冤罪の可能性がある事件の裁判をやり直す「再審制度」。これまで明確でなかったルールを作ろうと、国が法改正に向けた動きを進めているが、関係者からは「後退している」と批判の声も上がっている。長年「袴田事件」などを取材してきたジャーナリストの大谷昭宏さんと、再審制度のあり方について考える。
■「冤罪被害者の救済」掲げるも…“改悪”批判も
2026年2月12日、再審制度の見直しに向けた法改正の骨子が法務大臣に答申された。1948年に制定されてから初めての見直しで、そのきっかけとなったのが「袴田事件」だった。

元死刑囚の袴田巌さんは、1966年に静岡県で起きた一家4人殺害事件で逮捕されてから58年、捜査機関による証拠の捏造、自白の強要が認められ、2024年9月、死刑から一転、無罪となった。
しかし、長期間に及ぶ拘束で、袴田さんの心身はむしばまれていた。

救済の遅れから世論の批判も強まり、2025年4月から再審制度の見直しがスタート、法改正に向けた骨子が決定した。

まず、これまで明確なルールがなかった「証拠開示が義務化」された。ただし、「再審請求の理由と関連する証拠」など範囲を限定する形となっている。
しかも、袴田さんの救済が遅れた原因と指摘される、検察が再審開始決定に不服申し立てできる権限は禁止されず、残されたままだ。
こうした内容に、袴田さんを支え続けてきた姉のひで子さんは…。

姉・袴田ひで子さん:
「こんな法律だったらやっぱり今までと一緒でしょ。何か直したような、直さんようなところがあって、実際は直っていないってことですよね。私はせめて人間を守るような法律を作っていただきたい」
■証拠の開示に“条件” 真実は明かされるか
今回の再審制度見直し案のポイントは大きく2つある。まず1つは、裁判所から検察への「証拠開示が義務化」されたことだ。
ただし、「再審請求の理由と関連すること」など条件が付いていて、証拠開示の範囲がこれまでよりも狭まり、無罪につながる証拠が埋もれる恐れが指摘されている。
袴田事件ではおよそ600点の証拠が開示され、このうち5点が検察の“ねつ造”と判断された。

大谷さんは「証拠の開示が義務化されたのは『一歩前進』だと思う」としながらも、「義務化されてどんな証拠が出てくるのか、弁護側は検察側がどんな証拠を持っているか分からない。再審につながる証拠が隠されてしまったら、再審を始めるためのスクリーニング(ふるい分け)で落としてしまう可能性がある」と問題点を指摘する。

さらに「日本の検察は『最良証拠主義』をとってきて、自分たちの一番都合のよい証拠を出し、無罪につながる証拠は出さなくてもよかった」として、開示に条件をつけることで、今後も同様のことが行われるのではないかと懸念している。
■「不服申し立て」で 今後も長期化の可能性
見直し案のもう1つのポイントは「検察の不服申し立ては維持」されることだ。これにより、再審の手続きはこれまでと同様に長期化し、冤罪からの救済が遅れるおそれがある。
50年以上にわたり再審請求を続ける「名張毒ぶどう酒事件」を担当する弁護士も、懸念を示している。

名張毒ぶどう酒事件弁護団・鈴木泉弁護士:
「検察官の異議申し立て権、(再審)開始決定に対する反対意見をいう制度は温存されたままと、これまでと変わらないじゃないかと」

1961年、三重県名張市の公民館で、ぶどう酒を飲んだ5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」。奥西勝元死刑囚に、死刑判決が言い渡されてから57年、冤罪事件の可能性があるとして、再審を求め、闘い続けている。

実は、一度だけ再審の重い扉が、開きかけた瞬間があった。

7度目の再審請求となった2005年、裁判所が再審開始を決定。しかし、検察の不服申し立てによって、その決定は覆され、白紙となった。
その10年後、奥西勝元死刑囚は獄中で死亡した。

奥西死刑囚の死後は、奥西さんの妹・岡美代子さんが再審請求を引き継ぎ、2026年1月、11回目の「再審請求」を申し立てた。
奥西勝死刑囚の妹・美代子さん:
「裁判所が一日も早く再審開始決定を出してほしいです」

妹の美代子さんもすでに96歳、残された時間は多くはない。
再審の請求開始から無罪となるまでの期間は、袴田事件では43年。福井市の女子中学生殺害事件で、2025年8月に再審無罪となった前川事件では、21年を要した。

今も再審請求が続いている名張毒ぶどう酒事件は、最初の再審請求からすでに52年が経過していて、いずれの事案も、検察からの不服申し立てによって、長期化していると指摘されている。
大谷さんは、検察が再審開始の判断に対して様々な形で不服を申し立て、裁判を始めることもできず長期化させているとして「これからも時間がかかる可能性がある」と指摘する。
果たして、今回の見直し案が目的とする冤罪被害の救済に資するものとなるのか、今後、法改正に向け、与党での審議を経て、国会で議論されることになる。
