたる787社で増益となった。

客足が回復した「航空」や「鉄道」などの好調さが目立ったほか、資源高や円安を背景に商社をはじめとした「卸売」の収益も拡大している。

18日、台湾のTSMC、米のマイクロン・テクノロジーなど世界の半導体大手7社の幹部と会談した岸田首相
18日、台湾のTSMC、米のマイクロン・テクノロジーなど世界の半導体大手7社の幹部と会談した岸田首相

半導体関連銘柄も株高をけん引している。
岸田首相が海外大手半導体トップと面会した18日には、アメリカのマイクロン・テクノロジーが日本国内に最大5000億円を投資すると発表し、政府支援を背景にした業績伸長への期待が高まった。

「自社株買い」ラッシュが買いを促進

さらに、東京証券取引所が、市場評価が低い企業に改善を求めていることも、株価を上向かせる要因として指摘されている。

東京市場では、1株あたりの純資産に対して株価が何倍かを示すPBR=株価純資産倍率と呼ばれる指標が1倍を下回る企業が多い。PBRが1倍を割ると、株価が企業の清算価値を下回っていることになる。こうした企業に対し、東証は資本コストや株価を意識した経営に向けた改善を促していて、3月には、取り組みや進捗状況などを開示するよう通知した。

そうしたなか、いま起きているのが「自社株買い」ラッシュだ。市場に出回る自社の株式を買い取ることで、市場での発行済み株式数は減少するとともに、自己資本利益率が改善されて投資家からの期待が高まり株価上昇に影響してPBRが上向く効果が期待できる。東証の資本効率の向上要求をきっかけに、自社株買いを打ち出す企業が相次いでいて、企業のこうした株主還元策が買いを促している側面も強い。東海東京調査センターによると、5月に入り、19日までに設定された上場企業の自社株の買い入れ枠は3兆2300億円に達した。5月の買い入れ枠は、去年が3兆1200億円と最も多かったが、すでにその水準を超えている。
ただ、PBR1倍超を維持し続けるには、収益力向上への長期的な取り組みが欠かせず、企業の成長戦略が問われることになる。

株高を主導する海外投資家

株高を主導しているのは、海外勢だ。東京証券取引所によると、5月8日から12日のプライム市場では、海外投資家による買いが売りを上回る「買い越し」が5883億円にのぼった。

欧米では銀行不安がくすぶるなか、利上げを続ける中央銀行が、物価と経済の安定の両立で難しい局面に立たされ、景気減速への警戒感が続いているが、一方、日本では、日銀が金融緩和を続け、景気持ち直しへの期待も広がっている。

欧米と対照的な日本の姿に海外勢の視線が向かう構図が強まっていて、市場関係者の間では「日本株が相対的に堅調だとみられ、割安感から資金を移す動きが続いている」の見方が優勢だ。著名投資家ウォーレン・バフェット氏が4月に来日し、日本株の買い増しを明らかにしたことも、海外投資家の呼び水になったとされる。企業の自社株買いが株価を下支えするなかで、資金の投下先として日本を選んだ海外勢が買いの主体となり、上昇の勢いが増した格好だ。

勢いはどこまで続く?

今後の焦点は、期待が先行するなかで形成されてきた株高の勢いがどこまで持続するかだ。

IMF=国際通貨基金は、4月、2023年の世界経済の成長率について前年の3.4%から2.8%に減速するとの見通しを発表した。アメリカの景気後退が現実のものとなって、外需が落ち込んだ場合、日本企業の業績にもダメージが及ぶ可能性があり、国内経済の先行きには下振れリスクが見え隠れする。

楽観的な見方が広がりはじめていたアメリカ連邦政府の債務上限問題についても、バイデン政権と野党・共和党との間での協議が一時中断するなど、主張の対立が続いていて、合意には程遠い状況が伝えられている。交渉がまとまらなければ、6月にもアメリカ国債が債務不履行に陥るおそれがあり、金融市場では警戒感が解消されていない。

「結果的に政策金利をそれほど上げる必要はないかもしれない」と述べたFRBのパウエル議長(ワシントン・19日)
「結果的に政策金利をそれほど上げる必要はないかもしれない」と述べたFRBのパウエル議長(ワシントン・19日)

一方、FRB=アメリカ連邦準備制度理事会のパウエル議長が、19日に、利上げをめぐって発言した内容が、市場関係者の関心を集めている。パウエル議長は、銀行破綻が引き起こす信用収縮による金融引き締め効果を指摘し、銀行が融資に慎重になることが「経済成長や雇用を圧迫し、物価の引き下げにつながりうる」として、「結果的に政策金利をそれほど上げる必要はないかもしれない」との認識を示したのだ。

金融政策を決めるFOMC=連邦公開市場委員会の次回会合を6月に控え、利上げの一時停止を示唆したとして、景気を冷ます市場の波乱要因が和らいだとみる見方もある。

コロナ禍からの経済活動再開で企業業績が回復を見せるなか、心理的な節目を超えて株高が加速した日本株は、アメリカ景気の後退リスクをにらみながら、上昇基調の持続力を試されることになる。

(執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
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金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員

経済部
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「経済部」は、「日本や世界の経済」を、多角的にウォッチする部。「生活者の目線」を忘れずに、政府の経済政策や企業の活動、株価や為替の動きなどを継続的に定点観測し、時に深堀りすることで、日本社会の「今」を「経済の視点」から浮き彫りにしていく役割を担っている。
世界的な課題となっている温室効果ガス削減をはじめ、AIや自動運転などをめぐる最先端テクノロジーの取材も続け、技術革新のうねりをカバー。
生産・販売・消費の現場で、タイムリーな話題を掘り下げて取材し、映像化に知恵を絞り、わかりやすく伝えていくのが経済部の目標。

財務省や総務省、経産省などの省庁や日銀・東京証券取引所のほか、金融機関、自動車をはじめとした製造業、流通・情報通信・外食など幅広い経済分野を取材している。