NISA議論が本格化
私たちの暮らしに大きく関わる税金の仕組みを見直す議論が今週から、与党で本格化している。
エコカー減税の見直し、防衛費を増やすための財源をどうするか、学び直しをする人などへの投資に積極的な企業の税負担を軽くする仕組み作りなど、が話し合われるが、なかでも「NISA」(少額投資非課税制度)をどう広げていくのかが大きな焦点だ。
通常、株式や投資信託などの金融商品に投資した場合、売却して得た利益や受け取った配当に対し、およそ20%の税金がかかる。
この記事の画像(12枚)NISAは「NISA口座」を作って、毎年一定の金額の範囲内で投資すると、利益が非課税になる、つまり、税金がかからなくなるという制度だ。
貯蓄から投資への流れを後押しし、個人の資産運用の幅を広げるため、初心者の人が少額でも投資を始められるようにとつくられた。
口座数は徐々に伸びて、制度が始まった8年前は825万口座だったのが、今年6月末時点で1800万近くにまで広がっていて、国民の7人に1人が口座をつくっている計算になる。
「しくみがわかりにくい」
一方で、口座を開設したものの、投資をしていない人も多いとされ、およそ29兆円という累計の買い付け額は、2000兆円という個人の金融資産全体からみると少ないという指摘がある。
さらに、聞こえるのがしくみが分かりにくいという声だ。
NISAには、「一般NISA」・「つみたてNISA」・「ジュニアNISA」がある。
「一般NISA」は、年間120万円まで投資でき、最大5年間、600万円まで税金がかからなくなるものだ。
「つみたてNISA」は、より長期に積み立てて運用できるようにしようというもので、年間40万円まで投資でき、最大20年間、800万円まで非課税になる。
いずれも、投資ができる期間は、「一般NISA」が2028年まで、「つみたてNISA」が2042年までと、限られている。
このほか、未成年が利用できる「ジュニアNISA」もあるが、投資可能期間は来年末で終了する。
このように制度が並び立つことで、しくみがわかりにくくなり、非課税期間や投資枠などが異なることで利用を難しく感じる人もいるという指摘があったのだ。
これまでNISAの普及に音頭をとってきたのが、金融行政をあずかる金融庁だ。
預貯金に偏った金融資産を投資へと振り向けようとNISAを推進するなか、投資できる期間が限られるという制限をなくし、時限的な制度を「恒久化」したいというのが、たっての要望だったが、これまで実現できていなかった。
しかし、今、大きな追い風になりそうなのが、「新しい資本主義」を掲げる岸田総理の方針だ。
今年9月、岸田総理は投資の本場ニューヨークでの講演で、英語でこう発言した。
「In order to double asset income and enable long-term asset building for retirement, it is essential to make our small investment tax exemption system for individuals permanent.(資産所得を倍増し、老後のための長期的な資産形成を可能にするためには、個人向け少額投資非課税制度の恒久化が必須だ)」
日本の経済成長を促し、投資への流れを作るため、NISAの「恒久化」が必要だと訴えたのだ。
「5度目の正直」
実は、金融庁は、NISAの恒久化を過去4回要望しているが、「恒久化して制度を続けるようにしてしまうと、期限ごとに効果を検証して仕組みを見直していくことが難しくなる」などの慎重意見が出て、実現しなかった。
今回は、岸田総理の発言を後ろ盾に、「5度目の正直」として、実現への期待を高めている。
「非課税」を無期限化
新NISAはどういう姿になるのだろうか。
いま検討されている案は、「つみたてNISA」を基本にして、制度を恒久化し、非課税とする期間に期限は設けず、年間投資枠もたとえば60万円に拡大するというものだ。
一方で、生涯トータルで非課税となる限度額を設定することが俎上に上がっていて、この一生涯での限度額をどうするかが今後の焦点になりそうだ。
ある金融庁幹部は「岸田総理の発言は絶好の追い風だ。総理のリーダーシップで恒久化実現の可能性が高まった」との見方を示す一方、税制を所管し、これまで恒久化には慎重な姿勢をとってきた財務省では幹部が「富裕層を優遇することになっては意味がない。中間層の資産作りに役立つ仕組みに仕上げられるかがポイントだ」と話している。
街の人はどう思っているか、聞いてみた。
NISAを続けているという30歳代の会社員は「わかりやすくなっている」といまの制度を評価したうえで、「投資枠が増えると、もっと投資しやすくなる。子どものためにもさらに活用したい」と話していた。
いまはNISAをやっていないという20歳代の会社員は「使いやすくなれば投資に挑戦しやすくなる」と、新たな制度に期待を示した。
一方、「投資は何となく怖いというイメージがあり、NISAを始める気はない」との声もあった。
「貯蓄から投資」に弾みがつくか
投資信託や株式は、必ず元本が保証されるというものではないので、始める際は商品内容を理解して投資する必要があるが、NISAの恒久化が実現すれば、好きなタイミングで資産運用を始める人が増えることも考えられ、投資枠が広がれば「貯蓄から投資」への動きに弾みがつく可能性もある。
金融庁と財務省の間でどういう調整が行われ、自民・公明両党でどういう議論になるのかが、今後の制度の内容を決めることになる。
資産づくりに向けた選択肢が増えるきっかけになるのか。年末に向け、新NISAをめぐる協議は大詰めを迎える。
【執筆:フジテレビ経済部長兼解説委員 サーティファイド ファイナンシャル プランナー(CFP)智田裕一】