今、海外の映画祭などでも注目されている23歳の若手映画監督がいる。愛媛・松山市出身の西山将貴さんだ。3月末から2週間、全編愛媛ロケの映画が制作された。西山監督自身を投影したという今回の作品、ふるさと愛媛で見えてきたものとは。

考えていたプランを捨てる勇気が必要

西山将貴監督:
松山から出なきゃいけないんだとずっと思ってました。この場所にいてはいけないんだ、ここでは映画は撮れないとずっと思っていたんですけど

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西山将貴監督:
本番、よーいスタート

指揮をとる映画監督・西山将貴さん
指揮をとる映画監督・西山将貴さん

撮影現場で指揮をとる映画監督・西山将貴さん。その場にいる全員が、最良の瞬間を生み出そうと、全神経を研ぎ澄ませる。映画界の未来を担う、23歳の若きまなざし。その視線の先には何を捉えているのだろうか。

西山将貴監督:
最後まで頑張っていくんで、お力添えよろしくお願いします

西山監督にとって初めての長編映画の撮影が始まった。映画「The Invisible Half」。日本人の母と外国人の父を持つ女子高校生が、日本で生きることに葛藤しながらも居場所を見つけていく青春ホラー映画だ。2年ほど前から脚本を書き始め、全編・愛媛ロケにこだわった作品。

バスを貸し切って撮影
バスを貸し切って撮影

初日は、伊予鉄バスを貸し切って撮影が行われた。撮影スタッフは、監督、助監督をはじめ、映像、照明、録音、メイクなど15人程。このメンバーで2週間、長編映画を撮影する。

細部にもこだわりを
細部にもこだわりを

演出も細かい部分までこだわる。

西山将貴監督:
もっと、もっと血がべちゃっとなってていいです。全体的に。乾いてはいるんですけど、こっちらへんもべチャッとなっててほしいな

この日は学校で主人公が教室に入るシーンを撮影。キャストに主人公の心情を細かく伝える。

西山将貴監督:
やらなきゃいけないけど、やりたくないことってあるじゃん?その葛藤はあってもいい

西山監督が書いた絵コンテ
西山監督が書いた絵コンテ

西山監督作品の特徴は、緻密な準備。自ら書いた絵コンテは217枚に上る。ただ、その場でいいアイデアが浮かべば、変化もためらわない。

西山将貴監督:
まばたきしてみたらどうなる?まばたきした方が見えてくるね

主人公エレナ役・シエラ璃砂さん
主人公エレナ役・シエラ璃砂さん

テストとテイクは何度も繰り返された。

西山将貴監督:
カットOK。よきよき、いい感じです

主人公エレナ役・シエラ璃砂さん:
一生できないかと思った。映画を通してこういうことをしたい、こういうことを伝えたいというのが、意思がすごくはっきりしてて、そういうところに、監督としての魅力があると思うし、私もそういう意思についていきたい

西山将貴監督:
いざ、自分が考えていたプランが機能しないんだという風に気づく瞬間とかがあるんですけれども、その時に自分が考えていたことがすごく良かったとしても、それを捨てる勇気というか、捨てて全部ゼロから組み立て直す勇気みたいなものを持たないといけないなという風に思っていて

すべてのシーンを愛媛で撮影
すべてのシーンを愛媛で撮影

すべてのシーンを愛媛で撮影するこの作品。西山監督にはふるさとで初の長編を撮りたいというこだわりがあった。

西山将貴監督:
絶対に愛媛で撮れなかったら、この映画は作ることができないんじゃないかと思っているぐらい、強い意志がありましたね

監督自身の葛藤を主人公に投影

1999年、愛媛・松山市生まれ。幼い頃から映画が好きで、学生時代も毎週映画を観に行っていたという。

西山将貴監督:
一番行ってた映画館が、シネマサンシャインの大街道になるんで

2021年1月に閉館した松山市のシネマサンシャイン大街道。

西山将貴監督:
中学・高校の時とかは、1年間に150本くらいは劇場で見てたんですよ。やばい時は週に4本くらいを大街道で見てて、大街道をずっとぼーっと下を見て歩きながら映画のことを考えるか、このフライング・スコッツマンに来て、座ってコーヒーを飲みながら映画の感想とか考えたり、どっちかだったんで

