アメリカからの日本への留学生は、新型コロナの影響もあり、8900人以上から124人と99%も激減した。しかし最新の数字では、3月に発表された日本学生支援機構による22年度の調査で、21年5月時点でのアメリカ人留学生は1655人まで増加するなど、回復の兆しも見えてきている。

ハワード大学を訪問した岸田裕子夫人(4月17日・外務省撮影)
ハワード大学を訪問した岸田裕子夫人(4月17日・外務省撮影)
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岸田首相の妻・裕子夫人が4月16日から18日にかけて訪米し、バイデン大統領の妻・ジル夫人との懇談やバイデン大統領と面会したことが注目されたが、裕子夫人が日本に留学経験のある学生らと交流したハワード大学訪問も、アメリカの学生達に日本をアピールする重要な機会になった。そして、全米最大の日本語コンテストに参加したおよそ160人の高校生の熱戦は、日米関係の根幹をなす草の根交流の復活に向けた芽吹きを感じさせるものだった。

日本語・日本文化に関するコンテスト「全米ジャパンボウル大会」は4年ぶりに対面方式が復活
日本語・日本文化に関するコンテスト「全米ジャパンボウル大会」は4年ぶりに対面方式が復活

裕子夫人が訪れたハリス副大統領の母校

17日、ジル夫人と懇談した後に裕子夫人が向かったのが、首都ワシントンにあるハワード大学だ。日本ではあまり知名度は高くないが、1867年に設立された私立大学で、教育や行政等の分野で数々の指導者を輩出した名門校として知られる。黒人の学生が多く、公民権運動にも大きな影響を与え、近年ではカマラ・ハリス副大統領の母校としても知られている。

ハワード大学で学生と交流する裕子夫人(外務省撮影)
ハワード大学で学生と交流する裕子夫人(外務省撮影)

現在ハワード大学では、日本語学習の人気が高まっていて、約120人の学生が履修しているという。裕子夫人と交流した学生は3月に外務省が実施する「カケハシ・プロジェクト」で訪日していて、東京と新潟に滞在したこともあってか、目を輝かせて訪問を迎えていた。

ハワード大学の学生達は日本での思い出や、日本語を学ぶきっかけを話していた(外務省撮影)
ハワード大学の学生達は日本での思い出や、日本語を学ぶきっかけを話していた(外務省撮影)

「日本語はハワード大学で4番目に大きい語学プログラムです。毎学期、勉強する学生が増えています。留学や文化活動や、卒業後に日本語を生かせる活動に関心を持っています。私たちは日米の架け橋の役割を果たしていることを誇りに思っています

留学中の日本での勉強や、課外活動で着物や武道を体験した話などを発表した後に、学生の1人はこのように「日本語を学ぶ意義」を強調した。

裕子夫人は日本語を学ぶきっかけや好きな食べ物などを質問したが、学生から「たこ焼き」「お好み焼き」「ラーメンが大好きです!」などの声が日本語で挙がると拍手や歓声が沸き起こった。アメリカの学生が新型コロナの感染拡大による日本の水際対策によって、留学先を変更するなどした結果、先輩から後輩に引き継がれる経験の不足による留学希望者の減少が起きたほか、大学自体が日本との交換留学を停止するなどの措置をとったケースもある。学生達にとっては日本の魅力を発信し、再確認する良い機会にもなったようだった。

全米の高校生が集結した「ジャパンボウル」

さらに、13日~14日にかけてワシントン近郊のメリーランド大学で開催されたのは、全米の日本語を学ぶ高校生が参加する、最大級の日本語・日本文化に関するコンテスト「第31回全米ジャパンボウル大会」だ。

決勝ラウンド進出に喜ぶ高校生達
決勝ラウンド進出に喜ぶ高校生達
決勝ラウンド進出高校が書かれたボード
決勝ラウンド進出高校が書かれたボード

2019年以降は新型コロナの影響でオンラインでの開催だったが、4年ぶりに対面式で行われた。2023年はおよそ160人の高校生が参加した。

審査は3つのレベルに分かれて行われたが、14日午後に決勝ラウンドに残った各ランクの3組が発表されると、通過した学生達からは大歓声が上がっていた。

早押し問題では、真剣な表情で生徒がボタンを握りしめていた
早押し問題では、真剣な表情で生徒がボタンを握りしめていた

「日本の歴史を勉強する時に戦国時代を学びました。織田信長は本当に面白いと思いました」
「日本の讃岐うどんについて勉強しました。日本に行ったらぜひ食べてみたいです」
「三人寄れば文殊の知恵というので、頑張ります!」

流ちょうな日本語でチーム紹介をしたそれぞれの学生達だったが、コンテストの内容はなかなか凝ったものも多かった。

日本の飲食店の名前を選択する問題も
日本の飲食店の名前を選択する問題も

「鮪(まぐろ)」という漢字を書かせる問題や、写真から場所を答える問題。新幹線の駅名なども取り上げられたほか、今年日本が議長国を務めるG7首脳会議に関連して、ご当地ネタなども盛りだくさんだった。ちなみに、岸田首相が増額した予算についても説明が出たが、残念ながら「防衛費」と回答できたチームはいなかった。

