2023年4月、選挙運動のさなかに起きた岸田首相の襲撃事件。凶行をはたらいた男は「ローンオフェンダー」と呼ばれる単独犯だったとみられている。広島サミットも間近に迫り、脅威が高まる中、私たちにできる対策は何があるのか…。

単独でテロ行為に及ぶ人物「ローンオフェンダー」

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4月15日、和歌山市の漁港で起きた、岸田首相の襲撃事件。

筒状の爆発物が投げ込まれ、威力業務妨害の現行犯で24歳の木村隆二容疑者が逮捕された。

事件を受けて、松野官房長官が指摘したのが…。

松野博一官房長官:
いわゆる“ローンオフェンダー”による、国内外の要人や関係施設を標的とした違法行為の発生は懸念されるところであります。発生を防ぐため、政府としては情報収集活動を強化するとともに、警戒警備に万全を期すべく、関係機関が一丸となって対応していく考えであります

「ローンオフェンダー」。直訳すれば「単独の攻撃者」。組織に属さず、“単独”でテロ行為に及ぶ人物を指す。

かつては一匹オオカミを意味する「ローンウルフ」型とも呼ばれ、警察白書では、2000年代以降各国でその危険性が認識されていると指摘していた。

今回の事件では付近の防犯カメラに、木村容疑者が1人で現場に向かい、聴衆の中に紛れ込んでいく姿が映り込んでいた。

警察は、こうした状況などから「単独」での犯行とみている。

容疑者は事件の4日前に政治への不満をツイート

テロ犯罪や対策に詳しい、日本大学の福田充教授は、「ローンオフェンダー」にはその背景や目的で違いがあるという。

福田充教授:
木村容疑者の行った首相襲撃は、“テロリズム”の中でのローンオフェンダーと位置づけることができると思います

福田教授によると、ローンオフェンダーの分類は、大きく3つだ。

2022年7月の安倍元首相銃撃事件で逮捕・起訴された山上徹也被告など、政治的なメッセージを社会に発信するため、要人暗殺などの暴力行為に至る「テロリズム型」。岸田首相を襲撃した木村容疑者も、このテロリズム型とみられるという。

また、京都アニメーションの放火殺人事件や、京王線刺傷事件、それに2022年に名古屋で起きたバスジャック事件のように、自らの不満解消のため、無差別に他人を巻き込むなどする「自暴自棄犯罪型」。

そして、神奈川県の障害者施設で45人を殺傷した事件など、差別的な思想で犯罪を起こす「ヘイトクライム型」の3つだ。

背景や目的に違いのある「ローンオフェンダー」による事件。その犯行を未然に防ぐポイントの1つが「予兆」だと福田教授は指摘する。

福田充教授:
何らかの事件を起こすときには、その人の行動が問題行動に変わっていくということはあるんですね。武器を作ってみたり、準備したり、練習で試してみたり、という予兆があるので

《木村隆二容疑者のツイート(4月11日)》
「投票だけは行っている、民主主義風の専制政治国家が日本です」

これは、事件の4日前に書き込まれた木村容疑者のものとみられるTwitterだ。2022年6月、年齢などを理由に選挙に立候補できないのは不当だとして国を訴えていて、その訴状とみられる書類も投稿されている。

裁判は一審の神戸地裁が棄却し、木村容疑者が控訴。政治への強い不満が書き込まれ、矛先は岸田首相にも…。

《木村隆二容疑者のツイート》
「岸田首相も世襲3世ですが、民意を無視する人が政治家には通常なれません」

福田教授は、こうした提訴や投稿も「予兆」だったかもしれないとした上で、組織ではなく単独で動く「ローンオフェンダー」の場合、その発見は難しいのが現状だとしている。

福田充教授:
ローンオフェンダーは、事前に兆候をつかむとか事前に抑止するのが非常に困難。(警察が)どんなにインターネットやSNSを監視しても、察知するのはかなり限界があると思う。察知した人は、(相手が)周辺の人でも通報するとか警察に相談すれば、事前の察知に繋がる可能性がある

警察庁は、安倍元首相の銃撃事件を受け、銃や爆発物の製造方法など有害なネット情報の監視を強化していた。しかし、木村容疑者は警察から“ノーマーク”だった。

警察庁が業務委託する「ホットラインセンター」では「ささいな情報でも寄せてほしい」と情報提供を呼びかけていて、匿名でも受け付けている。

犯罪抑止には、「市民の目」の重要性も高まっている。

対策は…専門家「第3のコミュニティー」の再構築を

木村隆二容疑者を知る人:
息子と遊んでいる時は元気で明るい子でした

中学校の同級生:
印象としては、結構内気な方で、あまり目立たないグループにいたような印象です

中学校の同級生:
みんなの前に立ってとなると、ちょっと静かになるようなタイプですけど、一対一だったら全然普通の子です

捜査関係者によると、木村容疑者について家族は「定職についておらず、家に閉じこもる生活が続いていた」などと話しているという。

増加する、ローンオフェンダーの脅威。その対策には、社会全体で取り組む必要があると、福田教授は指摘する。

福田充教授:
かつての経済成長のときの日本は、頑張って働いて勉強すれば報われる社会だったんですけど、バブル崩壊から社会が不景気になって、格差が増えて差別ができる。そういう社会の背景の根本的な原因もありますし、地域・コミュニティーの中で抑圧された方、社会的弱者をどう見守るか、どう包摂していくかが大事なんです。家庭と学校、職場、だけではなくて「第3のコミュニティー」。それは欧米でいえば教会だったりします。それに変わるものっていうのは日本になかなか見つかりませんので、異なるコミュニティーで見守っていくか、向き合っていくかということを、新しい社会の中で再構築することが問われていると思います

2023年4月21日放送

(東海テレビ)

東海テレビ
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