全編イギリス・ロンドンで撮影した作品
全編イギリス・ロンドンで撮影した作品

映画に没頭した学生時代。新田青雲中等教育学校在学中に地元・松山市北条の海で、初めて短編映画を制作した。高校卒業後は、イギリスに渡り映画を制作。国際映画祭でプレミア上映されるなど、作品は高い評価を受けたが、葛藤があったという。

西山将貴監督:
10代の頃は特に外国映画っぽいね、外国風だね、洋画みたいだと言っていただけることが多くて、当時の自分にとっては、自分が日本映画っぽいものを作れないから、「日本で映画を作るべきじゃないよ、外国に行った方が良いよ」という風に言われているように感じたりとかいうのもあって

モニターを見つめる西山監督
モニターを見つめる西山監督

それでも日本から世界に通用する映画を発信していくことを決めた西山さんは、自身の葛藤を、日本で居場所を見つけていく今回の映画の主人公に投影している。

西山将貴監督:
こういった自分のパーソナルな物語を深く詰め込んだ作品を書いたので、それであったらやっぱり愛媛県に戻ってきて、自分の知っている景色とか見てきたものっていうのを、当時の記憶のまま詰め込んでいきたいなという風に思って

アジア最大級の短編映画祭で最優秀賞を受賞した縦型映画「スマホラー!」
アジア最大級の短編映画祭で最優秀賞を受賞した縦型映画「スマホラー!」

21歳で制作した、スマートフォンで見ることを前提とした縦型映画「スマホラー!」は、アジア最大級の短編映画祭のバーティカルシアター部門で最優秀賞を受賞した。スマホネイティブ世代ならではのアイデア。今回の作品でもスマホを使った撮影が…。

西山将貴監督:
下をこうゆっくり行って、サッと振って、こっち行って、行き切った後戻す、戻して、そこからゆっくりいきながら、体の回転に合わせてこういくのが良いのかなと思って

撮影監督・山本周平さん:
了解です

撮影監督・山本周平さん:
いつも大きいカメラ使ってやってるんで、なかなかないですね。新鮮でした。監督にはビジョンが常にできている感じなので、信頼してついていってる感じですかね

西山将貴監督:
カレーです。きょうは。意外と映画の現場って、ロケ弁をバラバラで食べることが多いんですけど、今回こうやってみんなで集まるっていうのは、なかなかこういう場で話も盛り上がったりするんで、楽しいですよね

鈴木瑠梨アナウンサー:
カレーのお味は?

西山将貴監督:
めちゃくちゃおいしいです

昼休憩時にはリラックスした姿も
昼休憩時にはリラックスした姿も

つかの間の昼休憩で、23歳の素顔が見られた気がした。

「情熱が改めて湧き起こってきた」

最終日の撮影は夜まで続いた。

西山将貴監督:
よーいスタート

自ら血の演出をする西山監督
自ら血の演出をする西山監督

監督が自ら血の演出をする。

西山将貴監督:
カット。今までで一番緊張しました。一番緊張しましたね。こんな緊張するカットないです。うまくいってよかった

そして、2週間にわたる愛媛でのロケは無事に終わった。

映画スタッフ:
カット、OKです。以上を持ちまして、西山組インビジブルハーフ全編終了です。お疲れ様でした

西山将貴監督:
僕の10代の頃の当時のパッションというか、こんな風にして映画を作ってたんだっていうような情熱みたいなものが、改めて自分の中から湧き起こってきたっていうのがあって、それは今回愛媛に帰ってきて達成できたことの1つかなと思います

西山将貴監督:
当時、自分が思ってた焦りとか不安は、実は自分自身の考え方とか見え方が変わると本当は全然そんな松山でもいい映画もたくさん撮れるのに、自分自身が単純に狭い考え方を持ってたんだなって、今回の映画を通して、気付くことができました

映画は2024年末に完成予定。完成後は海外の映画祭をまわり、2025年に公開予定だ。

西山将貴監督:
日本だけではなく、世界の人たちが楽しめる映画を作っていきたいというのは本当にずっと変わらない夢ですかね

(テレビ愛媛)

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