日本政府が増額した予算を選択する時事問題も
日本政府が増額した予算を選択する時事問題も

優勝チームには大歓声と拍手も

優勝をかけた決勝ラウンドでは、その場に残れなかった高校生達も見守る中で行われたこともあり、回答のたびに大きな拍手も生まれた。

ことわざをお題にした創作作文も出題された
ことわざをお題にした創作作文も出題された

特に、お題を出されて答える創作作文については、「住めば都」や「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」などのことわざを使う問題などもあり、流ちょうな日本語を駆使して高校生達は回答していた。

難問に正解すると会場からは歓声と大きな拍手が起きた
難問に正解すると会場からは歓声と大きな拍手が起きた
創作作文などは審査員がマルバツで判断。
創作作文などは審査員がマルバツで判断。
熱戦の様子を携帯で撮影する生徒もいた
熱戦の様子を携帯で撮影する生徒もいた

今回最も高いレベルのラウンドで優勝したのは、カリフォルニア州のクパチーノ高校の3人だった。優勝直後に話を聞いた。

クパチーノ高校の優勝が発表された瞬間
クパチーノ高校の優勝が発表された瞬間

――優勝した今の気持ちは?

私たちはたくさん勉強したので、本当にうれしいし、他の人たちを誇りに思います。

優勝したことにとても驚いています。この1年間は勉強も含めて本当に大変でしたが、最後に報われました。

表彰式では大きな拍手が優勝チームに送られた
表彰式では大きな拍手が優勝チームに送られた

優勝チームのメンバーに将来の夢を聞いてみたところ、「ロボット工学の分野で働きたい」との答えや、「私の夢は何なのか、今のところよくわかりません。ただ、何でもやってみたい」とまだ悩んでいる回答のほか、「自分の未来はわからないけど、世界の未来のために、みんなが平和に暮らして、お互いに学び合えるようになればいいなと思います」などと大人顔負けのコメントもしていた。

優勝チームを含む、決勝ラウンドに残った選抜メンバーは今後、政府のカケハシ・プロジェクトにより日本に招待されるという。

クパチーノ高校の学生はYouTubeなどで勉強していると教えてくれた
クパチーノ高校の学生はYouTubeなどで勉強していると教えてくれた

「学習レベルの高さに感銘した」

今回のジャパンボウルで審査員も務めた、在米日本大使館の相航一公使にも話を聞いた。相氏は高校生達の学習レベルの高さや、会場の活気を嬉しそうに話したほか、日本大使館としてもアメリカの若者に日本の事をさらに知ってもらうために努力していくと答えた。

審査員も務めた在米日本大使館の相航一公使
審査員も務めた在米日本大使館の相航一公使

――31回目のジャパンボウルの感想は?

在米日本大使館・相航一公使:
皆さんの学習のレベルの高さに非常に感銘を受けましたし、先生方や生徒の努力がこうやって形なって我々が見ることができるのは大変嬉しい経験でした。
アメリカの若者の中での日本語だけでなくて、その背景にある文化や日本の社会、日本全体に対する関心を引き続き喚起していく事に関してはジャパンボウルの意義は大きいので、コロナを経て再び対面式で実現できたことは良かったと思います。

――コロナの影響で留学生の減少も問題になっていたと思うが、今後の取り組みは?

在米日本大使館・相航一公使:
日本に留学して、日本で生活しながら勉強する機会をつかむ生徒さんが増えるといいなと我々も思っていますし、それに向けてそれを後押しするような事業についても広く広報して、多くの方にチャンスをつかんでもらいたいと思います。
また、JETプログラム(外国青年招致事業)などを通じて、大学で学ぶ以外にも、日本への関心を単に持続するだけでなく、日本で生活をして日本のことを知ってもらう若者が増えることを、これからも大使館としても努力していきたいと思います。

真剣な表情で問題に挑む学生達
真剣な表情で問題に挑む学生達

――来年に期待することはありますか?

在米日本大使館・相航一公使:
今年このレベルを見てしまうと、このまま活気あるものとして続くことを願うばかりで注文することはありません!

会場では和太鼓も披露された
会場では和太鼓も披露された

激減した留学生の回復にどうつなげていくのかは、日本にとって、そして日米関係にとっても今後の大きな課題だ。また、ジャパンボウルをはじめ、草の根の活動を通じて、さらに日本に関心を持ち、将来の日本との架け橋になるアメリカでの若者達への支援も重要となっていく。

両国の絆をさらに強めるためにも、そして相互理解をさらに深めるためにも、日本政府が民間も含めて、どのような支援策を行っていくのかも注目されることになる。

(FNNワシントン支局 中西孝介)

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。